よりどりインドネシア

2017年11月22日号 vol.10【無料全文公開】

インドネシアで寛容性の高い都市はどこか?(松井和久)

2020年04月18日 13:15 by Matsui-Glocal

2017年11月16日、政府は、2017年のインドネシアにおける寛容な都市のランキングを発表しました。このランキングは、パンチャシラ(建国五原則)指導に関する大統領付作業部会が民間機関のスタラ・インスティチュートとともに行った結果です。

この調査を行うのは、国際寛容デーにちなんでのものです。この国際寛容デーは、1995年のユネスコ総会で「寛容原則宣言」と「国連寛容年のためのフォローアップ計画」が採択されたことに由来して、1996年の国連総会の場で、11月16日と制定されました。日本ではあまり知られていないかもしれません。

スタラ・インスティチュートは、全国94都市を対象に、寛容性の普及度と実現度を指標化しましたが、それは、指標(寛容性)の高い都市を公表することで、他の都市がそれを模範として、寛容性を高めることを目的としているためです。

とくに、宗教の自由がどれだけ認められているか、それをどれだけ制度的に担保しているのか、文化の多様性をどのように保証しているか、事件が起こった際に首長がどのような発言をしたのか、などが指標を決めるパラメーターとなりました。

具体的には、中期開発計画での文言、差別的政策の有無、首長などの発言、実際の対応、寛容性を低下させる事件の発生度、宗教に基づく人口構成の6項目を判断材料とし、この6項目それぞれに10%、25%、12%、18%、25%、10%とウェイトをかけて、指標化しました。

昨今、インドネシアでは、マイノリティに対するマジョリティの威圧や迫害などが起こり、国是でもある「多様性のなかの統一」が脅かされるような雰囲気が現れています。とくに、先のジャカルタ首都特別州知事選挙でも見られたように、人口の多数派であるイスラム教を政治的に利用して威圧する動きが高まり、それがパンチャシラ(建国五原則)の否定につながりかねないと懸念される状況が出てきました。

一方、インドネシアでは異質な存在である私たち外国人にとっても、その存在が多様性の一つとして認められにくくなれば、インドネシアに滞在したり、ビジネスをしたりする場合の大きな不安要因にもなり得ます。寛容性の高い都市に住んだり、そこでビジネスをしたりするほうが、安心できるはずです。

それでは、インドネシアで最も寛容性の高い都市、最も低い都市はどこだったのでしょうか。最も寛容性の高いのは、下の写真の都市です。皆さんは、ここがどこかお分かりですか。

●寛容性の高い都市

この調査での都市のスコアは1~7の間の値で、スコアの高い都市が寛容性の高い都市となっています。

最高値は5.90で、このスコアを出した都市は、以下の5都市です。

  • マナド市(北スラウェシ州)
  • プマタンシアンタル市(北スマトラ州)
  • サラティガ市(中ジャワ州)
  • シンカワン市(西カリマンタン州)
  • トゥアル市(マルク州) 

ここで、簡単に各都市を紹介しておきましょう。 

<マナド市(Kota Manado)>

  • 北スラウェシ州の州都。人口47万4034人(2015年)。海に面し、ブナケン島海域はダイビング・スポットとして国際的に有名。
  • 宗教別の人口構成は、プロテスタント61.08%、イスラム27.53%、カトリック7.77%、仏教3.02%、ヒンドゥー0.48%、儒教0.1%。
  • 種族構成は、大半がミナハサ族(多くはプロテスタント)。ほかにサンギル族(プロテスタント及びイスラム)、ゴロンタロ族(ほとんどイスラム)など。アラブ系、華人系も。
  • 1990年代後半に国内各地で暴動が起こった際にも暴動が起こらなかった数少ない都市。民族融和の見本として全国から視察が来る。

<プマタンシアンタル市(Kota Pematangsiantar)>

  • 北スマトラ州第3の都市。人口24万7411人(2015年)。
  • 宗教別の人口構成は、プロテスタント46.83%、イスラム43.91%、カトリック4.71%、仏教4.36%、ヒンドゥー0.11%。
  • 種族構成は、シマルングン・バタック族61.43%、ジャワ族14.2%、トバ・バタック族9.8%、マンデイリン・バタック族9.8%。他に華人、ムラユ族。
  • トバ湖観光の玄関口でもある高原都市。中華麺やパダン料理、お菓子でも有名な食の街。

<サラティガ市(Kota Salatiga)>

  • 中ジャワ州の高原都市。州都スマラン、ソロ、ジョグジャカルタのちょうど間に位置する。人口18万3815人(2015年)。
  • 宗教別の人口構成は、イスラム78.51%、プロテスタント16.32%、カトリック4.87%、仏教0.21%、ヒンドゥー0.09%。
  • 種族構成は、大半がジャワ族。華人系も。
  • 以前より宗教的寛容性の高い街として知られ、屋外で行われるクリスマス・フェスティバルは有名。また、キリスト教系有名大学のクリスチャン・サティア・ワチャナ大学があるほか、国立サラティガ・イスラム大学がある。教育の盛んな教育都市としても知られる。

