よりどりインドネシア

2017年11月22日号 vol.10【無料全文公開】

予測不能な「インターネット大国」インドネシア(大島空良)

2020年04月18日 13:16 by Matsui-Glocal

まずはこの記事は個人の偏見に満ち溢れた、ただの新聞の意見欄だという前提で読んでいただきたい、というのをお願いしたいです。

伝えたいこととしては表題の通りなのですが、いくつかのファクトと予想と個人の偏見をふんだんに交えて、ユーザー数だけで見れば「インターネット大国」であるはずのインドネシアの市場予測の難しさを俯瞰的に考察していきます。

ネット業界で仕事をしているわけでもその手のアナリストでもない一個人の意見のため、多方面からの批判は覚悟した上であえて素人が書きだす、こうなればいいのになあ、という「希望」です。

まず、インドネシアのネット事情を見ていくうえで、「日本的ネットリテラシー」という前提は捨てなければならないと思います。

たとえば、交通事故現場や時には殺人の様子までもフェイスブックのタイムライン上に流れ、不快な思いをしたことがある人は少なくないはずです。聞くと、この傾向はインドネシアのみならず、タイやベトナムなど他の東南アジア各国でも同様らしく、日本の【閲覧注意】のような概念は徐々に広まっているものの、まだ薄いというのが現状です。

また、インフラ面からもインドネシアはまだまだ遅れを取っています。地方に行けば、4Gはおろか、そもそもキャリアによっては電波が入らなかったり、表示ではインターネットに接続されているのに全く反応が無かったり、という経験がある人もいるでしょう。また、雨が降ったりアクセスが集中したりする時間になると接続が悪くなるのは、インドネシア在住者では暗黙の常識です。

しかし、こんな状況にもかかわらず、後述しますが、インターネットのアクセスありきのサービスが異常なほど流行っているという側面があって、案外「これはこうだから駄目だろう」というのが外れることもありそうなのです。

もちろん、その逆に、どんなに計算し尽されたものでも、全く予期していなかったところで足元をすくわれ、流行るどころか全く認知もされずにひっそりと撤退する会社もある、ということもよくある話です。

それでは、いくつかの例と共に今のインターネット事情を見ていきましょう。

●盛り上がるMOBAゲーム市場

MOBAというゲームをご存知でしょうか?

世界中でトレンドのゲーム形態なのですが、アプリのタイトルで言ってしまうとMobile Legends、 AOVなどになります。リアルタイムでマッチングした5人対5人がそれぞれのキャラクターを使い、敵と戦い、相手の陣地を壊していく、2017年末時点では、インドネシアで一番流行っている、と断言できるゲームです。パソコンのゲームでは「DOTA」のシステムと全く同じで、MOBAというタイトルは、これを携帯アプリとして応用したものだと思っています。

一試合だいたい15~30分ほどと、それなりに時間がかかるにもかかわらず、街角ではこのゲームをプレイする人が至る所にいます。

このゲームは、インターネットが途切れてしまうと操作を受け付けなくなり、自身のキャラクターが死んでしまったり、他のプレイヤーに迷惑をかけたりすることもある、とてもインドネシアのインフラ環境に適しているとは言い難いゲームなのです。

もちろん接続切れはよくある話で、プレイヤーは、ゲーム内のチャット機能にて「lag」と書き込み、チームに接続が切れたことを知らせます。

しかし、2017年末現在、Mobile Legendsはインドネシアのアンドロイド・ストアで5000万ダウンロードを突破しており、2017年下半期の売上第1位をずっと維持しています。

また先日、ジャカルタのタマン・アングレック・モールで開かれたMobile Legendsのイベントには、会場を埋め尽くすほどの参加者が訪れ、イベント・オーガナイザーの友人曰く、「ピーク時は本当に息ができないほどの人が来た」とのことでした。

筆者が参加するいくつかのゲームイベントでは、Mobile Legends、AOVという2大タイトル以外にも、新たなMOBAがどんどんと出ている様子が見てとれました。

Mobile Legendsのイベントを上から撮影した様子

●インターネットで変化する性風俗形態

新たにジャカルタ首都特別州知事となったアニス・バスウェダン氏は、就任して数日後、日本人駐在員も愛用したと思われるホテル・アレクシスの営業許可延長を拒否しましたが、巷ではこのニュースで持ち切りとなりました。

アニス州知事はこれまで、置屋街として有名な北ジャカルタ・カリジョド地区の不法滞在住民を立ち退かせて公園化するものの、真の風俗営業は取り締まらなかった前知事のアホック氏を批判してきました。このホテル・アレクシスの閉鎖は、アニス氏の目玉政策の一つでした。

そしてアニス州知事は、これに勢いをつけ、「他のホテルもこれからは対象になっていく」と発言しました。ホテル・アレクシスは、ローカルのお金持ちの間でも、その名前が有名な風俗店でした。

では、風俗嬢たちは取り締まりを待つしかないのでしょうか?

