よりどりインドネシア

2020年09月22日号 vol.78

新型コロナウィルス感染対策に打つ手はないのか ~政府・保健省の不作為?~(松井和久)

2020年09月22日 19:12 by Matsui-Glocal

インドネシアでジョコ・ウィドド大統領が正式に新型コロナウィルス感染を発表した2020年3月2日から6ヵ月余が過ぎました。新型コロナウィルス感染拡大は収束の気配もなく、新規感染者は連日、1日3,000人台で増加しています。

中央政府公式発表によると、2020年9月22日時点で、累計感染者数は25万2,923人、累計回復者数は18万4,298人、累計死亡者数は9,837人となっています。1ヵ月前の8月22日と比べると、感染者数は10万1,425人、回復者数は7万9,100人、死亡者数は3,243人増えました。参考までに、さらにその前の1ヵ月間(7月22日~8月22日)の増加数を見ると、感染者数は5万9,747人、回復者数は5万4,943人、死亡者数は2,135人で、直近の1ヵ月の増加ペースがかなり大きくなっていることが分かります。

幸いなことに、回復者率(累計回復者数/累計感染者数)は8月22日の69.44%から9月22日には72.87%へ上昇し、死亡率(累計死亡者数/累計感染者数)は同期に4.35%から3.89%へ低下しており、この数字だけを見れば、新型コロナウィルス感染の深刻度は減少しているとみることも可能です。

しかしながら陽性率(累計感染者数/累計検査受診者数)は8月22日の13.29%から9月22日には14.26%へ上昇しています。感染者に占める重症者の割合が低下し、軽症者や無症状感染者のほうが増えていることがうかがえますが、日本と同様、無症状感染者から中高年層への感染が増える傾向も出てきています。

中央政府は、新型コロナウィルス感染拡大対策と経済回復との両立を掲げつつ、経済回復へ重心を移してきましたが、感染拡大の中心であるジャカルタ首都特別州は、病院等の対応能力が限界に達するとして、9月14日、それまで数度にわたり延長してきた第1次制限緩和を取り止め、セミ・ロックダウンとなる大規模社会的制限(PSBB)へ再び戻しました。この措置に対して、経済回復を優先させたい中央政府からは不快感が示されました。

新型コロナウィルス感染拡大で、医療従事者の感染による死亡が増加し続けています。その要因の一つは防護服の不足なのですが、一方で、約200万着の防護服が未使用のまま野積みになっている事態も明らかになっています。また、ジャカルタ首都特別州の機関・組織別クラスター一覧によれば、ジャカルタで最も多くの感染者を出しているのは保健省であることが明らかにされました。保健省以外にも多数の政府機関でクラスターが発生していますが、なぜか報道されません。そして、新型コロナウィルス感染対策の要であるはずの保健大臣がメディアに出ることは極めて少ない点が非常に気になります。今回は、これらの点について見ていきたいと思います。

●医療従事者の死亡が続く

インドネシア医師会の発表によると、9月13日時点で、新型コロナウィルス感染により死亡した医師は115人(9月17日時点で117人)で、そのうち60人は一般医、53人が専門医であり、学会の権威である大教授(Guru Besar)が7人含まれています。州別で最多は東ジャワ州(29人)で、以下、北スマトラ州(21人)、ジャカルタ首都特別州(15人)、西ジャワ州(11人)、中ジャワ州(8人)、南スラウェシ州(6人)、バリ州、南カリマンタン州、南スマトラ州(各4人)の順となっています。

また、9月14日時点で、同じく新型コロナウィルス感染により死亡した看護師は78人で、州別では、東ジャワ州が25人、ジャカルタ首都特別州が16人、中ジャワ州が14人、南スマトラ州、南カリマンタン州が各4人となっています。

リアウ州プカンバルの病院に勤務し、9月12日、新型コロナ感染で亡くなった医師の棺。(出所)https://www.bbc.com/indonesia/indonesia-54156899

医師や看護師の死因としては、防護服の不足、不十分な新型コロナウィルス感染の有無に関する患者スクリーニング、患者数増加・長時間勤務・心理的ストレスなどによる過労などが指摘されています。

インドネシアでは、人口2,500人に医師1人の割合であり、115人の医師の死は、単純計算で約30万人の医療機会を失ったことになります。ちなみに、この人口に対する医師の割合は、タイやベトナムではインドネシアの2倍、フィリピンでは1.5倍、マレーシアは3.75倍であり、インドネシアにおける医師の希少性は際立っているのですが、9月13日時点での累計死亡者数8,723人の1.3%が医師という数字は、決して少ない数字ではないと考えます。

こうした状況に対して、テラワン保健大臣は、医師のインターン3,500人を配置する計画であると述べました。インターンのほか、保健要員800人、ボランティア685人を新たに全国へ配置し、すでに配置済みの1万6,286人とともに新型コロナウィルス感染対策に当たらせる、ということです。テラワン氏は、2019年10月の保健大臣就任の際、認証手続を経ない独自療法を実施した倫理上の問題があるとして医師会が就任に猛反対した過去があり、多くの犠牲者を出し続けている医師会との意思疎通がよくない状況がうかがえます。

(以下に続く)

  • 防護服が足りない現場と野積み状態の200万着
  • 保健省がジャカルタ最大のクラスター
  • 保健省と保健大臣の責任問題
  • 警察や軍が治安秩序維持を強化へ
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