よりどりインドネシア

2022年08月22日号 vol.124

ジャカルタ寸景(7):真夜中の独立記念式典(横山裕一)

2022年08月22日 22:46 by Matsui-Glocal
2022年08月22日 22:46 by Matsui-Glocal

●恒例の停電

8月16日午後11時半頃、集合住宅の自室が突然真っ暗になる。照明だけでなく、クーラーもテレビも止まる。恒例の停電だ。しかも毎年この日恒例の、である。廊下に出ると通常の停電では消えない非常灯まで作動していない。エレベーターの階を示すランプ以外は真の闇が広がる。

集合住宅の場所は南ジャカルタのカリバタ。カリバタ英雄墓地の隣にある。インドネシア独立記念日の8月17日、政府の様々な記念式典は深夜0時のカリバタ英雄墓地から始まる。このため英雄墓地周辺一帯は一斉に電気が停められ、静寂のなか、独立戦争(1945~1949年)に命を賭して戦った国家英雄たちの霊に祈りが捧げられる。式典の正式名を直訳すると「神聖なる栄誉と回想の参列式典」(Upacara Apel Kehormatan dan Renungan Suci)。国家英雄たちの栄誉を讃えて敬意と感謝の意を表し、先人の気概を思い返すための式典である。

集合住宅の前の道路、その名もカリバタ英雄墓地大通りに出ると、すでに1キロ余りにわたって通行規制が敷かれ、普段夜中でも通行量の多い通りは静まり返っている。式典を知っていたかのように雨もやんだばかりだ。日付が変わる15分ほど前にジョコ・ウィドド大統領の長い車列がカリバタ英雄墓地に到着する。カリバタ英雄墓地は中央のモニュメントへと続く階段にもライトが灯されて、普段以上にモニュメントが浮き上がって見える。

独立記念式典が実施された深夜のカリバタ英雄墓地(南ジャカルタ)

英雄墓地前の大通りを挟んだ反対側には、車の出入りだけにもかかわらず、大統領の姿を一目見ようと数百人の近隣住民が集まっていた。停電となってしまうため家にいるよりは、ということかもしれないが、彼らにとっては毎年恒例の行事にもなっているようだ。見物に来た近所の婦人が言う。

「スハルト大統領の時代から歴代大統領を毎年見に来ています。どうして?インドネシアという国が好きだからですよ」

●カリバタ英雄墓地

カリバタ英雄墓地(南ジャカルタ)

カリバタ英雄墓地は1954年に設けられ、23ヘクタールの敷地に国家英雄に認定された1万257人が埋葬されている。大統領府によると、このうち9,241人が国軍関係者、904人が主に独立闘争に取り組んだ民間人、69人が国家要人で、43人が独立戦争などで命を落とした身元不明の「名もなき」国家英雄だという。綺麗に整備された広大な敷地内は静かで、中央に国章ガルーダ(神鷲)が配されたモニュメントを中心に宗教ごとに墓地が配されている。墓地には一基に一つずつ兵士用の銀色のヘルメットが並べられているのが特徴だ。一帯に植えられたカンボジアの木の白い花が満開の時は、その香りがあたりに立ち込める。

ここには第二次世界大戦での日本の敗戦後、帰還せずインドネシア独立戦争に加わった約千人といわれる元日本兵のうち28人も永眠している。独立戦争後、独立戦争に加わった元日本兵は国家英雄に認定されている。その後、324人の元日本兵がインドネシア国籍を取得したが、その最後の一人も8年前の2014年に東ジャワ州でこの世を去っている。

旧日本兵らの墓(カリバタ英雄墓地)

歴代大統領では唯一、2019年に死去したハビビ第3代大統領が夫人と並んで眠っている。ちなみに独立宣言をしたスカルノ初代大統領の墓地は東ジャワ州ブリタールに、スハルト第2代大統領は中ジャワ州カラガニャル、ワヒド第4代大統領は東ジャワ州ジョンバンにある。

(次に続く)

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