よりどりインドネシア

2022年08月22日号 vol.124

ラサ・サヤン(33):~インドネシアのマッチング・アプリ事情~(石川礼子)

2022年08月22日 22:44 by Matsui-Glocal
2022年08月22日 22:44 by Matsui-Glocal

●マッチング・アプリの活用

今年6月、東ジャワ州パスルアンに住む義妹の息子(主人の甥に当たる)が中部ジャワ州マゲランの女性と結婚しました。甥は25歳、お嫁さんは30歳という姉さん女房カップルで、2年間の交際の末に結ばれました。古風で引っ込み思案の甥に、どこで知り合ったのか訊いたところ、「マッチング・アプリケーション(以下、「マッチング・アプリ」。インドネシア語では、“Aplikasi Kencan”(直訳するとデート・アプリ)」という答えが返ってきて驚きました。

興味本位で、何という名前のアプリか訊いてみると、私が唯一知っていた“Tinder”ではなく、“Coffee meets Bagel”という名称のアプリだとか。

甥曰く、“Coffee meets Bagel”は“Tinder”と違って、インドネシア国内専用のアプリで、管理が“Tinder”よりしっかりしていて、1日に最大5名までのプロフィールしか見られないシステムになっているそうです。ちなみに、“Tinder”は制限なく見ることができますが、候補者のプロフィールに「いいね!」を120回(=120人)出すと、制限が掛かるシステムになっています。

インドネシアで使われているマッチング・アプリは、ネットでざっと調べただけでも16サイトありました。なかには、相手を探す範囲を国内だけでなく、アジア全体に拡げたものや、“LinkedIn”(世界最大級のビジネス特化型SNS)や“Fecebook”と連携しているもの、LGBTQ専門のマッチング・アプリもあります。とくに、インドネシア国内で人気が高いものは、“Badoo”、“OkCupid”、“Bumble”、“Tinder”、“Tantan”、“Hinge”の6サイトです。“Tinder”しか知らなかった私は、その数の多さに驚きました。

マッチング・アプリで相手のプロフィールを見るには、画面をスワイプして閲覧しますが、2020年3月に“Tinder”は、そのスワイプ数が過去最高の1日当たり30億回を記録したと発表、その数は前年の130倍にもなります。また、世界中の全てのマッチング・アプリ(“Tinder”以外のものも含め)のユーザー数は、2017年の2億4千万人から2021年には3億2千万人に増えています。インドネシアに関していうと、2020年9月に楽天インサイトが実施した調査で、インドネシアの回答者(条件等不明)の57.6%が“Tinder”を使用しており、他のマッチング・アプリと比較して最も高いものでした。data.aiの報告によると、インドネシアの消費者がマッチング・アプリに支払った総費用は、2021年に1,572.4億ルピア、約1,093万米ドルに相当します。

携帯電話にインストールされたマッチング・アプリの数々。(出所) https://lifestyle.kompas.com/read/2021/11/08/101300820/sukses-mendapat-pasangan-di-aplikasi-kencan-saat-usia-tak-lagi-muda-?page=all

マッチング・アプリのサンプル。(出所) https://jalantikus.com/tips/aplikasi-pencari-jodoh-android/

●マッチング・アプリのリスク

コロナ禍の現在、若者たちにとって、マッチング・アプリは貴重な出会いの場であり、この2年半の間にかなり需要が伸びていますが、やはりリスクは付きものです。

2022年2月にNetflixで公開された“The Tinder Swindler”(邦題:Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む(イギリス映画)は、マッチング・アプリ“Tinder”を通じて起こった実際の詐欺事件を追ったドキュメンタリーです。“Tinder”でマッチングした相手を騙していた詐欺師の被害に遭った女性たちが、詐欺師の素性を明らかにしていきます。ダイヤモンドで財を築いた一家の子息という肩書きの、ハンサムな男性から自家用ジェットでの海外旅行に誘われたり、100本のバラの花束を贈られ、その気になった女性たちから同時並行的に大金をだまし取る事件のドキュメンタリー映画です。

インドネシアでも“Tinder”による殺人事件が、2020年9月に起きました。“Tinder”で知り合ったばかりの女性とデートの約束をしたところ、その女性の共謀者である男性に殺されてしまった事件で、所謂「美人局」事件です。同様の事件は、インドネシアだけではなく、他国でも起きており、日本では2018年3月に兵庫県在住の日本人女性が“Tinder”で知り合ったアメリカ人男性に殺される事件がありました。

私の重要な情報紙である“The Jakarta Post”に、インドネシアでのマッチング・アプリ事情に関する記事がありましたので、翻訳してみました(一部意訳、また追記あり)。

(注)英文記事内では“Online dating service”や“Dating apps”と記載されていますが、ここでは、日本での通称である「マッチング・アプリ」と訳しています。

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左にスワイプ、右にスワイプ:マッチング・アプリが未来の人間関係?

(2022年5月4日付のThe Jakarta PostのLifestyle欄より抜粋)

オンラインのマッチング・アプリはこの10年で、潜在的パートナーに出会うための一つの手段となった。マッチング・アプリは、スタンフォード大学に在籍していたジム・ハーベイとフィル・フィアラーという学生が「ハッピー・ファミリー計画サービス」と題したクラスのプロジェクトとして、49人の男性と49人の女性をマッチングする試みに端を発した。それから、1964年にジョーン・ボールがセント・ジェームス・コンピューター・デートサービスを始め、コンピュータによるマッチングが一般に利用可能となった。

今日(こんにち)、インドネシアで最も人気のあるマッチング・アプリは“Tinder”と“Bumble”で、どちらもモバイル・ベースのアプリだ。この2つのプラットフォームが導入される以前、オンラインの出会い系サイトはインドネシア人にとって未知のものだった。

それまで、インドネシアでの出会い系サイトといえば、“Facebook” 、“Line”、 “MiChat”、その他SNSの多機能チャット・アプリが使用されていた。“Tinder”と“Bumble”という2つのアプリが若者の間で人気を博し始めたのは、つい最近のことだ。

(⇒マッチング・アプリのユーザー、20歳(仮名)の・・・)

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