よりどりインドネシア

2017年12月22日号 vol.12【無料全文公開】

2018年のインドネシア経済は引き続き堅調(松井和久)

2020年04月18日 13:30 by Matsui-Glocal

2017年のインドネシア経済については、日本であまり話題に上ることもなかったかと思いますが、長年にわたって見てきた眼からすると、びっくりするぐらい堅実で波風の少ない一年だったと思います。

過去のインドネシア経済は、通貨ルピアへの信用が低く、また経済が石油ガス輸出に依存していたため、ルピア下落と物価上昇をどう抑えるかがマクロ経済政策の重要なポイントでした。インフレ率を10%以下に抑える、というのが至上命題でした。また、金利も15〜20%台と極めて高く、資本市場も小さかったので、すぐに資金の流動性がなくなり、インターバンクレートが急騰して、お金が回らない状況が頻発していました。

今や、そのような状況は過去のものです。超低金利の日本に比べればまだ高いですが、それでも、現在の銀行からの貸付レートは、インドネシアではこれまでで最低の10%台へ低下し、インフレ率も3%台に落ち着きそうです。

2017年のルピアはかなり安定していて、ルピア建て債券が発行されるほど、貨幣としての評価も上がってきています。

こうしてみてみると、昔とはずいぶん違う国になったような気がします。中銀や経済閣僚の発言などからも、マクロ経済運営に関する自信を持っている様子が感じられます。

GDP成長率こそ、2017年は5%程度に留まりそうですが、世界経済全体から見れば、決して低い成長率とは言えず、世界経済と同じ程度に停滞している、と見たほうが良いように思います。

こうした状況を踏まえたうえで、2018年のインドネシア経済を見通してみたいと思います。

ジャカルタ北岸に建設された新しい高層アパート群

●2017年の経済を引っ張った成長産業

2017年第1~3四半期の産業別成長率をみると、高い成長率を示しているのは情報・通信業、運輸・倉庫業、金融・保険業、建設業などであり、物流改善や情報インフラ整備など、現政権が最も注力している分野の成長率が高くなっている様子がわかります。

その一方で、農林水産業、鉱業、製造業といった第1次・第2次産業の成長は鈍化したままで、1990年代後半の通貨危機以降、顕著となってきた脱工業化の傾向は依然として強いままです。

製造業部門も、もはや繊維やはきものなどの労働集約工業へ依存するのではなく、機械・金属・自動車などの資本集約工業への転換が志向されて久しいのですが、現実は、他国との競争にさらされつつ、ものづくりの産業基盤強化へはなかなか進めない状況がうかがえます。

建設業の高い成長率は、後述のインフラ整備が盛んになっているためと考えられます。現政権は、歳出の無駄をカットし、インフラ整備を最重点に傾斜的に予算を投入している様子がうかがえます。

表1 産業別に見た前年同期比成長率(%)

(出所:中央統計庁速報)

 

2017-I

2017-II

2017-III

農林水産業

7.12

3.33

2.92

鉱業

-0.64

2.24

1.76

製造業

4.24

3.54

4.84

電気・ガス

1.60

-2.53

4.88

水道・ゴミ処理

4.39

3.67

4.83

建設業

5.95

6.96

7.13

商業

4.96

3.78

5.50

運輸・倉庫業

8.03

8.37

8.27

宿泊・飲食業

4.68

5.07

4.96

情報・通信業

9.13

10.88

9.35

金融・保険業

5.99

5.94

6.44

不動産業

3.67

3.86

3.64

企業サービス

6.80

8.14

9.24

行政サービス

0.22

-0.03

0.43

教育サービス

4.09

0.90

3.70

保健・社会活動

7.10

6.40

7.44

その他サービス

8.01

8.63

9.45

国内総生産(GDP)

5.01

5.01

5.06

 

●2018年の経済は2017年より良くなる

インドネシア銀行や政府は、2018年のインドネシア経済の成長率を5%台前半と見ており、総じて、2017年より経済がやや良くなると見ているようです。

その根拠として、まず、国外要因として挙げられているのが、世界経済の緩やかな回復が挙げられます。

先進国経済は、減税法案が可決されたアメリカなどを中心に、2017年よりも経済が活発化しそうです。他方、途上国経済は、中国やインドをエンジンとして、中長期的に先進国経済を上回る成長率を維持していきます。

