よりどりインドネシア

2020年07月08日号 vol.73

コロナ禍での中国人労働者の入国許可問題(松井和久)

2020年07月08日 11:24 by Matsui-Glocal

インドネシアでの新型コロナウィルス感染状況は、世界各国から見ると、数のうえでは少ないように見えますが、まだまだ予断を許さない状況にあります。

2020年7月6日現在、これまでの感染者総数は6万4,958人、治癒者総数は2万9,919人、死亡者総数は3,241人となっています。前号の発行日である2020年6月22日の値と比べた増加数は、感染者総数が1万8,113人、治癒者総数が1万1,184人、死亡者総数が741人となっています。

6月22日以降、感染者数は毎日1,000~1,600人程度増加しているのは気になりますが、治癒率(感染者総数に対する治癒者総数の比率)は6月22日の40.0%から7月6日には46.1%へ上昇する一方、死亡率(感染者総数に対する死亡者総数の比率)は同期に5.3%から5.0%へ低下しています。毎日の経過で見ても、治癒率は着実に上昇し、死亡率は着実に低下しています。

気になるのは、一部の地方では、これから感染拡大が本格化しそうな気配があることです。そこでは、一時的な現象かもしれませんが、治癒率の低下や死亡率の上昇がみられます。地理的な条件や地方への感染のタイムラグを考えると、全国での数字が改善へ向かっているように見えるからといって、インドネシアはもう大丈夫だと結論づけることはできないと思います。

このような、まだまだ警戒すべきコロナ禍の状況下で、インドネシア政府が中国からの労働者500人の入国を許可したことが問題視され、メディア等で話題となっています。今回は、この問題を取り上げてみます。

●中国人労働者の入国への抗議行動

今回、インドネシア政府が入国を許可した500人の中国人労働者は、東南スラウェシ州コナウェ県に立地する中国系のニッケル製錬企業 PT. Virtue Dragon Nickel Industry(VDNI社)とステンレス鋼製造企業 PT Obsidian Stainless Steel(OSS社)で就労することになっています。

当初、500人の中国人労働者は4月22日に入国する予定でしたが、コロナ禍であることを鑑み、入国を延期させました。地元の東南スラウェシ州政府も州議会も、コナウェ県政府も県議会も、とくに新型コロナウィルス対策の観点から、中国人労働者の入国を拒否する意向を強く示していました。

その後。中国人労働者の入国許可へ一歩動いたのはルフット(Luhut Panjaitan)海事担当調整大臣でした。4月末、ルフット調整大臣がコナウェ県のケリー(Kery Saiful Konggoasa)県知事と話し合い、入国拒否を繰り返す県知事に対して「どんな支援が必要か」と問いかけました。そこでケリー県知事は、コロナ禍で厳しい地域産業に対するVDNI社・OSS社と中央政府からの支援を要請しました。

これを受けた形なのでしょうか、VDNI社とOSS社は、州政府や新型コロナ対策チームにマスク、防護服、迅速抗体検査キットなどを贈ったほか、洪水被害に遭った住民へ支援物資を送るなどしました。

6月になると、東南スラウェシ州のアリ・マジ(Ali Mazi)州知事が「中央政府には逆らえない」として、PCR検査や到着後2週間の隔離など新型コロナウィルス規則を遵守するという条件で、中国人労働者500人の入国を容認する姿勢へ転じました。ケリー県知事も了承するほかなくなりました。

こうして、6月23日に中国人労働者500人の第1陣156人がマナド経由で入国審査後、東南スラウェシ州の州都クンダリに到着しました。第2陣344人は7月7日に到着しました。

州知事や県知事は容認したものの、それまで根強くくすぶっていた中国人労働者に対する抗議は衰えず、抗議は実力阻止を試みる方向へ向かいました。

6月23日に第1陣が到着する前から、中国人労働者の入国に抗議する学生らがクンダリのハルオレオ空港に押し寄せました。空港を出入する車を1台1台停め、中国人労働者が乗っているかどうかをチェックするとともに、空港内へ立ち入って抗議行動を行いました。クンダリ市内でも、入国管理局前でデモを行うなど、激しく抗議しました。

もっとも、第1陣の中国人労働者は、空港正面からではなく、裏口から別のルートを通って空港から抜け出せたので、学生らの抗議行動は肩透かしをくらうこととなりました。

ハルオレオ空港を管理する空軍司令官は、中国人労働者に対して批判的な論調のメディアが多いことを念頭に、7月7日の第2陣到着時に記者が空港内へ入ることを禁じる措置をとりました。司令官はメディアに対して、「中国人労働者の到着に関する記事に乗じてテロ行為が起こる危険性がある。そのような状況で第2陣到着を報道するべきかどうか、メディアはよく考えてほしい」と語りました。

中国人労働者の入国に抗議する学生たち(出所)https://news.okezone.com/read/2020/06/24/340/2235316/disambut-massa-aksi-ratusan-tka-asal-china-dikawal-ketat-petugas

 

(以下に続く)

  • コロナ禍での特別扱いに対する抗議
  • ローカル労働者の雇用機会を奪うという抗議
  • VDNI社、OSS社とは
  • 中国人労働者の入国許可はなぜ必要とされたのか
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