よりどりインドネシア

2018年07月09日号 vol.25

ママが編むパプアの伝統バッグ「ノケン」(松井和久)

2018年07月09日 22:04 by Matsui-Glocal

パプアには、ノケン(noken)という名の特有のバッグがあります。動物の皮やポリエステルなどではなく、天然の植物繊維で作られたバッグです。

かつて筆者がパプア州の州都ジャヤプラで購入したノケン(出所)筆者撮影(2012年6月3日)

ノケンには、様々なものを入れて運びます。それは赤ん坊であったり、子豚であったり、イモや野菜であったり、衣類であったり、本やノートであったり、なんでも入れて運びます。

また、冠婚葬祭のときにも、ノケンを持っていきます。また、ダニ族などでは、ノケンが交換手段となります。たとえば、ある一定数のノケンと豚1頭とを交換したりします。

●ノケンを編めれば一人前の女性

豊潤と平和を象徴するとされる、ノケンを制作するのは成人女性(ママ)です。パプアでは一般に、ノケンが作れれば、一人前の女性と認められます。ママが時間をかけて編んだノケンを持って、市場へ行ったり、パーティーへ出かけたりするのでしょう。

パプアには、地域によって様々なノケンがあるのですが、大きく分けると、高地で見られるノケンと低地で見られるノケンの二つに分かれます。

●高地のノケンは頭からかける

ワメナなどの高地で見られるノケンは、布袋のような形をしており、頭からかけて、背中または胸で受け止めるように身につけます(下写真)。

(出所)http://thetanjungpuratimes.com/2016/06/13/noken-papua-jadi-perhatian-pemerintah-untuk-dikembangkan/

●様々なノケンの原材料

高地のノケンの主な材料は、木皮、ランの根茎、パンダナスの葉(パンダン・リーフ)などです。木の皮を穿き、それを木で叩いた後、風に当てて乾燥させてから、繊維をよって紐状にして使います。

繊維材料としては、ウンピンの材料となるムリンジョという木の実が成るグネツム科グネツム属のグネモン(Gnetum guemon)、ジンチョウゲ科のマフコタ・デワ(Phaleria macrocarpa)、ランの一種であるディプロカウロビウム・レゼレの根茎が使われます。

材料は、種族やその居住地によっても異なります。

たとえば、中央高地に位置するビンタン山岳県では、イラクサ科キフィロフス属の仲間(Cypholophus gjelleripii, Cypholophus vaccinioides)、クワ科イチジク属の仲間(Ficus arfakensis, Ficus comitis, Ficus dammaropis)、バンレイシ科ゴニオタラムス属の仲間(Goniothalamus spp.)、イラクサ科ヌノマオ属の仲間(Pipturus argenteus)、ニクズク科ニクズク属の仲間(Myristica spp.)といった、8種類の植物をノケンの材料としています。

また、ワメナ県のバリエム谷周辺に居住するダニ族は、イラクサ科カラムシ属(Boehmeria malabrica, Boehmeria nivea)、ノボタン科アストロニア属(Astronia spp.)、アオイ科キンゴジカ属(Sida rhombifolia)、ジンチョウゲ科アオガンピ属(Wikstroemia venosa)といった、5種類の植物を材料としています。

ノケンを編むダニ族の女性(ママ)(出所)http://www.tabloid-wani.com/2016/06/noken-tas-tradisional-papua-terdaftar-di-organisasi-pbb.html

●染料も自然由来

染料も自然のものを使います。バリエム谷周辺に居住するユリ族は、トベラ科トベラ属(Pittosporum pullifolium)の実やノボタン科ノボタン属(Melastoma polyantum)で紫色や黒色を出し、カクチョウラン(Phaius tankevilleae)の葉やラン科エビネ属の仲間(Calanth)コウトウシランの仲間(Spathoglottis)で緑色を出し、アカネ科クチナシ属(Gardenia lamingtonil)でオレンジ色を、ウコンの根茎で黄色を出します。

●アクセサリも付ける

ノケンには、アクセサリも付けます。アクセサリとしては、硬い植物の種のほか、カタツムリの殻や、インコやヒクイドリ(Kasuari)の羽根などの動物性のものを付けることがあります。

●低地のノケンは首からかける

一方、近年、ダイビング・スポットとして有名な、西パプア州のラジャ・アンパットなど、低地・海岸部で見られるノケンは、箱のような形をしており、首からぶら下げるのが一般的です(下写真)。

(出所)https://travel.detik.com/domestic-destination/d-3579317/apa-saja-sih-oleh-oleh-dari-raja-ampat

低地のノケンの材料は、高地のそれとは大きく異なります。パンダナスの葉(パンダン・リーフ)のほか、湿地に生えるチガヤの一種のアランアラン草(ilalang rawa)などを使います。

高地のノケンが木や草から繊維を取り出し、それを紐状にして編むのに対して、低地のノケンは、むしろ葉を編むという形をとります。

●廃れるノケンが無形世界文化遺産に

パプアでも近代化が進むとともに、ノケンは時代遅れの産物として、都市部なのでは廃れていきました。パプアの各種族が長年にわたって受け継いできた伝統とともに、ノケンも無くなっていく運命なのでしょうか。

そうした地元の危機感を反映したインドネシア政府の推薦を受け、ユネスコは2012年12月4日、ノケン(正式には高地のノケン)を無形世界文化遺産に決定し、「緊急保全リスト」に加えました。これを契機に、ノケンは世界が後押しして、次世代へ残していくべきものと位置付けられたのでした。

自然素材で作られ、かなりの重さのものを入れても大丈夫な強さを持つノケンは、染料等の最終処理をもう少し工夫し、デザイン性を高めれば、サブバッグとして活用できそうな気がします。ノケンをインドネシア発のエコバッグとして生かしていく、ということをもっと考えてみたいです。

●ノケン移動図書館

ノケン移動図書館(Noken Pustaka Papua)は、ノケンを使った面白い試みとして注目されます。

インドネシアでは今、民間有志による移動図書館活動が始まり、船を使って離島をまわる、馬を使って山村へ本を届ける、など地道な活動が行われています。ジョコウィ大統領がそれに賛意を示し、毎月17日に郵便局を通じて移動図書館へ本を寄付・送付する際には、郵送料を無料にする政策が実施されています。

(出所)http://news.metrotvnews.com/peristiwa/JKRyvayk-noken-pustaka-pegiat-literasi-dari-timur-negeri

パプアでは、ノケンに本を入れ、運搬して村々をまわるノケン移動図書館も、そうして寄付された本の受け皿の一つです。こうした活動を通じて、地方の人々が本と接する機会が増えると同時に、ノケンの活用が意識されるようになり、ノケンの存在が守られていくことにつながるような気がします。

環境にやさしいノケンを首都ジャカルタで購入するのは難しいかもしれませんが、パプア州の州都ジャヤプラの土産物店にはたくさん売られていました。

(出所)筆者撮影(2012年6月3日)

(松井和久)

 

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