冒頭のタイトルは、3月4日、ジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)大統領が商業省全国作業部会で行なった開会挨拶の一節です。
大統領は商業省に対して、国産品市場を発展させるための政策・戦略を持つ必要を唱えた後、ショッピングモールの戦略的な場所にある外国ブランド品を戦略的でない場所へどけて、国内の零細中小企業産品を陳列すべし、と主張します。そして、次のように続けます。
2億7千万人以上の人口がいるインドネシアは大きな市場であり、国産品のブランディングが大切で、だからこそ消費者は自分たち自身の製品に対して最も忠実であるべきである。国産品を響かせよ、外国産品への嫌悪を響かせよ。愛するだけでなく、嫌うのだ。我々のものを愛し、外国のものを嫌え。そうすることで、我々はインドネシア産品に対してもう一度忠実な消費者となるのだ。
そして、ジョコウィ大統領は、翌3月5日に開かれたインドネシア青年実業家連合(HIPMI)第17回全国大会の開会挨拶でも、再び「国産品を愛せ、外国産品を嫌え」との発言を繰り返しました。
インドネシアでは、歴代政権のほとんどにおいて、国産品使用の奨励、国産品を愛する運動などが行われてきましたが、「外国産品を嫌え」と発言したのは、おそらくジョコウィ大統領が初めてではないでしょうか。
民族主義と非同盟主義を主張したスカルノ初代大統領は、帝国主義批判のなかで欧米諸国を敵視する発言をし、自分の足で立つ(berdikari)、いわゆる自立主義を唱えました。今回のジョコウィ大統領の発言は、この自立主義の精神を彷彿とさせるものですが、スカルノ初代大統領が国民へ外国産品の排斥を呼びかけたかどうかは確認できていません。
「国産品を愛せ、外国産品を嫌え」という大統領発言は、すぐにインターネット上で話題となり、賛成と反対が入り混じり、コメントが盛り上がりました。賛成意見の多くは民族主義的な立場からの賛同でした。他方、反対意見では、「ジョコウィ大統領の使っているスマホはインドネシア国産品なのだろうか」といった、発言内容と実際との一貫性を問うものが多く見受けられました。
私自身も、この大統領発言には驚きました。
実際、ジャカルタなどの大都市のショッピングモールには山ほどの外国産品があふれています。とくに、私自身がいつも気になっているのは、そこで売られている農産品の多くが外国からの輸入品であることです。それもインドネシアで普通に作付けられている野菜や果物なのに、輸入されているのでした。
これまで私は、全国各地の農村を訪れて、野菜や果物などの農産品が大都市の市場へ入っていくことの難しさとともに、農家収入が増えず、子どもが農業を継ぎたくないだけでなく、親が子どもに儲からない農業を継いでほしくないという場合すらある現実を見てきました。これは、インドネシア農業の直面する深刻な危機的問題です。にもかかわらず、政府はそれに目をつぶり、大規模な食料基地(Food Estate)の建設で農業開発を進めようとしています。
ですから、外国産品の輸入が多すぎる、という現実については、ジョコウィ大統領の見解に強く同意するものであり、政府が国産品愛好運動を行うことを肯定するものです。
しかしながら、「外国産品を嫌え」と繰り返される発言には明確に反対します。そこでは、なぜこれまでに外国産品が大きく幅を利かせるようになってきたのか、という考察が全く欠けており、とくに、インドネシアの製造業がなぜGDPシェアで増加しないのか、なぜ産業構造が輸入依存を高めたのか、という構造的な問題を踏まえていないからです。
また、インドネシア産品が外国市場で嫌われたらどうなのか、という想像力の欠如もうかがえます。インドネシア国内で外国産品を嫌いながら、外国市場ではインドネシア産品を愛してほしい、というのは虫がよすぎる話です。インドネシア産品は外国市場に浸透していないから、外国でインドネシア製品を嫌うということはないだろう、外交問題にはならないだろう、というのは稚拙と言わざるを得ません。
今回は、ジョコウィ大統領の「国産品を愛せ、外国産品を嫌え」という発言を字面通り捉えるだけでなく、その裏側にある様々な矛盾と問題について迫ってみたいと思います。
「インドネシア製品を誇りに思う」のロゴマーク。観光・創造産業省が2020年に作成。(出所)https://allrelease.id/2020/05/14/kampanye-banggabuatanindonesia-dorong-naiknya-permintaan-produk-lokal/
(以下に続く)
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