よりどりインドネシア

2023年11月24日号 vol.154

ウォノソボライフ(69):焼き菓子サゴンとお菓子の世界(神道有子)

2023年11月24日 02:04 by Matsui-Glocal
2023年11月24日 02:04 by Matsui-Glocal

今年はインドネシアでは雨季が遅れに遅れ、「気温が高くなるけれど通常なら雨が降るからさほど暑さは感じない」という時期にもカンカン照りだったために各地で暑い暑いとの声が聞かれました。これほど雨季が遅れたことはこの何年でもなかったことなので、今後の水不足や農業への影響が懸念されています。

そして、日本でも今年は相当な暑さが秋になっても長引いたと聞きました。この調子では来年以降はどうなってしまうのだろう・・・とついつい考えてしまいます。そんななか、つい先日日本の創作系アートイベントにて食中毒が発生したとの報道を目にしました。マフィンなどの焼き菓子を傷んだ状態で販売したとのことで、杜撰な管理、異常な暑さなどの要因が重なったのではないかといわれています。

そのなかで印象的だったのが、「健康志向で砂糖を通常の半分以下の量にして作っていた」という点でした。砂糖の持つ保存性を改めて認識させられるとともに、なるほどインドネシアの炎天下で路上販売されているお菓子が砂糖たっぷりなのは理に適っているなと、様々なお菓子を思い浮かべてしまった次第です。

ただでさえ、ジャワ人は甘いもの好き、ジャワ料理はとにかく甘い、というのがインドネシアでの共通認識です。椰子砂糖は台所の必需品、お客様には必ず甘い飲み物がおもてなしのマナー、既に砂糖とミルクが入っているインスタントコーヒーにさえ砂糖を加えて飲むという甘味愛の強い地域なので、お菓子も当然甘さ控えめなどということはありません。

健康のためにもう少し砂糖を減らしてもいいのでは・・・と思うこともあったのですが、保存の面を考えると、たしかにこの甘さゆえに守られてきたものもあったのでしょう。そういえばウォノソボの料理については何度か紹介しましたが、お菓子についてはあまり触れていなかったので、今回はウォノソボ名物の焼き菓子とともに、当地の生活で欠かせないお菓子の世界の一部をお届けできればと思います。

●生活で出会うお菓子たち

インドネシアでは移動屋台、行商などで飲食物を販売する人が多く、比較的いろんな場所で軽食を買うことができます。特にこちらの学校には給食の制度がなく、児童生徒が小遣いで休み時間に買い食いをすることが一般的。そのため学校の周囲にはそうした軽食を販売する業者が集まりやすくなっています。また、市場や広場など、とにかく人が集まる場所ではほぼ必ずそうした軽食を見かけるといえるでしょう。安価でメニューも豊富なので、どこに何が売っているかを覚えれば、気分に合わせて様々なおやつをハントすることができます。

とにかく種類が多いので全てを網羅することはできませんが、身近にあるお菓子をいくつかご紹介してみましょう。

◆ワジック(wajik

まず、ジャワの生活で欠かせないお菓子がこれ、ワジック(wajik)です。

餅米とココナッツミルク、そして椰子砂糖で作られています。もちもちしていて甘く、ぼた餅のような食べ応えのある一品です。これがなぜ欠かせないのかというと、お祝いの席で必須のメニューだからです。結婚式や割礼式などに招かれて行くと、まずは席に通されてお茶と軽食を振る舞われ、その後にご馳走を出されます。その軽食の場所に必ずあるのがワジック。大抵は一口大にカットされてビニールに包まれたものが山積みになっています。

お祝いごとを主催する家ではこのワジック作りが作業の序盤にありますが、これが結構な力仕事なのです。大鍋で材料を水気が無くなるまで混ぜていくのですが、どろっとしてきた餅米を焦げ付かないように混ぜ続けなければならず、何人かが交代で行います。充分水気が飛んだら笊で綺麗に成形して冷まし、カットして完成です。

冠婚葬祭のほかにも断食明け大祭など、とにかくめでたいことがあるとこれを用意します。むしろあまり普通のおやつとして売っているところはあまり見ないので、ちょっと特別なメニューなのかもしれません。

◆ブブール・スムスム(Bubur Sumsum

次にこれも欠かせない、ブブール・スムスム(Bubur Sumsum)です。

ブブールとはお粥。お米のほか、豆やトウモロコシなど、穀物を柔らかく煮込んだとろとろした食品のことを指します。スムスムは骨髄で、それだけを聞くとギョッとしますが、米粉から作られたブブールが骨髄に似ていたためについた名ではないかと思われます。米粉にココナッツミルクや塩を混ぜて煮詰めたブブールに、椰子砂糖とココナッツミルクのタレをかけていただきます。小麦粉の団子が入っていることもあり、甘じょっぱいモチモチとろとろした軽食です。