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)による金利引き上げは、すでに数年前から言われていることで、市場はそれを織り込み済みで動いており、かつて懸念されたような大きな混乱は起こらないとみられます。

また、商品市況はやや回復が遅れていましたが、それも改善のほうへ向かう兆候が表れているようです。

国内要因では、成長率を鈍化させている国内需要の低迷を喚起させる新たな要因が、2018年には2つ起こります。それらは、アジア大会の開催と地方首長選挙ラッシュです。

アジア大会は、ジャカルタとパレンバンの2都市をメイン会場として、2018年8月18日〜9月2日に開催されます。アジア大会に伴うインフラ整備や観光などの部門の成長が期待されます。

また、2018年には、全国171地方政府(州、県・市)で首長選挙が実施されますが、この選挙がGDPを0.2〜0.3%程度押し上げるという予測が出ています。

このように、国外要因と国内要因の両方で、2018年は経済成長にプラスの要因があり、内需を喚起するだろうと見られています。

●注目されるインフラ投資

成立後3年を経た、現在のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は、インフラ整備の大号令をかけており、とくにジャワ島以外でのインフラ整備を加速させるよう求めています。その成果がじわじわと現れてきています。

2017年第3四半期のGDP成長率は5.06%でしたが、投資を示す総固定資本形成は7.1%という高い成長率を示しました。これまで、成長のエンジンとなってきたのは民間消費でしたが、その民間消費の低迷を投資と輸出でカバーする構図が生まれています。一時的なものかもしれませんが、現時点では、投資と輸出が経済成長を引っ張る形になっています。

実際、ジョコウィ政権が成立後3年間で建設した新規の高速道路建設総距離数は、それ以前の40年間に建設した高速道路のそれを上回っています。さらに、既存道路4万6770キロメートルの維持管理にも手をつけています。鉄道3258キロメートル、港湾24カ所、空港15カ所の建設も進めています。

インフラ整備のマスタープランを策定したものの、ほとんど手をつけられなかったユドヨノ政権とは対照的に、ほぼ連日のように、高速道路開所式など、インフラ整備が着実に進んでいる様子が報道されています。

しかし、問題なのは、こうしたインフラへの需要がどんどん加速していて、整備してもすぐに許容能力を超えてしまう状況にあることです。とくに、都市部の交通や住環境に関するインフラ整備は待ったなしの状態であり、インフラ整備を止めることなく継続していくことが求められてくるでしょう。

また、予算制約のある政府としては、民間にもインフラ整備に関係してもらいたいところです。多くのインフラ事業で「官民パートナーシップ」(PPP)が志向されていますが、実際にはなかなか進んでいないようです。この点も、今後の課題であり続けることでしょう。

●地方の成長センターはジャワとスラウェシ

最後に、地方経済の動きについて触れておきます。次の表は、地域別の経済成長率を示したものです。

インドネシアのGDP(2017年第3四半期)の58.51%は、ジャワによるものです。すなわち、ジャワ経済の状態がインドネシア経済を大きく左右することになります。

表2 地域別に見た経済成長率(%)

(出所:中央統計庁速報)

 

2017-I

2017-II

2017-III

スマトラ

4.05

4.09

4.43

ジャワ

5.66

5.41

5.51

バリ・ヌサトゥンガラ

2.36

3.14

5.24

カリマンタン

4.92

4.44

4.67

スラウェシ

6.87

6.49

6.69

マルク・パプア

4.16

4.52

3.98

全国

5.01

5.01

5.06

 

幸いなことに、2017年第1〜3四半期のジャワ全体の経済成長率は、国全体の成長率を上回っています。

高成長を維持しているのは、スラウェシです。2017年も6%台後半の成長率をキープしています。

逆に、これまで振るわなかったのは、スマトラ、カリマンタンなど、天然資源への依存度の高い地方です。現在でも4%台の成長に留まっています。

バリ・ヌサトゥンガラやマルク・パプアも、全般に成長率が低いですが、変動幅が比較的大きく出ます。

同じインドネシア東部地域のなかで、スラウェシとその他地域との成長格差が明確に現れてきています。 

(松井和久)

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