よりどりインドネシア

2023年12月23日号 vol.156

インドネシア政治短信(7):大統領・副大統領候補者討論会を視聴して(松井和久)

2023年12月23日 20:35 by Matsui-Glocal
2023年12月23日 20:35 by Matsui-Glocal

11月28日に2024年正副大統領選挙の選挙運動が開始されて、もうすぐ約1ヵ月になる。この間、12月12日に大統領候補討論会、22日に副大統領候補討論会が行われた。大統領候補討論会のトピックは行政、法律、人権、汚職撲滅、民主主義の強化、公共サービスの向上などであり、副大統領候補討論会のトピックは、経済(庶民経済、デジタル経済)、金融、投資、税制、貿易、予算管理、インフラ、都市問題などであった。

正直言って、各トピックを掘り下げて整然とした議論を行なった、というには程遠い内容だった。各候補は、それらトピックに関連した内容の自陣営のビジョン・ミッションを説明するにとどまり、自らの言葉で論理的に考えて議論する様子ではなかった。その意味で、新味はなかったが、どのような態度で受け答えするか、質問に誠実に答えようとしているかなど、各候補の見た目の印象を視聴者に与えるイメージという面では効果的なショーだったといえる。

大統領候補討論会閉会後の3候補(左からガンジャル候補、プラボウォ候補、アニス候補)(出所)https://www.cnbcindonesia.com/news/20231213135558-4-496930/ramai-ramai-media-asing-sorot-debat-capres-pilpres-ri

●大統領候補討論会で感情的だったプラボウォ候補

12月12日の大統領候補討論会では、2014年、2019年の討論会のときにもみられた、プラボウォ候補の悪い癖がまた表れた。すなわち、すぐ感情的になることである。今回も、質問に答えられなくなると、他候補の意見に同意するか、あるいは「アニス、アニス、アニスさんよぅ・・」と感情をむき出しにした。アニス候補もガンジャル候補もそれを知っている様子で、プラボウォ候補に感情的な反応を引き起こさせるような質問や議論を吹っ掛け、あたかも、これら2候補からプラボウォ候補が集中射撃を受けているかのような様子にも見えた。そして、プラボウォ候補の感情的な反応に対して、アニス候補もガンジャル候補も感情を顔に出さず、冷静に対応する。とくに、学者でもあるアニス候補の理路整然とした受け答えがネット上では高評価を得た様子がうかがえる。

普通にみればそうなのだが、必ずしもそうとは言えないかもしれない。今回の選挙戦で、プラボウォ候補は、若者向けに「太っちょ(gemoy)のカワイイおじさん」というキャラを前面に出し、その太っちょの体を揺らしながら、ダンドゥットに合わせて踊る姿が人気を博している。このキャラは生成AIで作成したものである。プラボウォと言えば、年配者は、人権侵害に問われた過去のある強面のイメージを持っているだろうが、そこからすると、相当の違和感を抱くに違いない。まるでキューピーさん人形のような、愛くるしい顔をしたキャラクターになってしまっているのだ。

プラボウォ候補の「太っちょおじさん」キャラ。(出所)https://www.metropolitan.id/politik/95311011947/dedi-mulyadi-bikin-acara-lomba-bapak-joget-gemoy-untuk-dukung-prabowo-subianto-pesertanya-sampai-500-orang

このプラボウォ候補のイメージからすると、あの討論会は、学者であるインテリから太っちょのカワイイおじさんがいじめられているように見えてしまうだろう。かわいそうなおじさんへの同情心が生まれたかもしれないのである。前回までのような「強い指導者」のイメージを表面的に封じたプラボウォ候補の新たな戦略は、若者票の取り込みに成功しつつあるようだ。

(以下に続く)

  • 副大統領候補討論会で攻めるギブラン候補
  • 争点が表出しない、表出できない正副大統領選挙
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