よりどりインドネシア

2022年09月22日号 vol.126

村人と行政事業レビューをやってみました! ~ジャワの2つの村での事業仕分けの試み~(北田多喜)

2022年09月22日 23:33 by Matsui-Glocal
2022年09月22日 23:33 by Matsui-Glocal

「2番目ではダメですか?」というフレーズ、民主党政権の事業仕分けで有名になりました。皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか。その事業仕分けをインドネシアで実施する、なんていったら、「ご冗談を。そりゃあ無理でしょ!」、そう思われる方もきっと多いのでは・・・。

でも2022年5月、ジョグジャカルタ特別州バントゥル(Bantul)県のスリハルジョ(Sriharjo)村とグウォサリ(Guwosari)村で、本当に実現してしまったのですよ! Youtubeにもやっとアップされましたので、是非、以下のリンクにアクセスしてご覧ください。

具体的な様子はこの動画をみていただくとして、今回は、インドネシアと事業仕分けの今までと5月に実施された模擬事業レビュー(内容は事業仕分けですが、プロジェクトでは「事業レビュー」としています)について皆様にお伝えしたいと思います。

●インドネシアで事業仕分け、実はけっこう古い話

現在は2022年、でもインドネシアに事業仕分けを紹介する、という話は、実はけっこう古い話なんです。

事の発端は2008年。JICAの地方代表議会(以下DPD)議員・事務局能力強化研修のなかで事業仕分けを紹介したのが最初でした。

2004年にできたばかりのDPD。事業仕分けがDPDの新たな特徴になる可能性があるのでは、と当時JICAのDPD研修のコースリーダーだった私は仕分けを研修プログラムに入れてみることにしたのです。

講義は、事業仕分けを2002年から自治体で実施し、国での実施の知見も持つ一般社団法人構想日本に依頼。ただ、当時の研修参加議員のコメントはおおよそ「よいと思うが現実的ではない」「インドネシアでは無理」というものでした。

その後、研修に参加した西スマトラ州選出のエマ・ヨハナ議員(現在もDPD議員)から、「インドネシアの国会で紹介セミナーをやりたい」という申し出があり、当時、日本での研修に参加したシティ・ヌルバヤDPD事務総長(当時。現環境林業大臣)の理解と強力な後押しがありました。実現には3年ほどかかりましたが、2012年に国会の本会議場で、JICAのフォローアップの枠組みで一日セミナーを実施することができました。

そして、ご覧ください!この真剣な参加者の表情(下写真)!

正直言って、驚きでした。会場には300人以上が参加。同時通訳機器が足りなくなるほどで、鋭い質問も相次ぎました。

その後も、細々と友人知人に、もしくは様々なインドネシア公務員対象の研修で事業仕分けを紹介してきました。仲がいいスラバヤ市の職員には「わあ、これはいろいろなことがバレてしまう、やばい」と言われたことも。

しかし待てば海路の日和あり。なんと奇跡と幸運が重なって、ODA予算がつくプロジェクトになったのです。

●事業レビューがODAプロジェクトに

事業レビューのプロジェクトは、以前からお世話になっている構想日本、そして古い友人がいるジャカルタ・ベースのNGOであるTifa財団と一緒に進めることになりました。

しかし、すぐにコロナ禍に突入してしまいました。そこで、1年目は事業仕分けを紹介するガイドブック(インドネシア語版)制作、そして、その出版を記念するウェビナーの実施、事業仕分けを紹介するアニメーション(インドネシア語)制作、という活動となりました。 

そして2年目の壮大な野望、それは、インドネシアの村で実際に模擬仕分けを行うことでした。Tifa財団の皆さんの尽力で、国家開発企画庁(Bappenas)が事務局を担っているOGI(Open Government Indonesia)の2021・2022年国家行動計画(Rencana Aksi Nasional)のなかに事業レビューが入りました。ただし、OGIから2つ以上の村での実施を、との条件が付きました。

