よりどりインドネシア

2018年07月09日号 vol.25

ロンボクだより(10) “kasih pinjam” の謎(岡本みどり)

2018年07月09日 22:03 by Matsui-Glocal

結婚した当初、親族たちが私の貸した本を返さないことが幾度となくありました。こちらではそういうものなのかもしれないけれど、いい気はしません。

「あなた、”pinjam”(借りる)って言ったよね。大事な本なんだよ」と悲しくなりました。

そんなある日。姑が外出先から植木鉢を持ち帰り、近所の方から ”kasih pinjam” したと言いました。

kasih は辞書では愛情と書いてありますが日常的には与えるという意味でも使われます。pinjam は貸す/借りるの意味です。

ですので、私は ”kasih pinjam” =貸してもらった、という意味かと推察しました。しかし、姑は近所の方に植木鉢を返しませんでした。

その後もこちらの人々の ”kasih pinjam” という言葉と行動を目にしては、混乱していました。誰も貸してもらったものを返さないからです。”kasih pinjam” ってなんだろう?

そういえば、結婚前、ロンボクに来た当初にこんなことがありました。 

* * * * * * * * * *

ロンボク島に栄養士隊員として派遣されて間もないころ。

自転車での帰宅途中に急な雨に降られました。活動先の保健所に戻るにもホームステイ先の家へと急ぐにも中途半端な距離です。私は、ともかく目に入った家に寄せてもらうことにしました。

「すみません」と声をかけると、家の人が驚いた顔で出てきました。

私が雨宿りを頼む前に、そのおばさんは、着替えの服をもってきてくれました。断りましたが着替えるように促され、「それではお借りします」とお言葉に甘えました。

翌々日だったでしょうか。借りた服をもって、再びその家を訪れました。おばさんはまたまた驚きました。「え、(服を)返しにきたの?どうして?」

今度は私が驚く番です。借りたら返すのが当たり前だと思っていましたから。それなのに、おばさんは「あらあら、きれいに洗って畳んでくれて」と目を細めていました。 

* * * * * * * * * *

このおばさんのことを思い出すにつれ、私は自分が誤解していたのかもと考え直すようになりました。

kasih pinjam=貸してもらう=借りるではなく、単に「もらう」という意味が強いのかも・・・。

さらに、人々がkasihを省略しpinjamとだけ言うときも ― 辞書には貸す、借りると掲載されていますが ― あげる、もらうという意味で使っているのかもしれません。

だとしたら、服を返却して驚かれたことも、貸したものが返ってこないことも、説明がつきます。

考察の正誤は私にはわかりません。けれども、私の「借りるって言ったよね!借りたら返すべき」という考えをここで抱え続けても、この地の人々と良好な関係を築けなさそうです。

自分の考えに意固地になるよりロンボクの人々と仲良くなりたいなぁ!

私はついに、kasih pinjamとは気軽に与えて遠慮なく与えられることだ、と自分の脳内辞書を現地仕様に規定しなおしました。

もうこれ以上、「なんで返してくれないの」と怒ったり不信感に陥ったりしないでいいとわかったとき、すうっと気が楽になるのを感じました。

(岡本みどり) 

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