よりどりインドネシア

2020年12月22日号 vol.84

地方首長選挙と王朝政治 ~ジョコウィ長男のソロ市長選挙立候補をどうみるか~(松井和久)

2020年12月23日 17:29 by Matsui-Glocal

日本ではほとんど報道されませんでしたが、インドネシアでは2020年12月9日、全国270の地方自治体で統一地方首長選挙の投票が行われました。270の地方自治体の内訳は、9州、224県、37市です。現在、全国には34州、416県、98市の計548の地方自治体が存在しますので、今回、改選となったのはその約半分ということになります。

インドネシアでは、新型コロナウィルス感染拡大が続いており、感染の勢いは止まるどころか高まっています。死亡者率(累計死亡者数/累計感染者数)は3%程度まで下がっていますが、回復者率(累計回復者数/累計感染者数)は12月に入って低下傾向へ転じ、1日当りの新規感染者数は6,000~7,000人台へと上昇しています。収束の目途は一向に立っていません。

このような新型コロナウィルス感染拡大のなか、国民からは、統一地方首長選挙を行うことへの疑問や中止要請が多々出ましたが、結局、投票日を9月23日から12月9日へ遅らせて実施されました。そして案の定、選挙戦が熱を帯びてきた11月半ば以降、新規感染者数が大きく増え続けています。

統一地方首長選挙は、投票日から開票が行われ、約1ヵ月後までに票数が確定されますが、すでに、クイックカウントによって、選挙での勝敗が明らかになりつつあります。

今回の統一地方首長選挙でとくに注目されるのは、首長の家族や親族などが立候補・当選することで生じる王朝政治(politik dinasti)の傾向がこれまでの首長選挙に比べてはるかに顕著になっている、という点です。そして、その最たるものとしてやり玉に挙がったのは、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領の長男と娘婿でした。

長男のギブラン(Gibran Rakabuming Raka)は中ジャワ州ソロ市長選挙に、娘婿のボビー(Boby Nasution)は北スマトラ州のメダン市長選挙に立候補し、二人とも当選確実と見られています。これを見て、ジョコウィ一族による王朝政治の始まりを批判する論調がメディアで見られるようになりました。

今回は、統一地方首長選挙が王朝政治を助長する構造について、いくつかの例を見ながら考えてみたいと思います。そして、ジョコウィ大統領の長男や娘婿の当選(確実)は本当にジョコウィ一族の王朝政治化を示すものなのかどうかについても、筆者なりに検証してみたいと思います。

家族支配(Keluarga Berkuasa)。家族計画(Keluarga Berencana)のパロディー。(出所)https://ceknricek.com/a/ini-bahaya-dinasti-politik-menurut-nagara-institut/19137

●地方首長選挙における王朝政治候補者

ここで、地方首長や政治的有力者の家族・親族で今回の地方首長選挙に立候補した者を仮に「王朝政治候補者」と定義します。民間調査会社ナガラ・インスティチュート(Nagara Institute)によると、今回の統一地方首長選挙には、124人の王朝政治候補者が立候補しているということです。

王朝政治候補者124人の内訳は、57人が県知事(Bupati)候補、30人が副県知事(Wakil Bupati)候補、20人が市長(Walikota)候補、8人が副市長(Wakil Walikota)候補、5人が州知事(Gubernur)候補、4人が副州知事候補(Wakil Gubernur)です。今回の270の地方自治体での統一地方首長選挙への立候補者総数は738人ですので、全体の約15%が王朝政治候補者ということになります。

王朝政治候補者としては、たとえば、東ジャワ州バニュワンギ県知事選挙のように現職の妻が立候補して後継するケースや、子どもや娘婿などが立候補するケースなどがあります。振り返ってみれば、日本も二世議員が多いのですが、インドネシアの閣僚を見るだけでも、アイルランガ・ハルタルト経済担当調整大臣(父親は元工業大臣)をはじめ、二世政治家がかなり多いのが現実です。

週刊誌『テンポ』によると、上記の124人の王朝政治候補者のうち、約55人が当選確実と見られています。推薦政党別にみた王朝政治候補者の勝敗予想も出ていて、たとえば、闘争民主党が推薦した王朝政治候補者は22人で16勝6敗、ゴルカル党は14人で6勝8敗、グリンドラ党は3人で2勝1敗、民主党は5人で2勝3敗、ナスデム党は8人で2勝6敗、といった星取表になっています。

このように、王朝政治候補者だからといって当選するとは限らないのですが、それは、王朝政治候補者どうしで戦っているケースも多いからです。そして、選挙にはどうしても多額の資金が必要となるので、王朝政治とは関係のない実業家が立候補して勝つ場合もあります。そして、そこから実業家による王朝政治が始まることも珍しいことではありません。

東ジャワ州バニュワンギ県知事選挙で、王朝政治拒否を訴える若者たち。(出所)https://politik.rmol.id/read/2020/07/13/443304/berpotensi-mengebiri-demokrasi-politik-dinasti-tegas-ditolak-milenial-banyuwangi

ナガラ・インスティチュートによると、2020年の王朝政治候補者の比率は2014年の地方首長選挙のときの11.45%から15%へ上昇しています。家族や親族などについては、立候補に関する規制が採られたことがありました。

たとえば、法律2014年第22号(地方首長選挙法)では、現職と婚姻関係がない者が立候補できるとし、法律2015年第1号(地方首長選挙法改正)では現職と婚姻関係がないか一親等でない者が立候補できるとなっており、現職の配偶者や子どもの立候補が規制されていました。法律2015年第8号では、現職と婚姻関係がないか一親等の血縁関係(父親、母親、義父母、伯父、伯母、兄、弟、義兄弟、子ども、義理の息子)のない者が立候補できると規定しましたが、立候補者の人権問題が取り沙汰され、憲法裁判所で違憲と判定されました。そして、最新の法律2016年第10号では、そのような規定がなくなっています。

(以下に続く)

  • 王朝政治候補者が地方首長選挙で輩出される背景
  • ジョコウィ長男のソロ市長選挙立候補までの顛末
  • ジョコウィ長男の当選で、王朝政治になるのか
  • 結局、王朝政治へと巻き込まれていくのか
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