よりどりインドネシア

2023年05月22日号 vol.142

ウォノソボライフ(63):続・バルーンのゆくえ(神道有子)

2023年05月22日 00:33 by Matsui-Glocal
2023年05月22日 00:33 by Matsui-Glocal

先月の話になりますが、今年も無事に断食明け大祭レバランを迎えました。今回はコロナ禍以降の社会活動制限(PPKM)が解除されてから初のレバランということもあり、去年や一昨年よりは帰省する人も多かったようです。普段は見る頻度が少ない県外ナンバーの車両や都会風のファッションの人で溢れ、恒例の渋滞も発生し、ああレバランの風物詩だなという活気を味わうことができました。

さて、ウォノソボのレバランといえば、外せないのがこちらです。

空に浮かぶ色とりどりの熱気球たち。ウォノソボでのレバランと気球の関係については、以前、『よりどりインドネシア』第24号(2018年6月23日発行)にて「バルーンのゆくえ」として書かせていただきました。それ以降、気球を巡る状況は年々変化してきており、今やウォノソボを代表するイベントのひとつとなっています。というわけで今回は、ウォノソボ熱気球界隈の最新情報と、またそもそもの気球を飛ばすという慣習の始まりについてなどの続報をお届けしたいと思います。

●慣習と法律の小競り合い

断食月に入った頃、県知事と副県知事の写真入りのこんな看板がデカデカと県庁前の広場に設置されました。

「覚えておいて!自分勝手に飛ばす気球は危険!全員にとって安全となるように、気球にはロープを付けて。わがまま言うようなら、刑務所行きもあり得ます」と、くだけたジャワ語で書かれています。県知事が『刑務所』を口にすると、くだけた口調であっても圧を感じさせますが、深刻な事情がそこにはありました。

レバランを祝ってお手製の気球を飛ばすという習慣がウォノソボにはありますが、実は気流に乗るとかなり空高くまで舞い上がってしまいます。それが飛行機の航路に入り込み危険だということで、法律で禁止されてしまいました。周知にもかなり力を入れて行われており、みるみる数は減ったのですが、残念ながら今でもイレギュラーな気球を目にすることがあります。

今年の違法な気球の例

2017年には違法に飛ばされた気球の報告が84件、2018年112件、2019年には59件、2020年はコロナ直撃直後のレバランだったためか3件でしたが、2021年には62件とまた増えてしまいました。2022年には38件、そして今年は28件と、増減を繰り返しながら、やはりまだAirNav(国営のインドネシア航空ナビゲーションサービス提供会社)の目指す「ゼロバルーン」には至っていません。

この件数はインドネシア全体のものであり、ウォノソボ以外にもプカロンガンなどいくつかの地域で同じく気球を飛ばす習慣があります。しかし、報告される違法気球のほとんどがウォノソボで発生したものと見られています(2021年の62件のうち50件がウォノソボ)。

インドネシアでは2009年航空法第10条にて、「全ての航空(飛行物体)は国によって管理されなければならない」としています。また、ウォノソボも2016年地方条例第2号34条にて「いかなる人・団体も、気球やそれに相当するものを製作、保管、売買、使用することを禁ずる」としました。これらに違反した場合、最大で懲役2年、5億ルピアの罰金となっています。

これまで、気球が原因の航空事故は起こっていません。しかし、パイロットなどによる報告では上空35,000フィート(約10 km強)にまで達した例もあります。空中に漂う気球がエンジンなどに入りこんでしまえば充分事故の可能性があるため、必死で取り締まっているのです。万が一、国際線のルートに進入すれば、国際問題に発展するのは間違いありません。

ウォノソボでは、県が警察や軍と協力し、見回りや注意呼びかけなどをしています。しかし、長年行われてきた庶民の楽しみであっただけに、根絶するのは難しいものがあるようです。特に時期的にも、ひと月にわたる断食を終え、パーッとめでたいことをしたい気持ちが高まるレバランということもあり、ただの道楽とはまた違った意味合いがあります。

しかしそもそも、なぜウォノソボの人々は気球を飛ばすのでしょうか?

(以下に続く)

  • 始まりは植民地時代
  • ジャワのカッパドキア
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