よりどりインドネシア

2022年02月23日号 vol.112

続・インドネシア政経ウォッチ再掲 ~第7~12回~(松井和久)【全文無料公開】

2022年02月23日 11:37 by Matsui-Glocal

筆者(松井和久)は、2021年6月より、NNA ASIAのインドネシア版に月2回(第1・3火曜日)に『続・インドネシア政経ウォッチ』を連載中です。800字程度の短い読み物として執筆しています。

NNAとの契約では、掲載後1ヵ月以降に転載可能となっています。すでに読まれた方もいらっしゃるかと思いますが、過去記事のインデックスとしても使えるかと思いますので、ご活用ください。今回の掲載記事は以下の通りです。

  • 第7回(2021年9月7日)  アフガニスタン政変の影響
  • 第8回(2021年9月21日) インドネシアでの外資は主役交代なのか
  • 第9回(2021年10月5日) アジス国会副議長の逮捕
  • 第10回(2021年10月19日)第2 0回国体、パプア州で開催
  • 第11回(2021年11月2日) デジタル銀行は戦国時代に
  • 第12回(2021年11月16日)高速鉄道建設は止められない

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『NNA ASIA: 2021年9月7日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第7回

アフガニスタン政変の影響

大方の予想より早く、8月15 日、アフガニスタンでは反政府勢力タリバンが全土を掌握し、ガニ政権が崩壊した。インドネシア政府は空軍機をカブールへ飛ばし、8月21 日、外交官を含む計33 人をジャカルタへ連れ戻した。今のところインドネシアは、この政変をアフガニスタンの国内問題とし、新政権を承認するか否かの態度を保留する一方、テロリズム対策の観点から、タリバン台頭の国内イスラム過激派への影響を警戒している。

なかでも、2002 年にバリ島爆弾テロ事件を起こし、08 年に活動禁止となったイスラム過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)関係者の動きを警戒している。JIはかつてメンバーをアフガニスタンへ送り、タリバンと関係の深いアルカイダによる軍事訓練を受け、現在もパレスチナやシリアへの支援を名目に集めた資金をアルカイダ系のヌスラ戦線へ貢いでいる。実際、JI関係者の会員制交流サイト(SNS)上ではタリバン勝利を祝う話題が盛り上がっていた。インドネシア政府は8月17 日の独立記念日のテロを警戒し、ランプン州、南スラウェシ州マカッサル、中ジャワ州の各地で合計53 人のテロリスト容疑者を逮捕したが、そのうち50 人がJI関係者だった。

JI関係者以外に政府が警戒するのはイスラム国(IS)信奉者である。今年3月にマカッサルの教会で爆弾テロを起こした過激派ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)がその代表的組織である。彼らは、タリバンと対立するイスラム国ホラサン州(ISISK)とつながっており、アルカイダとの人的交流が切れたJIとは対照的に、アフガニスタンへメンバーを送り込む。アフガニスタン前政権は、ISIS-K に加わろうとしたインドネシア人8人を拘束し、インドネシアへ強制送還する予定だったが、今回の政変で彼らは刑務所から逃げ、行方不明となった。

親タリバンのJI関係者とISIS-K につながるIS信奉者とは本来対立関係にあるが、インドネシアではイスラム過激派とひとくくりにされ、明確に区別されていない。政府は、今回のアフガニスタン政変という機会を利用して、テロ対策を名目に、政府批判全般を抑えこむ構えも見せている。

 

NNA ASIA: 2021年9月21日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第8回

インドネシアでの外資は主役交代なのか

投資調整庁(BKPM)は7月、2021 年上半期(1~6月)の投資実績を発表した。それによると、国内投資が前年同期比3.5%増、外国投資が同16.8%増、全体で同10.0%増の442 兆8,000 億ルピア(約3兆3,950 億円)で、通年目標の49.2%を達成した。国・地域別の外国投資実施額はシンガポール、香港、中国、オランダ、韓国の順で、日本は6位だった。外資の主役は日本から韓国や中国へ交代していくのだろうか。

