よりどりインドネシア

2018年07月09日号 vol.25

インドネシアへの中国投資の現状(松井和久)

2018年07月09日 22:03 by Matsui-Glocal

情報ウェブマガジン「よりどりインドネシア」では、これまでも何度かインドネシアへの中国投資について触れてきましたが、現状はどうなっているのか、ここで少し触れておきたいと思います。

2018年4月12~14日、ルフット・パンジャイタン海事担当調整大臣が中国を公式訪問しました。この席で、インドネシアと中国は、中国の一帯一路構想に基づき、5案件、総額233億ドルの協力協定に調印しました。

この5案件には、北カリマンタン州カヤン川の水力発電所建設(20億ドル)、石炭を原料とするジメチルエーテル(DME)製造開発(7億ドル)、北カリマンタン州カヤン川水力発電所の合弁企業への投資(178奥ドル)、バリ州での発電所の合弁企業への投資(16億ドル)、製錬所(12億ドル)が含まれています。

北カリマンタン州を流れるカヤン川(出所)http://beritadaerah.co.id/2017/05/16/luhut-tawarkan-plta-sungai-kayan-kalimantan-utara-di-tiongkok/

このほか、同時に、電気自動車・二輪車開発と北カリマンタン州タナクニン・マンクパディ工業団地建設に関する覚書も調印されました。

●インドネシアの北部を攻める中国投資

ルフット調整大臣によると、中国との協力の重点拠点事業は次の国内4カ所ということです。すなわち、(1) 北スマトラ州クアラナム空港周辺の工業団地とアエロシティ建設、(2) 北カリマンタン州タナクニン・マンクパディ工業団地建設、(3) 北スラウェシ州ビトゥン市のレンベ国際空港及び工業団地建設とリクパン観光開発、(4) バリ州のテクノパーク及び高速道路建設、です。

これをみると、中国の戦略が明確に見て取れます。すなわち、バリを除いて、インドネシアで最も北に位置する要所を抑えています。

もちろん、これは、中国の東南アジアから太平洋へ向けての海洋進出の一環であり、インドネシアとの間で領海問題を起こしているナトゥナ諸島海域での中国の優位を確立する目的もあります。

そして、結果的にそれは、日本や中国との今後の経済関係の発展を見据えて、インドネシアの北の国境付近を開発したいインドネシア側の思惑と一致する形となっています。

中国側は、インドネシアを東南アジアで最も投資しやすい国の一つとみており、とくに、投資額が25億ドル以上の外資への税インセンティブを高く評価しているということです。

●西カリマンタン州への中国投資

中国のインドネシアの国境付近への投資の動きは続いています。7月になって、マレーシアのサラワク州との国境を接する西カリマンタン州への投資計画が公表されました。

西カリマンタン州投資・ワンストップサービス局によると、2015年から話を進めてきた中国からの11社がクタパン県へ進出するということです。農業、木材加工、エネルギーなど11分野への投資で、最大のものは金属加工業投資(4681.6億ルピア)、11社全体でのインドネシア人向け雇用創出は1655人です。

西カリマンタン州は、ポンティアナクやシンカワンを中心に、華人人口が他州より相対的に多いだけでなく、華人コミュニティがしっかりと存在します。とくに、シンカワンは、祭事などで世界中から多くの華僑(とくに客家)が集まる場所であると同時に、余談ですが、台湾、中国、シンガポールなどからメールオーダーで良縁探しに来訪する場所としても名高いようです。

●パプア州ナビレ県では違法中国企業が摘発

一方、パプア州ナビレ県では、違法操業していた中国企業が摘発されました。

摘発されたのは、ナビレ県のマガウォ川で違法な金採掘を行っていたPT. Hanjunという中国企業です。日産100グラムの金を生産していました。

PT. Hanjunの違法金採掘現場(出所)https://www.imcnews.id/read/pt-hanjun-asal-china-menambang-emas-ilegal-di-kali-magowo

この企業は、2017年1月から2018年4月までの16ヵ月間、採掘事業許可(izin usaha penambangan)を持たずに操業していました。同社は、ナビレ県鉱産エネルギー局の前局長が署名した案内状(surat keterangan)しか持っていませんでした。

1グラム当たり50万ルピアとすると、16ヵ月で240億ルピアの国家損失をもたらした計算になります。

パプア州鉱業エネルギー局によると、ナビレ県で金の採掘事業許可を持つ事業者は1件しかないのに、違法な金採掘で摘発されたのはこの件を含めて6件にのぼるということです。

金採掘の問題は、政治家、官僚、治安当局など地元有力者との癒着の問題でもあり、この件の真偽を一概に論じることはできませんが、そうしたところにも中国企業の影が見え隠れしていることはたしかです。

違法な金採掘については、「よりどりインドネシア」第5号の以下の記事でも触れましたので、ご参照ください。

密かに広く地方で進行する違法な金採掘

●中国投資が決して支配的なわけではないが・・・

来年の大統領選挙を控え、一部の政治家やメディアでは、中国人労働力の流入などを題材に、インドネシア国内における中国の存在感の増大を警戒すべきとの見解がみられます。

2018年4月、外国人就業規制が緩和されましたが、この緩和によって、さらに中国人労働力がインドネシアへ流入するのではないかとの懸念が高まりました。その恐怖感をあおって、来年の大統領選挙を有利に進めたいと考える勢力も存在するようです。その辺については、「よりどりインドネシア」第20号の以下の記事で解説しましたので、ご参照ください。

外国人就業規制緩和の光と影

この記事を読んでいただければわかりますが、政府発表の数字で見た場合、インドネシア国内の中国人就業者数は、メディアでいわれるほど、決して多くはありません。

中国で働くインドネシア人労働者数のほうがインドネシアで働く中国人労働者数をはるかに上回っています。しかし、中国人流入に反発する側は、大量の違法中国人労働力が存在すると主張しています。

投資調整庁が発表した2018年第1四半期の国別投資実施額を見ると、1位は中国ではなく、シンガポールで投資額は26億ドル(全体の32.6%)でした。シンガポールの次が日本で14億ドル(同16.7%)、3位が韓国(9億ドル、同11.6%)で、中国は第4位(7億ドル、同8.3%)でした。

投資額でみる限り、中国投資は決して支配的とはいえません。ただし、非合法の投資がどれぐらいあるのか、調べた統計はまだありません。

オンブズマンの7州における調査によると、同じ職種・職位で、中国人労働者がインドネシア人労働者の3倍の給与を得ているという結果が出て、それを問題視する声が上がっています。

他方、下記の記事では、国会議員が中スラウェシ州モロワリ県にある中国企業の精錬工場を視察した結果を発表しています。それによると、中国人労働者数はインドネシア人労働者数の1割以下で、同一労働における給与水準にも大きな格差はなく適正だった、ということでした。

Komisi IX DPR Cek Isu Serbuan TKA China di Morowali, Begini Faktanya

いずれにせよ、中国投資や中国人労働者については、今しばらく、メディアを賑わせ続けるものと思われ、注意深く見ていく必要があります。

(松井和久)

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