よりどりインドネシア

2018年07月09日号 vol.25

統一地方首長選挙の結果:州知事編(その1)(松井和久)

2018年07月09日 22:02 by Matsui-Glocal

2018年6月27日は、17州、115県、39市の計171自治体で行われた、統一地方首長選挙の投票日でした。

各投票所では、投票終了後すぐに、各候補ペアの支持者代表や住民が見守るなか、一票一票、確認しながら開票が進められます。開票終了後、各候補ペアの支持者代表の署名をもって、正式な投票時レベルでの開票結果となり、投票箱に入れたまま、上位レベルへ送られます。

選挙委員会(KPU)は投票所ごとの開票結果をウェブで公開するので、そのデータが実際の投票所で見たデータと同じかどうか、検証できる仕組みになっているようです。ただし、7月8日時点では、選挙委員会のウェブサイトにはつながれず、まだ公表されていない様子です。

今回の地方首長選挙については、候補者分析や各政党が候補者ペアを支持するに至った経緯など、細かく調べれば調べるほど、ローカルレベルの政治構造を理解するためのとても興味深い結果が出てきそうです。

ただし、入票結果速報の出ているのが現時点では州知事選挙のみとなっているため、今号と次号に分けて、その17州の州知事選挙の結果を見ていき、次号で州知事選挙全体から見えることをまとめることにします。

●北スマトラ州知事選挙:僅差で軍人出身知事が誕生へ

北スマトラ州知事選挙は、当初、3組の候補ペアの戦いになると予想されていましたが、立候補番号3番のペアの州知事候補者の学歴詐称が明らかになり、選挙委員会から立候補が認められませんでした。

このため、立候補番号1番のEdy Rahmadi(前陸軍戦略予備軍司令官)= Musa Rajekshah(州赤十字委員長)と、2番のDjarot Saiful Hidayat(前ジャカルタ首都特別州知事)= Sihar Sitorus(人材開発・文化担当調整大臣付専門家)の2ペアで戦うこととなりました。

(出所)http://medan.tribunnews.com/2018/05/28/polling-pilgub-sumut-edy-ijeck-vs-djarot-sihar-makin-seru-sebulan-jelang-pencoblosan

1番を支持する政党は、福祉正義党(PKS)、ハヌラ党、ゴルカル党、国民信託党(PAN)、グリンドラ党、ナスデム党であり、2番を支持する政党は、闘争民主党(PDIP)と開発統一党(PPP)でした。

開票結果は、1番のEdy = Musa組が得票率57.67%の298万6648票を獲得して当選しました。

結果は僅差でした。闘争民主党による候補者選びが難航し、ギリギリになって、Djarot前ジャカルタ首都特別州知事を立てました。その出遅れが響いたというべきか、それでも予想以上に健闘したというべきか。

新知事になるEdy退役陸軍中将は、アチェ州サバンの出身ですが、軍人だった父親が州都メダンの出身で、彼自身も、陸軍戦略予備軍司令官の前にスマトラ島北部を管轄するブキット・バリサン陸軍区司令官を務めるなど、北スマトラ州では馴染みのある人物です。また、新副知事となるMusa氏はメダン在住の若手実業家です。

●リアウ州知事選挙:現職が敗北

リアウ州知事選挙は、4組の候補ペアで争われました。1番はSyamsuar(シアク県知事)= Edy Nasution(軍人)、2番はLukman Edy(国会議員、元後進地域開発担当大臣)=Hardianto(州議会議員)、3番はFirdaus(プカンバル市長)= Rusli Effendi(開発統一党中央幹部)、4番はArsyadjuliandi Rachman(現州知事)=Suyatno(ロカン・ヒリル県知事)です。

(出所)http://pekanbaru.tribunnews.com/2018/06/24/pilgubri-27-juni-2018-ingat-inilah-nomor-urut-pasangan-calon-gubernur-riau-dan-wakil-gubernur

1番を支持する政党は国民信託党(PAN)、ナスデム党、福祉正義党(PKS)の3党であり、2番は民族覚醒党(PKB)とグリンドラ党、3番は民主党と開発統一党、4番はゴルカル党、闘争民主党(PDIP)、ハヌラ党でした。

開票結果は、以下の通りで、1番のSyamsuar = Edy組が得票率39.35%に当たる76万4378票を獲得して優位に立っています。それを追うのが4番の現職のペアですが、24.83%、48万2238票で1番に差をつけられています。以下、3番、2番の順となっています。

州知事になりそうなSyamsuar氏は、シアク県で郡長や歳入局長を経て、県副知事、県知事を務めてきた叩き上げの役人です。県知事時代に行政サービス向上など様々な成果を上げ、毎年のように中央政府から表彰され、具体的な実績を積んで、全国的に注目されていた県知事の一人です。