中国からの投資額が大きいのは、西ジャワ州で建設中の高速鉄道と中スラウェシ州、東南スラウェシ州、北マルク州でのニッケル製錬への投資による。21 年上半期は中国からの投資の67.5%がこの4州へ集中する。韓国からの投資では東ジャワ州での化学関連投資のほか、20 年から西ジャワ州で自動車関連の大規模投資が続く。ちょうど、日本からの自動車関連投資が20年以降急減したのと入れ替わる形である。この減少は日本からの投資全体の減少に響いている。

一方、近年、インドネシア政府が工業団地への投資誘致に力を入れる中ジャワ州では、国別投資実施額の1位は過去5年以上連続で日本である。ただ、その中身は製造業ではなく、バタン県とジュパラ県に建設中の石炭火力発電所への投資がほぼすべてを占める。石炭火力発電所については、脱炭素の機運が高まるなか、住民による反対運動が続いている。対照的に、韓国から中ジャワ州へは、繊維、製靴など労働集約型製造業投資がコンスタントに続いている。

日本からの投資は、製造業から商業・不動産など非製造業へ移る傾向を見せている。投資実施総額に占める製造業の比率は16 年の75.9%から21 年上半期は41.7%へ低下した。中国もインフラなど非製造業への投資が比較的多いが、今後、リチウム蓄電池など電気自動車(EV)関連の製造業投資が続く見込みである。また韓国はEV用電池工場建設を開始するなど製造業投資を積極的に進めている。

日本の製造業投資と技術移転がインドネシアの産業高度化を支える、といった視点はもう時代遅れなのだろうか。日本にとってインドネシアは日本製品の単なる市場に過ぎないのか。日本の対インドネシア投資戦略は見えないままである。

 

『NNA ASIA: 2021年10月5日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第9回

アジス国会副議長の逮捕

9月24 日、汚職撲滅委員会(KPK)はアジス・シャムスディン国会副議長を逮捕した。直接の容疑は、中ランプン県の特別配分金(DAK)汚職捜査を止めるためのKPK捜査官の買収である。当初、アジス氏は「コロナ陽性で自宅待機中」として出頭を拒否したが、PCR検査で陰性が確認されて逮捕された。

アジス氏は2004 年から国会議員を4期務め、19 年10 月、政治・治安担当の国会副議長に就いた。20 年10月5日の雇用創出法(オムニバス法)採決の際には、同法に反対する民主党の発言時にマイクをオフにしたことが物議を醸した。

政党は与党ゴルカル党に所属し、14 年から副党首を務める。17 年に当時のスティヤ・ノヴァント党首が電子身分証明証(e―KTP)汚職で逮捕されて辞任する際、後任に副党首のアジス氏を指名したが、他の党幹部に拒否されて実現しなかった過去がある。アジス氏自身にも汚職のうわさは絶えなかったが、党内で政治・治安部門を押さえ、有力政治家多数のスキャンダル情報を握るアジス氏に刃向かうのは難しかった。

アジス氏はKPKのロビン捜査官を買収して政治家の汚職容疑をもみ消し、その見返りに賄賂を受けとる手法を多用した。中ランプン県の事例以外でも、政府内の役職を「売買」したタンジュンバライ市長にも、汚職で勾留中のクタイ・カルタヌガラ県知事にもロビン捜査官を紹介し、汚職容疑を覆そうとしてきた。

ちょうど2年前の19 年9月、国会はKPKの権限が強すぎるとしてKPK法を改正し、KPKへの監視を強めたが、KPK弱体化との強い批判を受けた。この法改正の立役者が国会第3委員会委員長(当時)だったアジス氏だった。その彼が弱体化させたはずのKPKに逮捕されたのは強烈な皮肉である。

