よりどりインドネシア

2022年06月22日号 vol.120

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第44信:ついに、ホラー映画について(横山裕一)

2022年06月23日 00:01 by Matsui-Glocal
2022年06月23日 00:01 by Matsui-Glocal

轟(とどろき)英明 様

先日、数年ぶりにジョグジャカルタに行きました。マリオボロ通りが観光用に再整備されてから初めてです。歩道も広く綺麗で快適な反面、かつての雑然さが息を潜めて若干寂しさも感じました。しかし、一本路地を入ると昔ながらにナシクチン(Nasi Kucing)のカキリマ(移動式屋台)がずらりと並んでいて感激しました。

ナシクチン屋台

コピ・ジョス

ナシクチンとはバナナの葉に包んだ白米にジャコのような小魚とチリソースなどが乗っかった、まさに「猫まんま」のようなもんだよ、と店のおばちゃんが教えてくれました。屋台に並んだ様々なおかずをいくつか摘んで味を楽しみ、おかずを取ろうと腰を浮かす度に低い屋台の屋根に頭をぶつけて「もう3回目だよ」とおばちゃんに笑われたのも含めて味わい深いひと時でした。締めはトゥグ駅に行ってコピ・ジョスで一服、満足いく夜を過ごせました。

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さて、前回の私の書簡の最後に書きましたが、先月下旬についに初めて劇場でインドネシアのホラー映画を鑑賞しました。作品は観客動員記録を更新中で異例の1ヵ月半にわたるロングラン、本稿を書いている6月中旬でも未だ上映中という大ヒット作『踊り子の村での学生実習』(KKN di Desa Penari)です。

劇場ではウィークデーの夕方にもかかわらず3分の1ほどの席が埋まり、上映中は方々から鑑賞者の悲鳴が聞こえてきました。ストーリー展開も飽きさせず、2時間余りの上映時間を感じさせない作品でした。この作品がなぜこれほどヒットしたのかについては、実はジャカルタの邦人向け情報ウェブサイト『+62』(プラス62)で連載させていただいている『インドネシア映画倶楽部』で書きましたが、ほぼ前回轟さんが言及された内容と同じですので省略します。

この連載は新作上映映画の紹介とともに、映画を通してインドネシアについてより知ってもらえればと書き始めたものです。このため、より多くの人に興味を持って鑑賞してもらうために基本的に作品の良い面のみを紹介することにしています。これは鑑賞者の歩んできた人生や経験、生活環境、趣向によって、同じ作品でも評価、感じ方が大きく異なるためです。これから観ようとする人に対して事前に大きく誘導したくないためでもあります(勿論、これは余りにも・・・と原稿化していない作品も多くありますが)。

映画『踊り子の村での学生実習』ポスター(引用:https://www.mdpictures.com/

その意味で、インドネシアの人里離れた村に残る因襲と伝説をベースに映画化された『踊り子の村での学生実習』は面白く鑑賞できたのですが、実は映画紹介の原稿では正直な個人的感想としてあえて書かなかったことがあります。それはホラー映画でありながら、なぜか私には全く怖さは感じられなかったことです。さらに言うと、昨年末から轟さんが紹介してくれたホラー作品を可能な限りNetflixなどで観たのですが、やはり映像や音声、構成的な効果で驚くことはあっても、恐怖感を味わうまでには至っていないのが正直なところです。

これは作品を貶しているのではなく、作品自体は興味深く鑑賞できています。ただ怖く感じないのは恐らく私個人の性格的な問題かと思われます(笑)。そこで今回はインドネシアホラー映画、轟さんの命名するガドガドホラーについて、「特異な初心者」なりにどこが怖くどこに魅力があるのか、轟さんとは重ならないよう別の視点で、自問自答も含めながら話を進めてみたいと思います。

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初めに申し上げておきたいのは、霊魂や怪奇現象を全く信じないため、いわゆるホラーものを馬鹿にしているわけではないことをご理解ください。むしろ逆で、先月、日本滞在時に観たNHK-BS番組の『ダークサイドミステリー』で1970年代の心霊写真や怪奇現象、UFOといった昭和オカルトブームを特集していましたが、まさに当時小学生だった私はその世代で、水木しげるさんやつのだじろうさんの恐怖漫画を含め非常に興味を持って少年時代を過ごした一人です。数年前、スマランのアンティークショップでインドネシアの妖怪(幽霊?)をイラスト化したシートが売られていたのを見つけ、全国各地に百種類以上の妖怪がいるのに感心した覚えがあります。今思えば、なぜ買っておかなかったんだろうと後悔していますが。こうした子供時代からの影響か、我々の3次元世界以外に精神的な世界、別次元の世界があったほうが面白いかもしれない、科学的に考えても地球の人類と同様な存在が宇宙の別の星にいる可能性がないほうがおかしいのではないかと考えることもあるくらいです。つまり、ホラー映画に対して真摯に向き合って鑑賞したことをご理解いただければと思います。

(⇒ では現在上映中の大ヒットホラー作品がなぜ怖く感じなかったのか・・・)

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