よりどりインドネシア

2020年12月22日号 vol.84

ウォノソボライフ(36):本と図書館とわたし(神道有子)

2020年12月23日 17:29 by Matsui-Glocal
2020年12月23日 17:29 by Matsui-Glocal

インドネシアで最初のコロナ罹患者が出てから早10ヵ月。すっかり日々の生活が変わってしまっていますが、私が困っているのは、唯一の図書館が使えなくなってしまったことです。

ウォノソボには県庁のすぐ近くに作られた県立図書館があります。中心部でアクセスもしやすく、私にとっては数少ない本に触れられる場所だったのです。が、コロナで一時閉館されて以降、再開はされたのですが、なんと学生専用となってしまいました・・・。マスク等の衛生プロトコルを守っていても関係ありません。学生証がなければ中に入れてくれないのです。一時的なものだろうとは思うのですが、いつ通常通り開館されるのかは見通しが立っていないとのこと。遂にはそのまま年末となってしまいました。ああ・・・。

いい機会なので、ウォノソボの本事情をここでまとめつつ、今、私の手元にあるウォノソボに関する書籍をご紹介したいと思います。

●ここで本を探すには?

まず、ウォノソボで何か本を読もうと思うと、その場所はかなり限られてきます。大型書店はなく、個人の書店か、スーパーマーケットの片隅にある書店がいくつかあるのみ。

それも学習教材や文房具などが半分くらいで、残りも、一体何年置いてあるのかというラインナップ。雑誌や話題の書籍はあまり期待できません。

それよりは、1年に一度くらいやって来る、大型書店の在庫処分セールの方が量も種類も豊富で、掘り出し物も見つかります。

大体は県の建物や敷地などで平積みになった本が市場のように並べられ、1~2週間くらいの期間行われます。老若男女、様々な人が思い思いに本を眺める姿を見ることもできて、私にはその雰囲気も含めて楽しいものです。

そうした環境にあって、図書館は貴重な読書機会を提供してくれる場でした。外国人であっても身分証明書を提示すればその場で利用カードを作ってもらえて、一週間借りられます。蔵書検索も職員さんに手伝ってもらえるので、探している本も簡単に見つけることができました。

ウォノソボの図書館は1990年3月11日、当時の州知事に公式認定されてスタートしました。最初は小さな敷地だったものが、次々に設備を増やし範囲を広げ、2012年には大規模な改修が行われます。

現在は約7,000 m2に蔵書と閲覧スペースのほか、オーディオルーム、会議室、子供向けの遊戯室、絵本・児童書専用室などを備えた施設となっています。

また、専用の車両による移動図書館も行われています。

移動図書館用の車両は2017年に国から配備されたものです。中心部から離れた村々やプサントレン(イスラム寄宿学校)を回り、本の貸し出しや備え付けのノートパソコンでの電子書籍の閲覧を可能にしています。中部ジャワ州のなかでも移動図書館が優先的に導入されたのは、ウォノソボの教育指数が低かったためです。そうした現状もあり、図書館は「ただ古い本が収められているだけの場所というイメージを取り去りたい」として様々なサービスを展開してきました。

●地誌はどこだ!?

ウォノソボに住み、様々な出来事が目の前で起きていくなかで、一体これはなんなのか、どうしてこうなっているのか、その背景や全体像を知りたいと思うようになりました。ジャワを総括したものはたくさんありますが、もっと内陸部やウォノソボにフォーカスした情報が欲しかったのです。

日本では図書館に行けば地域史のコーナーがあり、様々な本を選ぶことができました。が、ここで図書館に行ってみても、「そういうものはないですね。」で終わり。せっかくの図書館ですが、よくてジャワで発行されているジャワ語雑誌があるくらいで、ウォノソボの歴史がわかりそうな書籍は見つかりませんでした。僅かに、館内にある展示パネルや、ディエン高原にある遺跡博物館からうかがい知るばかり。県のホームページも、事務的に必要なことしか書いてありませんでした。

状況が変わったのは、2018年。久しぶりに図書館に行ってみると、一角に普通の図書館の書架とは違う、家庭にあるようなガラス扉の付いた本棚がありました。中を覗いてみると…ウォノソボやディエンといった文字が背表紙に。「あるじゃん!!」が第一の感想でした。手に取ろうとしたところ、鍵がかかっていたので職員さんに聞いてみました。

なんでも、それは図書館の蔵書ではなく、職員さんの個人的なコレクションだとのこと。善意で一般公開してくれているものでした。ただし、貸し出し禁止。その場で読むのは可能なので、その都度鍵を開けてもらい、読みながらメモを取ったりスマホのカメラにおさめたりして、用が済んだらまた鍵をかけてもらいます。以後は時間の都合をつけて何度か通うようになりました。

しかし、貸し出し禁止なのはなにかと不便です。長時間滞在しなければいけませんし、とても全てのページをメモや写真には収められません。そこで、自分でも探してみようと思い始めました。

現在、インドネシアにはいくつかの大手ネットショップがあります。日本でのメルカリのように、個人が新品・中古品を売ったり買ったりが簡単にできるのです。そうした場で、図書館で見た本のタイトルで検索してみました。何度かやるうちに、ヒットするものがあり、無事購入。なるほど、これならなんとかなるな。味をしめた私は、それからネットショップでウォノソボ関連本をハンティングするのが趣味になりました。

ネット頼りになったのは、大型書店がなかったこともありますが、なによりもまず、ウォノソボ本の多くは全国レベルの市場には出回っていなかったのです。県や有志が地元の印刷所で作り、寄付されて終わり、関係者にだけ配られて終わり。そうしたものも少なくはありませんでした。

ところが、ネットショップでは個人が出品できます。書店に聞いても入手できないものも、ここでなら見つかりました。

図書館にはない本も、見つけられるようになりました。たとえば、「Dieng」と検索すると、ディエン高原産の作物やお土産品などが何千件と大量に出てきます。そうしたものを、フィルターを使わず一つ一つ見ていくと、タイトルにDiengとある書籍が紛れていることもあるのです。

ネットショッピングはある意味で博打のような面があります。画像だけでは保存状態がよく分からなかったり、そもそもそれがどんな内容の本なのかも説明されていなかったり。買ってみたら、印刷がいい加減なもので、写真が潰れていてほとんど見えない本というのもありました。それでも、一期一会であることには変わりありません。とくにインドネシアでは、一般的な書籍でもあっという間に絶版になったり、それきり二度と見つからなくなったりということがあります。当たりかハズレかは五分五分だけど、とりあえずポチッと・・・。そうやって、少しずつ私の本棚にも『ミニ・ウォノソボコーナー』ができつつあります。

●ウォノソボ・コレクション

さて、そのように集めてきた本たちのなかからいくつかをご紹介しようと思います。一緒に、入手に際しての思い出なども少し。

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