よりどりインドネシア

2024年04月23日号 vol.164

ウォノソボライフ(73):ウォノソボ出身の著名人たち(2) ~女優シンタ・バヒル~(神道有子)

2024年04月23日 00:54 by Matsui-Glocal
2024年04月23日 00:54 by Matsui-Glocal

インドネシアで最も盛大な祝祭、断食明け大祭レバランが先週終わりました。今は浮き足だった非日常の空気も薄れ、田舎に里帰りしていた人々も皆またそれぞれの生活圏へと帰っていったところです。帰省時期特有の渋滞が解消された一方で、断食月中は姿を消していた飲食販売の移動屋台や行商人も再び通常営業を始め、街はいつも通りの様相を取り戻しています。高騰していた食材の価格も落ち着いてくることでしょう。

帰省シーズンは、普段は都心部で活動している人たちが地元に帰るということもあり、今こんな芸能人がこっちに来てるみたいだよ、といった話も聞かれます。女優シンタ・バヒルもその一人でした。ウォノソボ出身の俳優として全国的に活躍している彼女は、いったいどんな人物なのでしょうか。

●モデル、女優、そして歌手

シンタ・エスティアンティ・バヒル(Shinta Estianti Bachir)、通称シンタ・バヒルは、1986年2月7日生まれの現在38歳、ウォノソボ県はサプラン郡(Kecamatan Sapuran)出身のタレントです。主にモデルや女優業で活動しており、過去には何度か歌手として楽曲をリリースしたこともありました。

身長167 cmと、同世代の一般的なインドネシア女性としては高身長な体格と引き締まったスタイル、そして豊かな胸により「セクシーな女性」のイメージを一貫して掲げています。

本人のインスタグラム(@shinta_bachir86)から引用

高校一年生の頃から地元タブロイド紙にモデルとして起用されるなどの仕事をしていましたが、2009年、マキシマ・ピクチャーズ制作のホラー映画 “Suster Keramas”(洗髪の看護師)に出演すると、いよいよ全国区デビューを果たすこととなるのでした。

インドネシアのホラー映画には、なぜかホラー要素以外にエロス要素を折り込むことが多々あり、“Suster Keramas” でのシンタもセクシー要員としての出演でした。なお本作には日本のセクシー女優である桜木凜も出演しており、日本のAVを好む層に向けた演出が散りばめられています。

物語は、課題のために男友達と共に別荘を訪れた女子大生カイラが主人公。別荘へ至る道中から次々と奇怪な出来事に襲われます。その地には「洗髪の看護師」という怪異があり、決してその名を3回呼んではいけないと教えられました。そんなある日、日本人ツーリストのミチコ(桜木凛)と出会います。ミチコは、かつてこの地に滞在していた父親が世話になったカルミラという看護師を探していました。カルミラに父親の遺品を渡すよう言われていたからです。カイラとその友人たちはカルミラ探しを手伝うことにしますが、消息を追っていくとなんだか不穏な雰囲気に・・・。以前カルミラが働いていたという保健センターが見つかりますが、カルミラはすでに死亡していました。

主人公たちが滞在する別荘のすぐ隣には、AV販売を手掛けているロイ・コナックと、その妻ドリー嬢が住んでいました。このドリー嬢がシンタです。AVが大好きな友人たちはすぐに彼らと仲良くなりました。海外のAVを仕入れてインドネシア語に吹き替えをして販売している彼らですが、その吹き替え担当がドリー嬢。人妻でありながら、性的にオープンでその恵まれたスタイルをも惜しみなく披露するさまに、男子大学生たちは圧倒されてしどろもどろです。デビュー作品とは思えないほどに、シンタの演技は堂々と自信に満ちています。

古い作品なのでこのままネタバレしますが、かつてミチコの父親は、日本に妻子のある身でありながら、甲斐甲斐しく世話をしてくれた看護師カルミラと恋仲になっていました。しかし二人きりで情事に耽っているところを、村の少年に見られてしまいます。少年はそれを他の大人たちに言いふらしました。インドネシアでは、未婚の男女が性交渉をすることは厳しく批判されます。村の客人であったミチコの父は風紀を乱したとしてすぐに追い出され、カルミラも姉たちにより監禁されてしまいます。

このミチコの父とカルミラを引き裂く元凶となった少年は、幼き頃のロイ・コナックでした。はっきりとは言及されていませんが、このときの情事を目撃した経験が、AV販売業に繋がったのではないかと思われます。つまり、カルミラはロイ・コナックを恨んでいてもおかしくなかったのです。ドリー嬢が入浴しているとき、禁忌である「洗髪の看護師」の名を呼んでしまいます。「洗髪の看護師」とは、カルミラが保健センターで働いていた時代のあだ名でした。すぐにカルミラが現れ、ドリー嬢の命を奪ってしまいました。絶命している妻を発見したロイ・コナックは、これはかつてカルミラにした仕打ちの仕返しであると後悔します。失意のなかで、ロイ・コナックもまた、カルミラに命を奪われました。

ミチコの父と引き離されたとき、カルミラは身籠もっていました。実は自身らもミチコの父に恋をしていた2人の姉たちは、カルミラを殺そうとしますが、カルミラはそれを返り討ちにします。生まれた子供をとある夫婦の家の前に捨てたあと、姉らを殺した罪でカルミラは村人たちに追われ、石打ちにされ亡くなってしまいました。その捨てられた子供こそが、主人公であるカイラだったのです。

つまり、カイラとミチコは異母姉妹でした。カルミラは子供と再会することができ、成仏(イスラム教ではなんと言うのが正確なのかわかりませんが、霊がこの世を彷徨うことをやめて天国へ上るというニュアンスです)しました。しかし、殺されたドリー嬢が次の「洗髪の看護師」に・・・とオチがついて物語は幕を閉じます。

ホラーでありコメディでありセクシー要素もある、とよくばりセットな本作ですが、公開当時はそのエロチックさがインドネシア・ウラマー評議会(MUI)により問題視され、カリマンタンでは上映禁止となりました。のちに成人映画であると指定され、観客は身分証明書を提示しなければ鑑賞できませんでした。

この華々しいデビューにより、シンタは続けて同じようなエロチックなホラー映画へと出演していきます。また、コメディ作品、恋愛作品など、幅広く経験を積んでいきますが、いずれもボディラインや肌の出る衣装で、セクシーな振る舞いを求められることが多かったようです。キスシーンもこなしました。

映画だけでなく、TVドラマシリーズや単発の2時間ドラマなど、様々な形態の芝居を経験していきます。演じる役柄には、明るく気が強くセクシーで、物事をハッキリ言って時には感情的に叫び散らすようなものが多く見られます。また、ダンドゥット(インドネシアの大衆音楽のジャンル)歌手、そしてジャンダといった社会的ステータスの人物をよく演じています。

ジャンダ(janda)とは、独身女性を指す言葉ですが、厳密には『一度は結婚したが死別や離婚などの諸事情で再び独り身になった状態』を言います。バツイチと未亡人を合わせたような概念です。キャスティングの際にどういった基準で出演者を決めるものなのか、そのあたりの事情には疎いのでわかりませんが、プライベートのシンタのイメージに近いものがあてがわれているような印象を受けます。シンタは、長いことジャンダである身の上についてインタビューされる機会が多いので、視聴者もジャンダ役としてのシンタを受け入れやすいのかもしれません。

(以下に続く)

  • 女性として、母として
  • 破天荒なヒーロー
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