●南スマトラ州知事選挙:父から息子への移譲ならず

南スマトラ州知事選挙は、4組の候補ペアで争われました。候補ペア番号1番はHerman Deru(元東オガン・コメリン・ウル県知事)= Mawardi Yahya(元オガン・イリール県知事)、2番はSaifudin Aswari Rivai(ラハット県知事)= Muhammad Irwansyah(パンカルピナン市長)、3番はIshak Mekki(州副知事)= Yudha Pratomo(州青年実業家協会(HIPMI)会長)、4番はDodi Reza Alex Noerdin(ムシ・バニュアシン県知事)= Giri Ramanda Kiemas(州議会議長)です。

(出所)https://gcdn.cf/images/gatracom/2017/erry/04-Apr/4.10.10.jpg

1番を支持する政党は国民信託党(PAN)、ナスデム党、ハヌラ党の3党、2番はグリンドラ党と福祉正義党(PKS)、3番は民主党、開発統一党(PPP)、月星党(PBB)の3党、4番は闘争民主党(PDIP)、ゴルカル党、民族覚醒党(PKB)の3党でした。

4番のDodi氏は2期務めた現州知事の息子で、父親から息子への知事職継承が実現するかどうかが焦点となりました。州議会の議席数や知名度などの点で、4番の勝利が予想されましたが、開票結果は異なりました。

すなわち、1番が得票率35.96%の139万4438票を獲得して当選し、4番は得票率30.96%と僅差で次点となりました。父親から息子への一族支配への反発があったのでしょうか。

新知事となりそうなHerman氏は実業家出身で、東オガン・コメリン・ウル県知事を2期務めています。州副知事となりそうなMawardi氏も、オガン・イリール県知事を2期務めています。

●ランプン州知事選挙:3組が現職ペアに挑む

ランプン州知事選挙も4組の候補ペアで争われました。候補ペア番号1番はMuhammad Ridho Ficardo(現州知事)= Bachtiar Basri(現州副知事)、2番はHerman HN(バンダルランプン市長)= Sutono(ランプン州官房長)、3番はArinal Djunaidi(元ランプン州官房長)= Chusnunia Chalim(東ランプン県知事)、4番はMustafa(中ランプン県知事)= Ahmad Jajuli(地方代議会(DPD)議員)です。

(出所)https://kabarpersada.com/2018/06/27/hasil-quick-count-pilgub-lampung-2018-versi-saiful-mujani/

支持政党は、1番が民主党、グリンドラ党、開発統一党(PPP)の3党、2番が闘争民主党(PDIP)、3番がゴルカル党、民族覚醒党(PKB)、国民信託党(PAN)の3党、4番がナスデム党、福祉正義党(PKS)、ハヌラ党の3党でした。

2期目を目指す現職ペアに3組が挑む形となりましたが、開票結果は、現職ペアの敗北となりました。すなわち、当選したのは3番で、得票率37.78%、154万8506票を獲得しました。以下、得票順は2番、1番、4番の順でした。

次期知事となりそうなArinal氏はゴルカル党州支部長で、元々は農業普及員の出身で、州林業局長などを経て州知事補佐、官房長と行政官としてのキャリアを積んできました。副州知事となりそうなChusnunia氏は国会議員から東ランプン県知事へ転身した35歳の女性です。

●西ジャワ州知事選挙:予想外の結果

西ジャワ州知事選挙も、4組の候補ペアで争われました。1番はRidwan Kamil(バンドゥン市長)= Uu Ruzhanul Ulum(タシクマラヤ県知事)、2番はTubagus Hasanuddin(闘争民主党所属国会議員)=Anton Charliyan(前州警察長官)、3番はSudrajat(退役陸軍少将、元中国大使)= Ahmad Syaikhu(前ブカシ市副市長)、4番はDeddy Mizwar(州副知事、俳優)=Dedi Mulyadi(プルワカルタ県知事)です。

(出所)http://www.monitor.web.id/2018/02/keempat-paslon-pilgub-jabar-2018-punya.html

1番を支持するのはナスデム党、民族覚醒党(PKB)、開発統一党(PPP)、ハヌラ党の4党、2番は闘争民主党(PDIP)、3番はグリンドラ党、福祉正義党(PKS)、国民信託党(PAN)の3党、4番は民主党とゴルカル党の2党、でした。

当初は、2・3・4番の三つ巴の激しい戦いとなり、主要政党の支持を取り付けられなかった1番はかなり苦戦、という下馬評でした。

ところが、開票結果は、意外にも下馬評を覆すものとなりました。苦戦と思われた1番が得票率32.88%、722万6254票で当選となり、以下、3番、4番、2番の順となりました。

新知事になるRidwan Kamil氏は、バンドゥン市長としての実績を積み、次世代を担う新しいタイプの開明的な政治家で、注目株の一人です。日本好きの政治家としても有名で、彼が市長を務めたバンドゥン市と姉妹都市の浜松市をはじめとして、西ジャワ州の日本との関係がより深まることが期待されます。