ゴルカル党は当初、副党首であるアジス氏を擁護したが、逮捕を受けて後任の国会副議長をすぐに選出した。汚職イメージを払拭しないと、次期大統領を狙う党首のアイルランガ調整相(経済担当)に悪影響が及ぶからである。他方、アジス氏に汚職スキャンダルを暴露される恐れのなくなった政治家も多かったはずで、政治の季節を前に、アジス氏は切られた可能性もある。

 

『NNA ASIA: 2021年10月19日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第10

2 0回国体、パプア州で開催

10 月2~15 日、第20 回インドネシア国民体育大会(国体)がパプア州で開催された。当初、2020 年開催予定だったが、新型コロナ禍で延期となった。国体では56 種目に7,039 人の選手が参加、パプア州からは923 人と州別で最多だった。過去20 回のうち9回は資金力のあるジャカルタで開催されており、初めてのパプア州での国体開催自体が誇れるものと言える。

新型コロナ禍と治安への不安から、パプア州での開催に否定的な意見も多かった。州都ジャヤプラ市は、飲食業営業が午後8時までに制限される社会活動制限(PPKM)レベル3である。感染対策にはアプリが活用されたが、10 月11 日時点で選手ら83 人の感染が確認されたほか、5日間の隔離前に失踪して自州へ帰還した者が7人もいたことが明らかになった。さらに、9月には山岳地帯で武装勢力による医療従事者殺害事件が起こるなど、依然として治安面への懸念もある。軍・警察は2万人以上を配置し、国体期間中の治安維持を保証した。

それでも国体が強行開催された背景には、パプア州のルカス・エネンベ知事の執念がある。ルカス知事は13 年に初当選後すぐにパプア州への国体招致に動いた。第20 回大会開催地選考は14 年に行われ、バリとアチェを退けて開催を勝ち取った。その後、現在2期目の知事の在任期間中に、各種競技場の新設に加えて、メラウケ空港ターミナルや病院の建設など、国体開催に絡めたインフラ整備に尽力してきた。

パプア州での国体開催は、国体メイン会場の名称をルカス・エネンベ競技場へ改称した知事自身の政治的野心と中央政府の統一国家維持の両方にとって実に有益だった。他方、国体開催の裏では、大学学生寮を選手宿舎とするために学生を強制退去させたり、競技場建設用の慣習地収用で元住民へ賠償金を払わなかったり、といった問題が生じた。

パプア州は以前から国体では強豪だ。今回も女子サッカーで金メダルを獲得し、人々は沸いた。その歓声はほほ笑ましいが、国体開催が必ずしもパプア問題の本質的解決につながるわけではないことを冷静に見ていく必要がある。

 

『NNA ASIA: 2021年11月2日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第11

デジタル銀行は戦国時代に

2020 年以降、インドネシアではデジタル銀行の設立ラッシュが続く。7月30 日付金融監督庁(OJK)令『21 年第12 号』では、デジタル銀行を本店以外の物理的店舗を持たず、電子媒体で事業を行う一般銀行と定義し、新設以外に既存銀行の転換による設立も認めた。外資出資比率は最大99%までとし、払込資本は最低10兆ルピアと定めた。これらの規定は10 月31 日から施行された。

インドネシアでは1995 年ごろからSMSバンキングが開始され、インターネットバンキングやモバイルバンキングが発展してきた。国内初のデジタル銀行はBTPNが2017 年に発表した「Jenius」である。その後、シンガポールの金融最大手D B S 銀行の「Digibank」、バンク・ブコピンの「Wokee」などが続いた。これらと同様の銀行由来のデジタル銀行設立は、バンク・セントラル・アジア(BCA)やバンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)など大手銀行で続いている。