日本では、昼間はOLや学生、夜にそういったサービス店で働き、副収入を稼いでいる女性もたくさんいますが、実は、インドネシアでもそんな女性が多くいるんです。

【BO】【pijat panggilan】などというキーワードでツイッター検索をしてみてください。SNS上では、この言葉は性感マッサージの隠語になっています。

もしくは、もっとわかりやすく、【Jaksel】【Jakpus】【Jakbar】など「南ジャカルタ」「中央ジャカルタ」「西ジャカルタ」等の省略形で検索してみましょう。それぞれの地域行政アカウントのほかに、見るからにいかがわしい女の子のプロフ画像が並ぶことでしょう。

ツイッターで検索すると、キーワード次第ではこのようなアカウントが並ぶ

TinderやLovelyなどのいわゆる出会い系マッチングアプリでも、こういった隠語を使い、自身の広告をしている子も非常に多いです。

彼女たちは、ツイッターなどのSNSプロフィール上に「仕事用」のWhatsApp番号を記載しており、「1時間いくら」などという最低限の情報を公開し、WhatsAppから直接コンタクトするように誘導しています。

若くきれいな女の子ほど強気の値段設定、信用度の低い女の子は、最初にプロモ価格を設定しているようです。

彼女たちに連絡を取ると、頭金として振込を義務とする子もいればそうでない子もおり、自分が宿泊するホテルの部屋番号と時間を伝えます。

ホテルに到着するまでのやり取りや終わった後の客の感想などのチャットは、個人情報部分にモザイクをかけ、女の子が自身のツイッターに上げることにより、信用を担保していきます。

女の子目線で見ると、ホテルの宿泊費以外は特別経費がかからず、お店や他プレイヤーに売上を抜かれることがないこと、税金の心配がないこと(もちろん、これは違法です)、自分の都合で自由に仕事時間が組めること、やり取りが気に入らない男はブロックしてしまえばいいことなど、店舗型と比べた場合、メリットのほうがはるかに大きいのは間違いありません。

今まで男性がお店で女性を選んでいたのが、女性のほうが客を選ぶ、逆の時代が到来しているのかもしれません。

コスと称される下宿や格安アパートの並ぶ、南ジャカルタのカリバタ地区では、それらの多くの部屋がそういった女の子でいっぱいになっています。

また、こういった情報をまとめ、今すぐブッキングできる子をまとめたツイッター・アカウントすらあります。これから徐々に、風俗業界のプラットフォーム・ビジネスモデルが確立していくでしょう。

また、このモデルには、女性専用の男性テラピスト・アカウントもあれば、ホモ、レズビアン専用の同性愛アカウントまで色々と表社会では難しいサービスが揃っています。

歪んだ性規制に揺らぐインドネシアでは、こういった風俗業界まで、店舗型からデリヘル、ホテヘル形式などへ、ITを使い、変わっていきます。

このように、既存の利権によって潰されてしまうものが、オンライン上の世界へ逃げ出していくケースは、これから頻発していくことでしょう。

●数は世界を凌駕する!インドネシアのネットユーザー

インドネシアの魅力と言えば、その人口でしょう。一説では2025年頃まで人口ボーナスがあると言われ、伸び続ける購買力と拡大する市場を目当てに進出する外資が後を絶ちません。

先日、元JKT48のタレント、中川遥香さんが、昨年に引き続き「世界で影響力のあるツイッター」女性の第7位に唯一アジアの女性から選ばれた、というニュースがありました。

140万人にフォローされる彼女のツイートは、瞬間的にインドネシアのファンにリツイートされます。しかし、誤解を恐れず言わせていただければ、彼女のツイートに毎回とくに光るものはなく、1ツイートも毎回数千数万という数がリツイートされるわけではありません。

それでは、なぜ「世界で7番目の影響力」を持っているのでしょうか。この判断は読者に委ねるとしましょう。

ある資料によると、インドネシアのモバイ加入者数は3億2600万人と、全人口の125%に上るとされています。最大手のテレコムセル(Telkomsel)のユーザー数のみでも、日本の3キャリア全てを足した数を凌駕するのです。

ただし、こちらの情報は根拠に乏しく、来年3月までにすべての携帯ユーザーがIDカードの情報を改めて入力することで、真の加入者数とアクティブユーザー数が出ることでしょう。

また、少し古い話になりますが2011年CNNの選ぶ世界で一番おいしい料理にルンダン(ココナツミルクと香辛料による牛肉のスパイシー煮込み)、次点でナシゴレンが選ばれたというニュースが広まったことがあります。

 https://www.visitindonesia.jp/news/111007-2.html

もちろん、ルンダンもナシゴレンも文句なしで美味しい料理であり、それを否定するつもりは毛頭もありません。しかし、本当に「世界で一番おいしい」のでしょうか?

このカラクリが、フェイスブックの「投票」により行われたからだ、と聞けばなんとなく合点がいくでしょうか。

今回は、インターネットの接続が安定しないにもかかわらず、インターネットの接続ありきのゲームが異常な流行をしていること、現行の体制の外においてインターネットで新たなビジネス形態ができ上がっていること、「数」が恣意的にオンラインに影響を与えること、を取り上げました。

次回は、インドネシア独特の市場を読み取るにあたり、日本人には少し想像のつかない若者とインターネットとの距離感を見て、予想のつかない市場を更に見ていこうと思います。

(大島空良)

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