以下は、2008年6月10~14日に東南スラウェシ州クンダリへ出張したときに食べた、地元料理のお話です。
注文したのは、地鶏のタワオロホ煮込み、シノンギ、茹でホウレン草の3品。これで当時、25,000ルピアでした。
地鶏を煮込むのに使うタワオロホ(Tawaoloho)というのは、森の中に生えているクドンドン(kedondong)の葉っぱの現地語(トラキ語)名ですが、このクドンドンの種類はクンダリにしかないものだということです。
ちなみに、クドンドンは「タマゴノキ」とも呼ばれるウルシ科スポンディアス属の落葉高木で、インドネシアでは一般に、葉っぱではなく、すっぱい味の果実のほうを食べます。このタワオロホを入れた、ややすっぱい薄い味付けのスープに地鶏が入っています。
この地鶏入りスープのお供になるのが、シノンギ(Sinonggi)と呼ばれるサゴヤシ澱粉です。アンボンやパプアではパペダ、南スラウェシ州パロポ地方ではカプルン、とサゴヤシ澱粉の呼び名は地方により異なります。
でも食べ方はほぼ同じで、2本の箸でクルクルッと巻いて、皿の上に乗せ、タワオロホのスープと一緒に食べます。
この食堂、Rumah Makan Aroma Kendariは、当時、クンダリで一番高級なPlaza Inn Hotelのすぐ隣にあります。オープンしたのは2004年で、クンダリの地元料理を出していました。たしかに、昔、クンダリの街中で、シノンギを食べさせる食堂を探したのですが、そのときには、見つかりませんでした。
余談ですが、1996年にパプア州の州都ジャヤプラに行ったときにも、パペダを探したのですが、探し回ったあげく、港の近くの屋台で、汁なしのパペダを見つけて食べました。
シノンギという名の由来については、諸説あるようです。そのうちの一つは、トラキ語のposonggiから来たのではないかという説です。
このposonggiというのは、食べ物をとる道具のことで、箸のようなものです。長さは10センチ程度、表面をなめらかにした竹製です。要するに、サゴ椰子デンプンを容器から取り出す二本の箸のようなものがposonggiで、これが元になって、食べ物全体をシノンギと呼ぶようになった、という説です。
クンダリ地方は、1990年代まで主食の米を隣の南スラウェシ州などから移入していて、ときには飢餓に見舞われることもあったと言います。その時には、シノンギが人々を飢えから救ったと言われています。
1990年代半ばに、JICAの南東スラウェシ州農業農村総合開発計画という名の技術協力プロジェクトが5年以上にわたって行われましたが、それを契機として、クンダリ周辺で新田開発が進み、灌漑設備も整えられて、今では他からの移入なしでも米を賄えるようになりました。
このため、今でこそ、シノンギの役目は減ったと言えますが、それでも、地元食を見直す動きを受けて、シノンギを出す店がクンダリ市内で現れてきた、ということのようです。
パペダもカプルンもそうですが、シノンギもコレステロールのない健康食で、お腹にもたれません。インドネシアには油ぎった料理しかないと思ってらっしゃる方は、ぜひ、インドネシア東部を訪れ、サゴヤシ澱粉の料理を味わってほしいです。インドネシアのおいしいヘルシー料理がここにあるのです。
おまけ:
スラウェシ島の東側、東南スラウェシ州やゴロンタロ州に来ると、タワオロホのように、現地語にオー(o)の音がたくさん聞こえてきます。スラウェシ島の西側のマカッサルなどでの現地語の単語からは、オーのような音はあまり聞かれない音である。たしか、オーのような音は、ハワイなど太平洋の島々でよく聞く音のような気がするのですが、スラウェシ島の西と東がその境になっているのかもしれない、などと考えただけで楽しくなります。
(松井和久)
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