そういえば、いつもウォノソボのことをお話ししているのに、なんだかんだで今まで紹介する機会がありませんでしたが、こちらをご覧ください。
これはウォノソボの県章です。公式ホームページの説明によると、この図柄には以下のような意味があるそうです。
- 盾の形は強く耐える様
- まっすぐ下る線は雨を象徴
- 波打つ線は水源を象徴
- 13枚のお茶の葉はジャワ暦で月曜のパイン曜日のネプトゥ(Neptu: 曜日に数字を割り振り、曜日の組み合わせで算出される数字。月曜=4、パイン=9)。月曜のパイン曜日はウォノソボの地方議会が設立された日。
- 9枚のタバコの葉は1957年9月9日に地方議会が市民からの直接投票によって選出された日を象徴
などなど、様々な意味が込められていることがわかりますが、そのなかでも特に目立つのは真ん中にドンと構える2つの山ではないでしょうか。
これはDwi Arga(2つの山)と呼ばれ、シンドロ山(Gunung Sindoro)、スンビン山(Gunung Sumbing)を表しています。
あまり聞きなれない名前かもしれません。ジャワの山といえば、やはりムラピ山、スメル山、それにブロモ山などでしょうか。しかし、ウォノソボ、ひいては中部ジャワ内陸部にとっては、シンドロ山、スンビン山はとても親しみのある存在です。
県章に描かれるほどに存在感のあるシンドロ山、スンビン山とはどういった山なのでしょうか。また、どのように語られ、どんな役割を担ってきたのでしょうか。今回はそれらを様々な角度から追ってみようと思います。
●生活の中のシンドロ・スンビン
天気のいい日にウォノソボの北東の方角を見ると、こんな姿を目にすることができます。
並び立つ2つの山。同じような高さ、同じような形で、そのため双子の山だとされることも。
見分け方は山頂の形です。若干ギザギザしているのがスンビン山、と覚えておけばまず間違えません。スンビンというのは、口唇口蓋裂のことです。噴火によってギザギザになった火口を、口唇口蓋裂の形に喩えた名前だと言われています。
2つとも火山で、とくにシンドロ山のほうは現在も活動していて常に噴煙を上げています。
山とウォノソボとの位置関係は以下の通りです。
ウォノソボからトゥマングン県へ抜ける幹線道路の左右に立ち、空へ突き抜ける力強い姿を通る者に印象付けています。
シンドロ山は、標高3,153m、トゥマングン県とウォノソボにまたがっており、一方、スンビン山は標高3,371m、マグラン県、トゥマングン県とウォノソボの3つの地域にまたがっています。
高さだけで見れば標高2,930mのムラピ山よりも高く、スンビン山のほうはジャワ島内の山ではスメル山、スラメット山に続いて3番目。登山の対象としても知られています。
現在、トゥマングン県と県境近く、シンドロ山とスンビン山に挟まれたところに『シンドロ・スンビンパーク』というちょっとした公園がオープンしています。
その他、ホテルやレストランの名になるなど、シンドロ・スンビンはワンセットのフレーズとしてよく使われています。
●山の恩恵
シンドロ・スンビンからは様々なものがもたらされますが、特に有名なものはタバコの葉です。ウォノソボ側でもタバコ栽培は盛んですが、トゥマングンのスンビンの麓はここにしかない良質なタバコの葉を作ることで知られており、遠くから仲買人がやってきて順番待ちをするほどです。
毎年価格は変動しますが、高級なものはキロで50~120万ルピア、もっといくことも。
タバコに適した標高、土の性質、水、日当たりや年間降雨量などの気候といった自然環境の条件、それに、村ぐるみで互いの仕事を協力してやっていくシステムや農家が持つ勘や経験などの人的環境の条件、それらが全て機能して初めて良質なタバコができるのだといいます。
タバコは同じ木からできる葉でも、茎のどの部分に生えているかでグレードが違ってきます。グレードの違う葉は収穫のタイミングもその後の扱いも違い、稲のように、一斉に、田んぼ一枚全部収穫、というわけにはいきません。
それらを細かく見極め、収穫し、熟成させ、刻んで、天日干しして・・・。そうしたことの傍ら、次の種作りや土作り、そして仲買人との交渉。スキルも経験も、そして人手も必要です。これらを地域全体で互いにカバーし合いながらこなします。
ウォン・グヌン(Wong Nggunung)という言葉があります。山の人、という意味ですが、このあたりではタバコ農家を指して使われる言葉です。
ウォノソボでもトゥマングンでも、タバコ農家は地域経済の要。タバコの価格が良ければ景気も良くなると言われます。タバコ栽培に関わりのない市民も、間接的にシンドロ・スンビンの恩恵を受けて生活していると言えるでしょう。
また、農業以外にも、シンドロ・スンビンからは、面白いものが出ることがあります。
何百年も前の人々の生活の痕跡・・・遺跡です。シンドロ山のリアンガン遺跡(Situs Liangan)は、つい20年前に見つかったばかり。火山の噴火で埋もれてしまったと思われる村が出土し、6世紀~10世紀の生活様式を考える一助になっています。
実は、遺跡をそれと知らずに地元の人が建材などに使ってしまうというケースは結構あります。しかし、噴火で埋もれていたものはまとまって残っており、位置関係や元の形を考えやすいようです。
また、発掘作業には人手が必要です。そうした仕事を、土を掘り出して工事現場に運ぶ人夫に委託することもできます。地域の雇用創出にもなり、地元の人たちの遺跡に関する理解も深まり、場合によっては観光客を呼び込むこともできる。
まさに、過去から現在への贈り物といったところでしょうか。
(以下に続く)
- 語り継がれるシンドロ・スンビン
- 作品の中のシンドロ・スンビン
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