<シンカワン市(Kota Singkawang)>

  • 西カリマンタン州第2の都市。人口24万6306人(2015年)。
  • 宗教別の人口構成は、仏教47%、イスラム18%、カトリック15%、儒教12%、プロテスタント5%、道教3%。
  • 種族構成は、客家系華人が約42%、ほかにムラユ族、ダヤック族、潮州系華人、ジャワ族など。
  • 金鉱を目当てに来訪した客家系華人が居ついてできた街である。

<トゥアル市(Kota Tual)>

  • マルク州南東部、ケイ島の中心都市。人口6万7783人(2015年)。
  • 宗教別の人口構成は、イスラム74.91%、プロテスタント18.83%、カトリック5.79%。
  • 種族構成は、ケイ族が大半、ほかにジャワ族、ブギス族、マカッサル族など。
  • 2007年に市に昇格。それ以前は、東南マルク県の県都。

これら5都市よりもスコアで0.1低い、次点とでもいうべきスコア5.80の都市は、次の4都市です。

  •  ビンジャイ市(北スマトラ州)
  •  コタモバグ市(北スラウェシ州)
  •  パル市(中スラウェシ州)
  •  トゥビンティンギ市(北スマトラ州)

上位10都市には、これらのほか、スコア5.72の中ジャワ州スラカルタ市(ソロ市)が続きます。

これら上位の都市に共通するのは、複数の異なる宗教を背景とした住民が古くから交わってきた都市であり、異教徒間のコミュニケーションを長年かけてしっかり深めてきた経験を住民が共有していることが指摘できます。 

●寛容性の低い都市

それでは、逆に、寛容性の低い都市はどこになるのでしょうか。

それは、ジャカルタです。スコアは2.30で最低でした。スタラ・インスティチュートは、首都ジャカルタをインドネシアで最も寛容性の低い都市と判断しました。昨今のイスラム教徒を大動員したデモや、イスラム教徒にイスラム教徒の候補への投票を矯正する呼びかけなどが、寛容性低下の象徴と見なされたものと思います。

そして、ジャカルタ以外に、寛容性の低い都市とされた下位9都市は、以下のとおりです。 

  •  93位 バンダアチェ市(アチェ州):スコア2.90
  •  92位 ボゴール市(西ジャワ州):スコア3.05
  •  91位 チレゴン市(バンテン州):スコア3.20
  •  90位 デポック市(西ジャワ州):スコア3.30
  •  89位 ジョグジャカルタ市(ジョグジャカルタ特別州):スコア3.40
  •  88位 バンジャルマシン市(南カリマンタン州):スコア3.55
  •  87位 マカッサル市(南スラウェシ州):スコア3.65
  •  86位 パダン市(西スマトラ州):スコア3.70
  •  85位 マタラム市(西ヌサトゥンガラ州):スコア3.78

これらの都市をみると、都市化が急速に進んで、新住民の流入が増加し、土着コミュニティの力が相対的に弱くなっているという特徴があります。

とくに、寛容性が悪化した都市としては、ジャカルタが注目されます。今回と同様の調査が行われた2015年のジャカルタは94都市中65位でしたが、2017年の今回は94位と最下位へ落ちました。

対照的に、寛容性が大きく改善したのがブカシ市です。2015年は94都市中93位でしたが、2017年の今回は53位へ上がりました。とくに、サンタクララ教会の閉鎖を求めるイスラム系グループなどによるデモに対して、毅然たる態度を採って閉鎖を拒否した市長の姿勢が高く評価されました。 

* * * * * * * * *

この結果を皆さんはどのように感じたでしょうか。在留邦人の多くは、首都ジャカルタで仕事をしたり、生活したりしているわけですが、実は、そのジャカルタこそが、インドネシアで最も寛容性の低い都市なのです。

日本でのインドネシア情報の多くは、良くも悪くも、ジャカルタを中心に発信されており、ジャカルタに関する情報がインドネシアの情報として日本人に消費されているのが現状です。

本来であれば、外国人として一番警戒して過ごさなければならない場所がジャカルタであるのかもしれません。他方、ジャカルタで起こっているイスラム勢力の威圧を、あたかもインドネシア全土でもそうであるかのように受け取ってしまう可能性があります。

何をもって寛容と捉えるのか、については、様々な意見があり、今回のスタラ・インスティチュートの見解をそのまま鵜呑みにすることはできませんが、私たちがどのようにインドネシア情報を認識しているか、ということをもう一度考え直すきっかけにはなるだろうと思います。 

(松井和久)

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