よりどりインドネシア

2022年06月22日号 vol.120

BOP層コミュニティを歩く(2013~2014年)(1):相互扶助によるコミュニティ活動(松井和久)

2022年06月22日 23:59 by Matsui-Glocal
2022年06月22日 23:59 by Matsui-Glocal

以下は、2013年7月に書いた文章です。この頃、いわゆるBOPビジネス支援という業務の関係で、ジャカルタやスラバヤの低所得層(以下、BOP層と記述)のご家庭を訪問することがよくありました。

ちなみにBOPとはBottom of Pyramidの略で、BOPビジネスとは、途上国の低所得者層を対象とし、現地の貧困における諸問題の改善と利益確保の両立を目指す事業活動を指します。

もう10年近く前の話ですが、今、読み返しても、興味深い話が見受けられます。折に触れて、そのいくつかを加筆修正のうえ、再掲していきます。

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●インドネシアのコミュニティ

インドネシアのBOP層の多くが暮らすコミュニティとはどのようなものか。そこで行われている「町内会」的活動は、どのように行われているのか。

インドネシアにおけるコミュニティは、自然村的なものと行政的に作られたものの二つがあるが、両者は必ずしも一致しないため、境界などをめぐって対立が起こることがある。これらのコミュニティはRT(エル・テー)という名で呼ばれ、国家は行政機構の末端に位置づけている。いわば、日本でいうところの町内会に当たるものである。農村部では、集落を表すKampung(カンポン)という名で呼ばれるところもあるが、おおよそ、1つのコミュニティ当たり100世帯程度で構成されている。

これらのRT(町内会)がいくつかまとまって、RW(エル・ウェー)と呼ばれる町内会連合体が構成される。そして、複数のRW(町内会連合体)がまとまって、Desa(村)またはKelurahan(区)が構成される。Desa(村)は、住民が選出する村長による自治が行われるのに対して、Kelurahan(区)は、その上位の県・市政府から任命された区長によって治められる出先機関としての役割を持つ。Desa(村)については、その一つ下位にDusunと呼ばれる区域を配する場合もある。

インドネシア政府が政策や情報などを伝達したり、コミュニティ開発資金を流したりするような場合には、このルートを使うことで、RT(町内会)を通じて末端住民まで到達することになる。

●ゴトン・ロヨン(相互扶助)

インドネシアでは、「ゴトン・ロヨン」という名前のコミュニティにおける相互扶助活動が知られる。狭いコミュニティの中で、そこに属する成員どうしが助け合うという意味であるが、同時に、助け合わなければ、コミュニティが成り立っていかないという事情もある。また、同時に、コミュニティの成員として果たさなければならない義務を行うよう、緩やかに強制されるという側面もある。

コミュニティ・レベルでは、様々な活動が行われる。たとえば、清掃・美化活動、シスカムリンと呼ばれる自警団への参加、乳幼児の定期健診・予防接種、公衆トイレ兼洗濯場の建設、選挙公報、奨学金やコミュニティ開発資金の紹介などである。コミュニティの成員の冠婚葬祭や子供の割礼のお祝いなども、コミュニティ全体で行う場合が多い。

コミュニティの公衆水場(MCK)。沐浴場兼洗濯場兼トイレ

清掃・美化活動や自警団などへは、通常、コミュニティ成員は、当番制または輪番制で、必ず参加しなければならない。しかし、最近では、一定額の資金を支払うことで、これらの活動への参加義務が免除される場合もあるようである。

コミュニティにおける清掃活動、自警団、その他活動の費用は、コミュニティに属している人々が毎月支払う会費などから賄われるのが一般的である。筆者が現在属しているスラバヤの町内会では、1ヵ月に5万ルピア支払っているが、いわゆるBOP層に属する一般家庭は1万ルピア程度で、成員の所得状況によって負担する額は異なる。

ゴトン・ロヨンといえば、一般にコミュニティ成員間の美しい相互の助け合いのような印象を与えているが、実際には、それを果たさないと他のコミュニティ成員から白い目で見られ、最悪の場合には「村八分」に遭うこともある。その意味で、コミュニティの成員として、義務を果たさなければならないという側面も併せ持つことになる。コミュニティ内の他人がみなそれを行っている以上、自分だけがそれを免れることはできない、という意味での緩やかな強制である。

以下では、コミュニティ成員に大きな負担を強いることなく、コミュニティの活動を支える資金を生み出すある知恵を紹介してみたい。

(以下に続く)

  • ジンピタン(Jimpitan)
  • BOPビジネスへの示唆
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