ブブール類は朝食に食べるものという感覚が普遍的にあるため、鶏粥ブブール・アヤム(Bubur Ayam)は朝から昼にかけてしか売っていなかったりしますが、これもまた朝食枠です。朝、登校中の小学生がこれを買って食べながら学校に行く、といった光景をよく見ます。写真のものは2,000ルピアですが、量に応じて1,000ルピアから買うことができます。ココナッツミルクはとにかく傷みやすいので、これも朝に買ったものを放っておけば午後にはもう変な苦味が出てきてしまうことも。できたてホカホカのものを買ってすぐにいただくのが鉄則です。

ブブール・スムスムは軽食として食べるほかに、お供えものとしても使われることがあります。宗教としてはイスラム教やキリスト教に帰依していても、伝統的な先祖供養や村祭り、また通過儀礼の場などではお供えが欠かせません。お供えの内容はその行事の意味や目的によって変わりますが、そこにブブール・スムスムが登場することがあるのです。そうした側面でもジャワでの生活で重要な意味を持った一品です。

◆グトゥック(Gethuk

個人的に、ジャワのおやつとして強烈にイメージされていたのはこのグトゥック(Gethuk)です。

キャッサバを茹でて潰して砂糖を加えた練り切りのようなおやつで、すりおろした椰子の果肉と一緒にいただきます。キャッサバの素朴な味わいがクセになり、つい、一つ二つと手が伸びてしまうのであまりたくさん買わないようにしています。

私は日本にいた頃にガムランを習っていたのですが、そこでこのグトゥックを題材にした楽曲をやりました。タイトルもそのまま『Gethuk』という、90年代の流行歌です。歌詞の説明でキャッサバを材料にしたお菓子があると聞き、いつか食べてみたいな、と思ったものです。その後機会がありインドネシアのバンドンへ渡ったのですが、そこではグトゥックは見つかりませんでした。バンドンのある西ジャワはスンダ地方であり、グトゥックはジャワのお菓子だからと。バンドンの食べ物も美味しいものがたくさんあり、それはそれは堪能しましたが、その後にジャワに来てグトゥックに出会ったときは何年越しかで夢が実現したことで感慨深くなりました。そのせいか、一時期は毎週のように食べていました。

グトゥックはいつくか種類があり、上記の写真はそのなかでも『グトゥック・リンドゥリ』(Gethuk Lindri)と呼ばれるものです。型に入れてその後に小さく切るため、四角い形をしています。多くは着色料を使って色とりどりにしています。その他に丸めて揚げた『グトゥック・ゴレン』(Gethuk Goreng)もありますが、ここではあまり見ません。

◆チュニル(Cenil

キャッサバは身近で安価な素材であるため、お菓子作りにおいてもよく使われます。もう一つの例がチュニル(Cenil)です。

チュニルはすりおろしたキャッサバやタピオカ粉を砂糖、椰子の果肉と混ぜ、茹でたり蒸したりしてできるおやつです。すりおろしたココナッツと黒糖のような椰子砂糖のソースをかけていただきます。これも様々な種類がありますが、どれももちもちとした食感が特徴です。着色料で赤緑黄色といった鮮やかな色にしているものもあり、まるで小さな宝石箱のような見た目は子供心をくすぐります。

◆プキス(Pukis

インドネシアのおやつとして外国人にも有名なマルタバ(Martabak)はもちろんここでも人気です。マルタバは材料が小麦粉にチョコレートやチーズなど、西洋のパンケーキに似ているので、エスニック料理が苦手な外国人にも受け入れられ易いのではないかと思いますが、そうした人におすすめしたいのがプキス(Pukis)です。

プキスも小麦粉をベースに卵、砂糖、ココナッツミルクなどを混ぜ込んだ生地を焼いたお菓子です。専用の焼き器で作るその半月型の形が特徴で、中にはチョコレートやチーズなどが入っています。また、生地にすりおろしたココナッツを混ぜ込んだバージョンもあり、そちらはココナッツの風味と食感がより感じられる一品です。

ウォノソボではここ数年で西洋風のパンやケーキを売るベーカリーが増えてきました。しかし、そうした店の商品は割高で、ちょっと特別なとき用か富裕層向けになってしまっています。一方でこうした伝統的なお菓子は子供のお小遣いの範囲で少量から気軽に買えるので、変わらぬ人気を保っています。

(以下に続く)

  • ウォノソボ名物サゴン
  • サゴンの制約
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