よりどりインドネシア

2024年03月23日号 vol.162

確定集計結果の発表と新政権へ向けての政局 ~プラボウォ安定政権へ向けての2つの道筋~(松井和久)

2024年03月23日 23:33 by Matsui-Glocal
2024年03月23日 23:33 by Matsui-Glocal

ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領の次男カエサン氏が党首を務めるインドネシア連帯党(PSI)の票のみが異様に増える現象が起こり、票集計アプリSirekapの不正疑惑が高まった後、総選挙委員会(KPU)は3月6日から集計結果をウェブサイトに載せなくなった。

その状態がずっと続くなか、KPUは予定通りの3月20日、正副大統領選挙や国会議員選挙の確定集計結果を発表した。パプア2州からの最終確定結果が当日の朝にジャカルタのKPUへ届けられ、Sirekapの不正疑惑も解消していない状況で、この発表された確定集計結果は信用に値するものなのかどうか、という疑問は払拭できない。

総選挙委員会(KPU)による確定集計結果発表の様子。(出所)https://lampung.rilis.id/Politika/Berita/Hasil-Pilpres-2024-PrabowoGibran-Unggul-dengan-96214691-Suara-okK571c

それでも、総選挙委員会(KPU)が発表した確定集計結果は、2月14日の投票終了後に民間調査会社各社が発表したクイックカウントの結果とほぼ同じであったといってよい。リアルカウントと称される確定集計結果が、サンプル調査に基づくクイックカウントによって「まあとりあえず信用できそう」と思われているのが興味深い。

確定集計結果によると、正副大統領選挙では、プラボウォ=ギブラン組が得票率58.6%、9,630万3,691票を獲得して当選となった。次点はアニス=ムハイミン組で得票率24.9%、4,097万1,726票であり、ガンジャル=マフド組は同じく16.5%、2,704万1,508票に留まった。プラボウォ=ギブラン組は全国38州のうち、アチェ州と西スマトラ州を除く36州で勝利、完勝した。ちなみに、アチェ州と西スマトラ州では、アニス=ムハイミン組が50%以上の得票率を記録した。なお、各組の州別の得票状況の分析は後述する。

また、国会議員選挙の政党別の確定集計結果も発表された。第1党となったのは闘争民主党(PDIP)で得票率16.7%、2,538万7,278票を獲得した。以下、ゴルカル党、グリンドラ党、民族覚醒党(PKB)、ナスデム党、福祉正義党(PKS)、民主党、国民信託党(PAN)の順で、これらの8政党は法定最低得票率の4%を上回ったため、国会で議席を獲得した。他方、開発統一党(PPP)やインドネシア連帯党(PSI)は、国会で議席を得ることができなかった。後ほど、Kompas紙による政党別議席獲得予想数を踏まえた分析を試みる。

正副大統領選挙に敗れたアニス=ムハイミン陣営とガンジャル=マフド陣営は、構造的かつ組織的で大規模な選挙不正を追及すべく、国会でのアンケート権確立と憲法裁判所への申立を行う準備を進めてきた。他方、両陣営のなかには、ナスデム党や開発統一党など、ジョコウィ大統領側からの閣僚ポストオファーなどを受けて、アンケート権確立に消極的な態度を示している。また、国会第一党となる闘争民主党は、ジョコウィ後をにらんで慎重な動き方をしている。

ジョコウィ後をにらんでという意味は、今後のジョコウィ氏とプラボウォ氏との力関係を見通すためである。前号の拙稿でも指摘したが、構造的かつ組織的で大規模な選挙不正の追及の矛先となる「敵」は、それの上に乗って当選したプラボウォ氏ではなく、ジョコウィ大統領とその家族である。アニス=ムハイミン陣営とガンジャル=マフド陣営からは、不思議なほど、プラボウォ氏個人への批判は一切出ていない。一部には、プラボウォ氏の大統領当選は認めても、憲法裁の恣意的と見られる判断で立候補できたジョコウィ大統領の長男であるギブラン氏の副大統領就任は認められないとの声も上がっている。

