よりどりインドネシア

2021年04月08日号 vol.91

カリマンタンの森を守るために立ち上がる若者たち ~スマルニ・ラマンさんの活動~(松井和久)

2021年04月08日 17:44 by Matsui-Glocal

グローバル・ランドスケープ・フォーラムという、景観アプローチに基づいた持続的な土地利用に関する国際フォーラムがあります。このフォーラムは4,400の機関、約19万人の個人が参加する世界有数の規模の国際フォーラムで、国際林業研究センター(CIFOR)が中心的な役割を果たしています。

このフォーラムでは毎年、「地球を回復させる16人の女性たち」(16 Women Restoring the Easth)を選出していますが、2021年の16人のなかにひとりのインドネシア人女性が選ばれました。今回は、そのスマルニ・ラマン(Sumarni Laman)さんという24歳の若者に焦点を当てたいと思います。

地球を回復させる16人の女性たち。スマルニ・ラマンさんは3段目の左から2番目。(出所)http://www.fao.org/gender/news/detail/en/c/1380771/

スマルニ・ラマンさんは現在、ラヌ・ウェルム財団(Ranu Welum Foundation)というNGOで広報担当をしながら、2019年から財団のYouth Act Centerのコーディネーターを務め、若者の活動を率いる若きリーダー役となっています。ラヌ・ウェルム財団は、中カリマンタン州のダヤック族出身の女性たちによって設立され、中心メンバーのほぼ全員が女性という団体です。ラヌ・ウェルム財団には英語のホームページ(http://www.ranuwelum.org/)がありますので、興味のある方は参照してみてください。

ラヌ・ウェルム財団は主張します。我々は無力ではない。我々は土着の知恵と近代技術を組み合わせて、文化を維持し、森を守り、ダヤック土着の権利のために闘う、と。この主張のもと、地元の若者たちのエンパワーメントを行う活動を行っています。チームメンバーには映画制作者、社会起業家、英語教育者などが含まれていますが、スマルニ・ラマンさんはやや異色です。彼女は、幼い頃から森林火災の現場で実際に消火活動にあたってきた経験があり、現在は、若者たちと火災跡地での植林を進めています。

今回は、BBCやTEMPOに掲載されたスマルニ・ラマンさんに関する記事を参考にしながら、環境破壊が起こっている現場でそれを食い止め、土着文化・慣習を守り続けようと奮闘し続けている若者たちの存在に目を向けていきたいと思います。

なお、ダヤック族と一般に呼ばれていますが、これは、植民地政府(オランダ、イギリス)がボルネオ島内陸部(インドネシア領カリマンタン、マレーシア領サバ・サラワク、ブルネイを含む)の様々な種族を総称して名付けたもので、ダヤック族という単一種族が存在するわけではありません。本稿では、カリマンタンの土着民を指す用語としてダヤック族という表記をします。

●スマルニ・ラマンさんの生い立ち

スマルニ・ラマンさんの生まれ故郷は、中カリマンタン州グヌンマス県のカンプリ村です。家の裏には森があり、まだ乳幼児の頃から森で遊んでいました。太ももぐらいまである大きな雷魚(ikan gabus)を素手で捕まえたり、雨上がりに大木の間に現れたキノコを採ったり、ボートの上からテナガザルを見たり・・・。村の古老たちからは森の豊かさと調和した暮らしの話をずっと聞かされました。

彼女が4歳のとき、家族は村から125キロ離れた中カリマンタン州の州都パランカラヤへ移りました。それでも、家族は頻繁に故郷の村を訪れていましたが、彼女が6歳頃になると、村へ行くことがなくなり、森で自然と戯れることもなくなってしまいました。

森林火災を目にするようになったのは、パランカラヤへ移ってからでした。泥炭地の火災による煙がパランカラヤの街を覆います。彼女の両親や近所の人々は、家の周りに溝を掘り、そこへ水を流して、居住地への延焼を防ごうとしていました。たくさんのバケツに水を汲んで、火が押し寄せてきたら消す準備を昼も夜も常にしていました。

パランカラヤに移ってから、彼女は喘息に悩まされるようになりました。

彼女はパランカラヤ大学に進学し、所属する化学教育学科のフィールド演習で久々に生まれ故郷のカンプリ村を訪れました。豊かな森と野生動物、という彼女の幼い頃から抱いていたイメージの村は、跡形もなく消えていました。そこにあったのは、鉱山開発による穴と、泥炭地火災や伐採で何もない大地でした。

取り乱した彼女は、慣習法社会による焼き畑が森林破壊の原因である、という研究成果への疑問が湧いてきました。住民の側から森林破壊について検証した研究成果などないではないか、と。

(以下に続く)

  • 慣習法社会による焼き畑
  • ラヌ・ウェルム財団に合流、消火活動へ
  • ハートランド・プロジェクト
  • キニパンの土地紛争事件
  • 現場で環境問題に立ち向かう若者たちの存在
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