よりどりインドネシア

2018年05月23日号 vol.22

スラバヤ自爆テロの背景(松井和久)

2018年05月23日 12:52 by Matsui-Glocal
2018年05月23日 12:52 by Matsui-Glocal

日本でも報道されたように、2018年5月13日から5月15日にかけて、インドネシア第2の都市スラバヤで、3件の自爆テロとそれに絡むテロ犯と警察との銃撃戦が起こりました。

スラバヤ市民は、自死を罪とするイスラム教の教義にも反するとして、自爆テロの暴挙を強く批判しました。そして、スラバヤはテロに屈しない、と声を上げました。テロへの抗議と犠牲者追悼のイベントを主導したのは、国内最大のイスラム団体であるナフダトゥール・ウラマであり、宗教を超えた多数の市民が参加しました。

(出所)https://news.detik.com/berita/d-4018010/bom-meledak-di-3-gereja-di-surabaya

筆者はその時、たまたま、用務で、スラバヤを州都とする東ジャワ州のバトゥ市に滞在していました。スラバヤとバトゥとの間は約100キロメートル離れており、スラバヤの雰囲気を肌で感じることはありませんでした。

ちょうど5月13日は日曜日であり、国内では訪問者数でバリ、ジョグジャカルタに次ぐ観光都市であるバトゥは、家族連れなど、たくさんの観光客で賑わっており、自爆テロは遠い世界の話のように感じるほどでした。

でも、「マラン市とバトゥ市の境界での警察の検問で、テロ犯の仲間が逮捕された」という情報が流れるなど、観光地の賑わいとテロの危険とは、実は、ほんのわずかの背中合わせのような状態だったと言えます。

テロ犯が逃げ込む先として、バトゥ市やマラン市が予想でき、100キロメートル離れているから安全、と何の根拠もなくいうことは難しいのです。筆者も、楽しそうな観光客を尻目に、常に最新情報の入手に余念がありませんでした。

●自爆テロ事件の経緯

5月13日は日曜日。カトリックもプロテスタントも、キリスト教徒は、日曜礼拝のため、朝早くから教会へ向かい、平和な祈りを捧げます。自爆テロは、そこを襲ったのでした。

午前6時30分、グベン地区のサンタマリア教会で爆弾が爆発。続いて、午前7時15分、ディポネゴロ通りのプロテスタント教会で爆弾が爆発。さらに、午前7時53分、アルジュノ通りのパンテコスタ教会で爆弾が爆発。わずか1時間余の間に、同時多発と言ってもいい、3つの教会が襲撃されました。いずれもが自爆テロでした。

5月13日のスラバヤ・サンタマリア教会前での自爆テロに使われたバイク(出所)https://www.merdeka.com/peristiwa/bocah-jemaat-gereja-santai-maria-meninggal-korban-jiwa-bom-surabaya-jadi-14.html

5月13日夜8時頃、今度は、スラバヤ市の南隣にあるシドアルジョ県中心部のウォノチョロ集合住宅で爆弾が爆発し、続いて、警察との銃撃戦がありました。

翌5月14日午前8時50分、スラバヤ市警察本部の入口で、中へ入ろうとした2台のバイクが入口の遮断機にかかった際に、爆弾が爆発。自爆テロでした。

さらには、5月15日午後5時15分、スラバヤ市マヌカン・クロン地区で、テロ犯と警察との間で銃撃戦が起こりました。

警察発表によると、これら一連の自爆テロ関連事件による死者は、自爆テロ犯を含めて28名、負傷者は57名となりました。

5月13日朝にスラバヤの3つの教会を襲撃したのは一家族、13日夜のシドアルジョでの爆弾爆発も別の一家族、14日のスラバヤ市警襲撃もさらに別の一家族、と、家族単位での犯行でした。そして、彼らはお互いに知り合い同士の家族だったことが明らかになっています。

彼らに共通するのは、不信心者を否定・嫌悪し、自爆テロをジハードとみなし、天国へいけると信じる、イスラム国の信奉者であることでした。国家警察は、インドネシアでのイスラム国関連組織JAD(Jamaah Ansharut Daulah)のメンバーだと発表しています。

自爆テロを引き起こしたのはどのような家族だったのか。彼らを自爆テロに促したイスラム過激組織JADとは何か。JADと従来のイスラム組織とはどのような関係なのか。今後も、このような自爆テロは引き続いていくのか。こうした点について、以下では、筆者なりの考察を行ってみたいと思います。

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