新政権後も影響力を保持したいジョコウィ氏とプラボウォ新大統領との「蜜月」状態は長く続くことはない、と見られるのである。プラボウォ新政権が、ジョコウィ大統領の考える安定政権とは異なる、ジョコウィ外しの安定政権を目指す可能性もある。後ほどそのあたりの分析も続けてみたい。

●正副大統領選挙確定集計結果を読む

前述のように、正副大統領選挙はプラボウォ=ギブラン組が得票率58.6%で、決選投票なしで完勝した。この58%という数字は、投票日前にメディア関係者へ出回っていた数字とほぼ同じであり、その数字が本当に信用できるものかどうかは定かではないものの、少なくともジョコウィ大統領周辺の思惑通りの展開になったといえるかもしれない。

表1:州別にみた正副大統領候補3組の得票数と得票率

(出所)各種メディアソースを参考に筆者作成。

表1は、州別にみた正副大統領候補3組の得票数と得票率である(無効票は含まれず)。プラボウォ=ギブラン組は全国38州のうち36州で50%以上の得票を獲得し、危なげない勝利となった。同組が負けたのはアチェ州と西スマトラ州の2州で、これらはアニス=ムハイミン組が勝利した。また、ジャカルタ首都特別州では、プラボウォ=ギブラン組が僅差でアニス=ムハイミン組に勝利したが、得票率は50%に満たなかった。

勝敗のカギはやはりジャワ島だった。本来ならばイスラーム勢力が強くアニス=ムハイミン組の支持基盤と見られた西ジャワ州やバンテン州で、またガンジャル=マフド組を支える闘争民主党(PDIP)の牙城のはずの中ジャワ州や東ジャワ州で、いずれもプラボウォ=ギブラン組が予想以上の差をつけて勝利した。従来の選挙と同様、イスラーム勢力の影響の強いスマトラでアニス=ムハイミン組が、非イスラーム勢力の影響の強いバリやパプアでガンジャル=マフド組が、それぞれそれなりの票を獲得したが、プラボウォ=ギブラン組には及ばなかった。そして、カリマンタンとスラウェシでは、プラボウォ=ギブラン組が圧倒的に強かった。

前回2019年の大統領選挙では、当選したジョコウィ=マルフ・アミン組が50%以上を得票したのは全国34州中21州に留まり、政権安定のために、敵対するプラボウォ氏とグリンドラ党を与党へ引き入れるというアクロバティックな手を打った。その意味で、今回のプラボウォ=ギブラン組は、前回のジョコウィ=マルフ・アミン組をはるかに上回る圧勝・完勝だったのである。

なお、表1の「その他」についての若干の疑問を付記する。実は、この「その他」はメディアで公表された確定集計結果のカテゴリーには存在しない。総選挙委員会(KPU)が総計として発表した数字と全38州の結果の合算数字が一致せず、その残差を筆者が「その他」としたものである。筆者は「その他」の数字は海外投票分ではないかと推察した。そこで、メディアに発表された海外投票分の数字と比べると、数字が一致しないのである。

具体的には、3月19日付アンタラ通信が「海外投票分3月18日集計完了」として報じた数字は、アニス=ムハイミン組が12万5,110票、プラボウォ=ギブラン組が42万7,871票、ガンジャル=マフド組が11万8,385票だった。他方、「その他」ではそれぞれ12万4,950票(160票減)、51万7,871票(9万票増)、11万9,015票(630票増)となっている。今回は、クアラルンプールなどで不正があったとの報告もあり、最後の最後まで混乱していたとも想像できるが、それでもプラボウォ=ギブラン組の票が9万票きっかりの差となっているのは本当にただの偶然なのだろうか。

3月19日付アンタラ通信の報じた海外投票分の集計結果。(出所)https://www.antaranews.com/infografik/4017411/hasil-rekapitulasi-suara-prabowo-gibran-menang-di-luar-negeri

(以下に続く)

  • 国会議員選挙結果と議席獲得予想
  • プラボウォ安定政権へ向けての2つの道筋
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