そして2022年5月20日、21日、ついにグウォサリ村とスリハルジョ村で事業レビューが実施されました。

●事業レビューはどのように行うのか

ここで簡単に事業レビューって何をどうするの?ということを改めて簡単に説明しておきます。一般的な流れは次の通りです。 

  1. 自治体事業担当者(自治体職員)が評価対象事業について説明(10分)。
  2. 外部(地元関係者などを除く)評価人と担当者が事業シート(事業情報を盛り込んだ事実データなどを記入したシート)に基づいて質疑応答して、論点を明らかにしていく(40分)。
  3. 住民から無作為抽出された市民判定人が、評価人と事業担当者の質疑応答を聞き、事業を継続するか、要改善か、事業廃止か等を投票し、コメントも記入する(10分)。
  4. 評価結果公表。市民判定人、評価人のコメントをいくつか共有(5分)。

全体で約1時間。これを全面公開の場で実施します。「2番目ではだめですか?」の時代と決定的に違うのは、この無作為抽出によって選ばれた住民(注1)が最終的に評価する、というところです。

(注1)近年、欧米を中心に無作為抽出の住民参加による民主主義(ロトクラシー)の効果が見直され、ドイツ、フランスでも実践されています。日本でも構想日本が支援する自分ごと化会議の他、札幌、杉並区などで試みられています。

さて、これらの点を踏まえて、村の人たち(特に村役場の職員さんたち)の反応は以下のようなものでした。

「無作為抽出で選んだ村の人たちが事業を『理解』して『評価』できるの?」

「事務局の人選、役場職員以外に村議会の議員も入れてほしい」

皆さんはどう思われますか?インドネシアでは「住民参加」の開発予算計画編成会議(Musrenbang)が毎年、村レベルから県・市、州、国レベルまで行われています。ここでは住民参加が謳われていますが、「形骸化している」という話も聞きます。またこれは予算編成の段階なので、実施後の事業がどうだったかについて、住民が評価できる仕組みはインドネシアにはまだないとか(注2)。

(注2)東部インドネシアの村で自主的にやっているところがあると聞きました。

まず、村の人は評価できるのか。この懸念は30名の市民判定人のうち15名を村の組織の代表者(婦人会など)から選び、残り15名を無作為抽出で選ぶ、という折衷案で落ち着きました。ただ蓋を開けてみたらほぼなんの問題もなかったのです。

次に、行政が実施するレビューに議員が事務局として参加することはいいのか。事務局は本当に調整や準備をやるだけですし、村協議会議員(BPD、当地においてはBamuskal(Badan Musyawarah Kalurahan))が事務局に参加する、というのは、大げさにいうと「三権分立」に反するのでは?という話にまでなったのですが、村における村落協議会は多分にボランティア的な意味合いもあり、そもそも行政事業の評価は重要なBamuskal の業務なんだから関わらないのはおかしい、という意見が多く議員さんたちも最終的には事務局参加。

日本側の懸念としてそもそも事業シートに記入すべき予算情報が開示されるのか、というものもありましたが、これも村においては結果的には杞憂でした。事業シートには全体の評価をするために行政の予算だけではなく住民負担についても記入する必要がありますが、これについては話し合った末記入することになりました。

また私が感動したのは「この数字どうなってるんだっけ?」となったときに、スリハルジョ村の村長ティティッ(Titik)さんがパラパラっと会計書類をめくって〇〇〇ルピアだね、と即座に答えたことです。凄いですよね!

それ以外にはお話好きなジャワの皆さん。日本では市民判定人は行政側に対して質問することは稀なのですが、市民判定人の皆さんは果たしてずっと黙っていられるのか。結局「それは我慢ならん」ということで、市民判定人の皆さんの質問も10分でしたが追加されました。

そして当日。ふたを開けてみれば1事業の評価プロセスをなんとほぼ1時間で終えることができました!やればできる!準備段階の練習で役場職員さんの事業説明に1時間かかっていたことが嘘のようです。もっとも後日やはり「10分では足りなかった!」と村長にもいわれましたが。

(以下に続く)

  • 日本も見習うべき素晴らしい試み
  • 事業レビュー成功のカギ
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