よりどりインドネシア

2020年07月08日号 vol.73

いんどねしあ風土記(19):ヌサンタラ・コーヒー物語(中編)〜コーヒー文化紀行~(横山裕一)

2020年07月08日 12:25 by Matsui-Glocal

2013年のある日、ジャカルタ南郊外の西ジャワ州デポック市、マルゴンダ通りのあるコーヒーショップで、青年が熱く語っていた。彼は同店のマネージャー。よく通ううちに顔なじみになっていた。

「インドネシアのコーヒーは地域や地形によって色んな味や香りがあるんだ。お客さんが飲んでいるアチェ・ガヨは高地で採れるストロング系。でもパプアのコーヒーはさらに高地で採れるから一味違う。飲んでみるかい?」

彼は従業員にパプアのワメナコーヒーを注文、ご馳走してくれた。一口すする。

「口当たりは爽やかだけど、喉のあたりで心地良い苦味が広がるだろう?」

頷くと、彼はにっこりと微笑んでから一気に話し出した。

「そうなんだよ、インドネシアのコーヒー栽培は18世紀から本格化するけど、インドネシアの人たちは今やいつでもどこでもコーヒーを楽しんでいる。さらに味だけじゃなく、地方によって様々な独自の飲み方もある。まさにコーヒーはインドネシアの文化でもあるんだよ!」

学生街でもあるデポックのマルゴンダ通り沿いにも新しいコーヒーショップが立ち並び始めだした頃。彼のようにコーヒーへの知識を深め、コーヒー事業に乗り出す若者が急速に増えた時期だ。一方で彼が言うように各地方では多様なコーヒーの伝統文化も受け継がれている。

当時、コーヒーのコマーシャルで、有名歌手イワン・ファルス(Iwan Fals)の決め台詞は、「コーヒーこそインドネシア人そのものだ」(Kopinya orang Indonesia)。

この一言こそが当時とインドネシアのコーヒーを表しているかのようだった。

●世界が認めたガヨ、平和の象徴・コーヒー屋台の灯り~バンダアチェ

アチェ州バンダアチェ遠景、正面はバイトゥルラフマン・モスク

2015年1月、約15年ぶりにアチェ州の州都バンダアチェを訪れて、大いに驚いた。街の通り沿いに何軒も立ち並んだコーヒー屋台やカフェには、夜12時近くまで明かりが煌々と灯り、通り近くまで張り出した席は大勢の客で埋まっていたのだ。人々はコーヒー片手に笑顔で楽しそうに歓談する。

バンダアチェをよく訪れた2000年前後は、こうした光景を見られるとは想像だにしなかった。当時はインドネシアからの独立を求める独立派組織「自由アチェ運動」(Gerakan Aceh Merdeka)と国軍による紛争の時代(1976~2005年)だったからだ。

各地で両者の武力衝突が相次ぎ、独立派と疑われた住民は治安当局に逮捕され、拷問を受けた。州を貫く街道の所々に数メートルの丸太や大きな石が並べられ車が蛇行しかできないようになっていて、誰が乗車しているかわからないと独立派ゲリラ、あるいは国軍からの銃撃対象になるため、黒い遮光シートが張られた窓ガラスを開け放ったまま走行せざるをえなかった。各地に国軍の検問所が設けられ、ゲリラとの銃撃戦直後に通った時は国軍兵士に自動小銃を胸に突きつけられたこともあった。

こうした時代だったため、日中は賑やかな街も、日没後暗くなると住民は滅多に外出しなかった。静かで街頭のみが灯る長く不安な夜が毎日続いていた。

大きな転機となったのが、約30万人の死者・行方不明者を出した、2004年末に発生したスマトラ島沖地震である。アチェは独立派を含めて壊滅的な被害を受けた。この機に乗じた国軍は掃討作戦を強化し、独立派ゲリラの指令官殺害に至る。結果、2005年8月、独立派とインドネシア政府は和解し、アチェでの紛争は30年ぶりに終結を迎えた。

かつて取材した独立派のゲリラ、避難民、紛争に巻き込まれ家族を失った人々を想うと、アチェの人々の中にも独立断念に忸怩たる思いを抱く人もいただろう。しかし、和解から10年経ったバンダアチェの光景、夜遅くまでカフェで楽しむ人々の姿を見ると、やはり平和が何よりだと感じないではいられなかった・・・。

(以下に続く)

  • 古都の夜を彩る屋台文化と「コピ・ジョス」~ジョグジャカルタ
  • フローレス島のコーヒー屋台にて~マンガライ
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