他方、20 年からは、銀行由来以外に、非銀行のデジタル企業によるデジタル銀行設立の動きが活発化した。デジタル企業は、資産規模が少なく経営の厳しい小銀行を買収し、デジタル銀行へ転換させる手法をとる。たとえば、配車・配送サービス大手ゴジェックが子会社を通じて資産規模1兆ルピアに満たないバンク・アルトスを買収してバンク・ジャゴというデジタル銀行へ転換させた。

金融サービスへのアクセスのない人口が4,700 万人、銀行口座のない人口が約1 億人、それでいてスマホ普及率が7~8割というインドネシアは、デジタル銀行の発展潜在性が極めて高く、それを見越した外資が積極的に入り込む。シンガポール資本のショッピーはシンガポールで20 年末に銀行免許をとってほどなくバンク・クスジャトラアン・エコノミーを買収・転換してデジタル銀行シー・バンクを設立した。中国阿里巴巴集団(アリババグループ)傘下の「Akulaku」はバンク・ユダ・バクティを買収・転換してバンク・ネオ・コマースを設立したが、このアプリは国内のデジタル銀行では最多の1,000 万件以上がダウンロードされた。こうした新規デジタル銀行の株価は急騰している。

中銀によると、デジタルバンキングの取引額は21 年9月時点で前年同期比46.72%増の2京8,000 兆ルピアとなり、年末には3京9,000 兆ルピアに達する。銀行取引額もBCAでモバイルバンキングが約9割を占める。新型コロナ禍で対人接触が減るなかで、デジタル銀行にはデジタルトランスフォーメーション(DX)の大きなうねりが押し寄せ、すでに戦国時代の様相となっている。

 

『NNA ASIA: 2021年11月16日付』掲載記事 http://www.nna.jp/

『続・インドネシア政経ウォッチ』第12

高速鉄道建設は止められない

ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道建設は、土地収用の遅れ、楽観的な計画、事業管理能力の欠如などにより、建設費用は当初の60 億7,000 万米ドル(約6,912 億円)から80 億米ドルへ大きく膨らんだ。高速鉄道建設はもともと日本が提案したものだが、途中で中国が割り込み、インドネシア政府の財政支出や債務保証を一切求めないと約束して最終的に勝ち取った。そして、その約束は守られなかった。10 月6日付大統領令2021 年第93 号により、高速鉄道建設への国家予算投入が認められたのである。

高速鉄道建設を担う中国インドネシア高速鉄道会社(KCIC)は中国側とインドネシア側国営企業コンソーシアム(企業連合)との合弁である。インドネシア側が60%を出資するが、コンソーシアムを構成する国営第8農園と国営高速道路会社ジャサマルガの出資が完了せず、他の国営企業も経営不振で資金不足となり、出資額を満たせていない。中国側に出資期限の延期を再三にわたって求めたが、同意を得られず、結局、国家予算による国営企業への資本注入をせざるを得なくなった。インドネシアは今後、10 年の猶予期間を経て40 年間、中国国家開発銀行への債務を返済し続ける。

KCICは経費抑制に努力する。インドネシア国鉄の人材を活用し、中国での研修も中止して人件費を抑える。国営電力会社(PLN)からは最低基本料金で電力供給を受ける。他方、国営第8農園は高速鉄道ルートにある老朽化した農園を整理し、ニュータウン開発で経営危機を脱する予定だったが、その基点となるワリニ駅が不設置となり、高騰を続けてきた地価が急落、開発は夢と消えた。他の駅周辺のニュータウン開発も軒並み縮小となり、鉄道関連の施設だけに限定された。

そもそも、高速鉄道建設は第1次ジョコ・ウィドド内閣の中期計画(2015~19 年)にはなかった。国家戦略事業となったのは16 年である。ジャカルタ=バンドゥン間はわずか142.3 キロ、「トラベル」という乗合自動車が所要2時間で頻繁に行き来する。それを46 分に短縮する国家戦略は何かも、バンドンから先への延長予定も不明のままだ。それでも、高速鉄道建設は止められない。

(松井和久)

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