今回のよりどりインドネシアの別稿「地方首長選挙で『空箱』と戦う」の最後で、「現職の候補者ペアの立候補が認められず、新人の候補者ペアの1組のみが立候補を認められるケースが出てきた」と書きました。
この事態は、今後のインドネシアの地方首長選挙や民主主義を見ていくうえで、極めて重要な出来事ともいえるものです。それはなぜなのでしょうか。
南スラウェシ州の州都マカッサルの市長選挙が、まさにその意味で全国的にも注目を集めています。
マカッサル市長選挙では、再選が濃厚と見られた現職の候補者ペアが最終的に立候補を認められず、新人の候補者ペアの1組のみが唯一の候補者ペアとなりました。このままいけば、新人の候補者ペア1組と「空箱」との戦いとなります。
そのプロセスのなかで、立候補を取り消された現職の候補者ペアの支持者と唯一立候補を認められた新人の候補者ペアの支持者との間で、対立が深まり、衝突や治安悪化の可能性が取りざたされる事態となっています。
この新人の候補者ペアは、マカッサル市議会の民主党を除く10政党(国民民主党、ゴルカル党、闘争民主党、グリンドラ党、ハヌラ党、民族覚醒党、開発統一党、月星党、福祉正義党、正義統一党)の支持を受けているのですが、その背後に有力財閥であるカラ・グループ(ユスフ・カラ副大統領の出身財閥)やボソワ・グループの影が色濃く反映されています。
今や、マカッサルだけでなく、インドネシア東部地域で隠然たる影響力を持つ両グループに逆らうことは、通常ではまず考えられない状況のなかで、地元の政治家や有力者たちが両グループへの「忖度」を図っていることが想像できます。
そうした文脈で考えると、今回の新人の候補者ペア1組が唯一の候補者ペアとなるに至るプロセスで、現職の候補者ペアの立候補を妨げる手法が見えてきたように思えます。そして、その手法は今後、有力者への「忖度」を踏まえながら、手法としてますます多用されていくことが予想されます。
その意味で、マカッサル市長選挙で起こっていることは、今後のインドネシアの地方首長選挙や民主主義を見ていくうえで、極めて重要な出来事ともいえます。
では、以下でその実態を見ていくことにしましょう。
現職の候補者ペアであるダニー=インディラ組のポスター(筆者撮影)
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