よりどりインドネシア

2017年12月22日号 vol.12【無料全文公開】

トラジャ料理の「黒」の正体、パマラッサン(松井和久)

2020年04月18日 13:33 by Matsui-Glocal
2020年04月18日 13:33 by Matsui-Glocal

南スラウェシ州の北側に位置するトラジャは、日本ではトラジャ・コーヒーでおなじみの高品質コーヒーの産地として有名です。

前回の「よりどりインドネシア」第11号では、トラジャの生活道具を紹介しましたが、今回は、トラジャの黒い料理についてご紹介します。

トラジャ料理では、鶏肉、豚肉、鯉(ikan mas)、ウナギ(lendong)などを煮込んだ黒い色の煮込み料理が定番です。この黒い色の素になっているのは、パマラッサン(pamarrasan)という名前のものです。

このパマラッサンですが、実は、東ジャワ料理で有名な黒い肉スープのラウォン(Rawon)に使われるクルワック(kluwak)と同じものなのです。

パマラッサンは、木の実です。下の写真のように、茶色っぽい大きめの実があちこちに実ります。木自体はかなり大きいです。トラジャ観光で有名なレモの岩石墓地へ行くと、岩石墓地から水田を回る散歩道にパマラッサンの木が生えています。

このパマラッサンの実の中には、小石のようなものが包まれています。この小石のような固いものを割ると、中には真っ黒な物体があります。

これを粉状(下写真の左上)にして、煮込み料理に使うのです。実の中の果肉(下写真の右上)も皮(下写真の右下)も、料理に使います。とくに、果肉は、パマラッサン料理には欠かせないものとされるのですが、果肉も入ったパマラッサン料理は、ランテパオのマンボー・レストラン(Restoran Mambo)で出会えるかもしれません。

次の写真は、以前、マンボー・レストランで食べたパマラッサン料理です。

竹筒に入っているのは、豚肉とマヤナ(mayana)という葉を入れて蒸したものです。この竹筒で蒸す料理が、トラジャ名物のピオン(pion)です。トラジャは竹の産地でもあり、料理でもよく使われます。

竹筒の中に入れるのは、鶏肉、豚肉、鯉、水牛肉などで、調理するのに時間がかかるので、レストランで食べるためには、少なくとも2~3時間前に予約する必要があります。

上の写真のピオンの右にあるのが、豚肉のパマラッサンという料理です(下写真)。もちろん、パマラッサンの果肉が入っています。個人的には、果肉の入っているほうが、断然美味しいですよ。ご飯と一緒にいただきます。

それにしても、トラジャではなぜ黒い色の料理が多いのでしょうか。

以前、西ジャワ州のバドゥイ族のように、近代文明を拒絶しているといわれる、南スラウェシ州ブルクンバ県のカジャン族の伝統区域を訪ねたことがあります(そのときの話は、別の機会に書きます!)。

そのとき、「世界の最初の色は黒で、それから様々な色ができていった」という話を聞きました。カジャン族の伝統区域に住む人々は、黒以外の色の服を着てはいけないし、よそ者がその区域に入るには黒装束にならなければならない決まりなのです。

そういえば、トラジャの人々の伝統衣装も基調は黒ですよね。「黒」を表す素材として、パマラッサンが重用されているのかもしれません。もしかしたら、東ジャワ州のラウォンの「黒」にも、同じような意味合いがあったりして。想像が膨らみます。

トラジャ料理で、パマラッサンのお供によく出てくるのは、パキス(pakis)と呼ばれるシダの一種とパパイヤの花の炒めものです。

この組み合わせは、マナド料理などでもおなじみのもので、パパイヤの花の醸し出すちょっとした苦味がなんとも言えず美味しいのです。

トラジャの話題はまだまだ尽きませんが、今回はこの辺で。

(松井和久)

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