西ジャワ州は、従来からイスラム色の強い保守的な地盤として有名です。また、3番を支持する3党が中央レベルでもジョコウィ政権に対して野党的な立場をとっており、もし3番が勝利すれば、来年の大統領選挙への影響が考えられるところでした。今回の予想外の結果が何を意味するのか、じっくりと考えてみる必要がありそうです。

●中ジャワ州知事選挙:現職再選も意外な僅差

中ジャワ州知事選挙は2組の候補ペアで争われました。1番はGanjar Pranowo(現州知事)= Taj Yasin Maimoen(州議会議員)、2番はSudirman Said(元エネルギー鉱産資源大臣)= Ida Fauziyah(国会議員)で、現職に元大臣が挑む展開となりました。

(出所)http://kpud-purbalinggakab.go.id/images/Slide/Materi-Web.jpg

1番を支持する政党は闘争民主党(PDIP)、民主党、ナスデム党、開発統一党(PPP)、ゴルカル党の5党、2番はグリンドラ党、福祉正義党(PKS)、民族覚醒党(PKB)の3党です。

当初から現職が圧倒的に優勢という下馬評でしたが、実際の開票結果は、圧勝とはいえないものでした。

すなわち、1番が得票率58.8%、1019万7593票(速報値)を獲得して当選しましたが、2番が予想以上に健闘した印象です。

再選されるGanjar氏は、闘争民主党所属の国会議員から州知事へ転身した人物です。官僚的な行政システムの改善に果敢に取り組んでいますが、基本的に、まだ政党政治家の枠から飛び出せていない印象があります。

●東ジャワ州知事選挙:NUを二分する厳しい選挙

東ジャワ州知事選挙は、中ジャワ州と同様、2組の候補ペアが立候補しました。1番はKhofifah Indar Parawansa(前社会大臣)= Emil Dardak(トレンガレク県知事)、2番はSaifullah Yusuf(州副知事、元後進地域開発担当大臣)= Puti Guntur Soekarno(国会議員、スカルノ初代大統領の孫)です。Khofifah氏は前回に引き続いての州知事選挙立候補でした。

(出所)https://i1.wp.com/kabarrakyat.id/wp-content/uploads/2018/04/Pilkada-Jawa-Timur-2018-Kabar-Rakyat-id.jpg?resize=720%2C504&ssl=1

1番を支持するのは民主党、ゴルカル党、開発統一党(PPP)、ナスデム党、国民信託党(PAN)、ハヌラ党の6党です。一方、2番は民族覚醒党(PKB)、グリンドラ党、闘争民主党(PDIP)、福祉正義党(PKS)の4党です。

現職のSukarwo州知事は2期ともSaifullah氏を州副知事としてペアを組みましたが、民主党東ジャワ州支部長であるため、今回は、前回自らと対決したKhofifah氏を支持し、盟友だったSaifullah氏に対抗する、という皮肉なめぐり合わせとなっています。

また、Khofifah氏もSaifullah氏も、国内最大のイスラム社会団体であるナフダトゥール・ウラマ(NU)の幹部であり、NUを割る選挙となりました。

事前の予想では両者ほぼ互角で、実際、どちらが勝つか予断を許さない状況と見られていました。

開票結果はまだ公表されていませんが、いくつかの民間機関による予想結果では、1番が過半数を制して、優勢であると報じられています。このまま1番が当選するにしても、東ジャワ州行政が大きく変わることはないと思われます。

なお、1番の州副知事候補のEmil氏は、立命館アジア太平洋大学において最年少で博士号をとった人物で、日本との関係強化への期待があります。

●バリ州知事選挙:汚職疑惑は繰り返されるのか

バリ州知事選挙は、2組の候補ペアで争われました。1番のペアはWayan Koster(国会議員)= Tjokorda Oka Artha Ardana Sukawati(元ギアニャール県知事)、2番はIda Bagus Rai Dharmawijaya Mantra(デンパサール市長)= I Ketut Sudikerta(州副知事)です。

(出所)http://www.inibali.com/2018/01/pilkada-bali-2018-gubernur-pastika.html

1番を支持する政党は闘争民主党(PDIP)、ハヌラ党、民族覚醒党(PKB)、国民信託党(PAN)、統一正義党(PKPI)の5党です。一方、2番を支持するのは、ゴルカル党、ナスデム党、民主党、グリンドラ党、福祉正義党(PKS)、月星党(PBB)の6党です。

開票結果は、1番が得票率57.62%、121万1556票を獲得して当選しました。Wayan氏はこれまで何度も汚職撲滅委員会(KPK)の取り調べを受けたことのある人物であることに留意する必要がありそうです。

●残りの結果解説とまとめは次号で

本稿で触れられなかった西ヌサトゥンガラ州、東ヌサトゥンガラ州、西カリマンタン州、東カリマンタン州、南スラウェシ州、東南スラウェシ州、マルク州、北マルク州、パプア州の州知事選挙の結果についての解説、および州知事選挙全体のまとめは、次号で行う予定です。お楽しみに。

(松井和久)

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