よりどりインドネシア

2018年01月22日号 vol.14【無料全文公開】

ウォノソボ・ライフ(2) ダウェット24時 〜2人の道化の謎を追え〜(神道有子)

2020年04月18日 13:42 by Matsui-Glocal
2020年04月18日 13:42 by Matsui-Glocal

●デザートから始まる物語

突然ですが、クイズです。これは何でしょう?

ヤシ砂糖で味付けしたココナッツミルクに、パンダンの葉で香りと色付けをした米粉のゼリーを入れたデザート。インドネシアでは割りとポピュラーな部類なのではないでしょうか。氷を入れて、冷たくしていただくのが一般的です。

西ジャワで私が親しんでいたこれはチェンドル(Cendol)と呼ばれていましたが、この辺りではダウェット(Dawet)、または氷が入っていることからエス・ダウェット(Es Dawet)という名前で通っています。

厳密に、チェンドルとダウェットが同じものなのかどうかは分かりませんが、何度も購入していた身としては「同じ味だ」と感じましたし、ジャワ人に聞いても「多分同じだよ」と言っているので、ここではそう仮定します。

ゼリーは麺のような形状のためツルツルと喉越し良く、ココナッツとパンダンの香りでさっぱりとしていて、私の好きなデザートの一つです。

ゼリーが入っていますが、カテゴリーとしては飲み物。持ち帰りの場合は透明なビニール袋に入れてくれて、そこにストローを刺して飲んだり・・・という飲むデザートです。

私はダウェット売りを見かけるたびにいそいそと購入していたのですが、あるとき不思議なことに気がつきました。それは・・・。

●つきまとう2つの影

ダウェット売りは、バイクでの行商タイプや移動屋台タイプなど様々な形態がありますが、なぜか、どのダウェット売りにもスマル(Semar)とガレン(Gareng)の意匠があるのです。

スマル(上写真右)とガレン(上写真左)というのは、影絵芝居ワヤンに登場する人物の名前です。

ワヤンは、ヒンドゥー教がジャワ島で主流だった時代の名残として、主にマハーバーラタやラーマーヤナといったインドの叙事詩を題材とします。

登場人物もインド発祥の神様や戦士が大半ですが、その中でもジャワ・オリジナルの人物群がスマル・ファミリーの4人組です。

スマル・ファミリーは、劇の中盤でコメディを演じて観客を笑わせる道化役でありながら、王族に仕える忠実な従僕たちです。その存在はジャワの哲学を内包していると言われ、それぞれのデザインにも意味付けがなされています。

スマルは、太っちょのお父さん(上写真の一番右)。ガレンはその長子で、まん丸な目と細く折れ曲がった手が特徴です(上写真の右から二番目)。

ジャワではお馴染みな2人ではありますが、でも一体なぜダウェット売りに彼らが?

どこかの企業がチェーン展開しているというなら、共通のマスコットとしてデザインされているのも分かります。しかし、ダウェット売りたちは皆、個人で商売をしているのです。

●名前に隠された意味

こうした疑問をツイッターで呟いたところ、興味深い情報をいただきました。曰く、「SemarとGarengで、略してSEGAR(爽やかな、さっぱりするという意味)だから!」というもの。なるほど!ダジャレ!!

また、同じく略してMARENG(ジャワ語で乾季)の意味も、というお話もありました。どちらにしろ、言葉遊びです。

シャレ好きなジャワ人のこと、たしかにありそうな理由です。そこで私は、行き先で出会うダウェット売りたちに毎回質問してみることにしました。

「どうしてダウェット売りの屋台には、必ずスマルとガレンの絵があるの?」と。

ひょっとして略してSEGARだから?などという誘導尋問はしません。シンプルに、各ダウェット屋さん個人の見解を聞きたかったのです。

ところが、返ってくる答えは、

「うーん、なんでだろうねぇ?」

「ダウェットといったらスマルとガレンというのがお決まりだからさ!理由なんてあるのかな?」

「皆やってるからそうしたんだよ。スマルとガレンを見れば誰でもダウェット売りだって分かるからね。」

といったものばかり。

場所は、街の広場の周囲、市場の裏、村から街へ出る街道沿いなど、まちまちです。また、売ってる方々も、20代くらいの青年や壮年男性、年配の女性など、やっぱりまちまち。

十数回以上、ダウェットを買いながらそんなことを繰り返しました。

ダジャレの理由は浸透していないのでしょうか。それとも、偶然、名前がダジャレになるだけで、他の理由があるのでしょうか。

●ダウェット発祥の地へ

別に一生懸命調べてるわけでもないけど、機会があれば質問する。そんなある日、久々に新しいダウェット売りに出会いました。

いつもの癖で、私は質問します。どうしてスマルとガレンがいるの?

「ああ、それはね、名前を略してSEGARになるからさ。ダウェットのウリはやっぱり爽快さだからね。」

…え?なんとおっしゃいました!?

ついに、SEGARという答えを聞いてしまいました!ネットの情報と現実が一致してしまった!

そのSEGARと答えたのが、こちらのダウェット売りさんです。

実はこれ、ウォノソボではありません。ウォノソボのお隣、バンジャルヌガラ県の建築資材店にあるフードコートで出店してる方でした。

そもそも、ダウェットはバンジャルヌガラの発祥だと言われています。バンジャルヌガラ名物として売り出している店もあります。

たった一件ですが、バンジャルヌガラではSEGARという説が生きていた。でも、それがウォノソボに来ると聞かれなくなってしまう。

その境界はどこなのか。ウォノソボでもSEGAR説を知っている人はいるのかどうか。バンジャルヌガラでのSEGAR説はどの程度の知名度があるのか。

そもそもダウェット売りたちの出自、商売にダウェットを選んだ理由、商売の形態は・・・?? などなど、SEGARを聞いてスッキリするどころか、疑問は渦巻くばかりです。

全然答えは出ていないのですが、困ったことに、ダウェットはいくら食べても飽きないし、スマルとガレンの意匠は可愛くてお気に入りなので、多分これからもジャワで暮らす限りは、このダウェット活動(?)を続けていくのでしょう。

いつかもっとたくさんのデータが集まれば、見えてくるものもあるのかもしれません。

皆さんも、ダウェットを食べる機会があれば、謎に満ちたスマルとガレンに注目してみて下さい。

(神道有子)

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