よりどりインドネシア

2023年12月23日号 vol.156

ラサ・サヤン(47):~ゴミの山~(石川礼子)

2023年12月23日 20:36 by Matsui-Glocal
2023年12月23日 20:36 by Matsui-Glocal

●日本から不法輸出されたゴミ?

“Bappa Shota”というYouTubeチャンネルがあります。この番組の動画を制作するShotaさんは4年前から番組を制作し、現在までに152本の動画を投稿する旅行系ユーチューバーです。フィリピンの山奥やスラム街に入り込んだり、タイの密林や中国とベトナムの国境を訪ねたり、インドの寝台列車に乗ってみたり、モンゴルを馬に乗って横断したりと、私には未知の世界を疑似体験させてくれる番組で、すっかりファンになっています。

その“Bappa Shota”が、今年の7月11日に投稿した動画に少なからずショックを受けました。それは、『日本から不正輸出されたゴミが溢れるインドネシアの隠された街の現状がとんでもなかった』というタイトルで、ジャカルタの社会から隠されたゴミ山で働く人々、プラスチックが及ぼす環境問題について、実際に現場を訪れて取材した内容になっています。

内容は、彼の動画を見て頂ければ十分理解できるのですが、「日本から不正輸出されたゴミが溢れている」というのは一体真実なのか、他のソースを基に「インドネシア向けに不法輸出されたゴミ」について検証していきたいと思います。

●ゴミの植民地主義

2020年時点でのゴミが多い国ワースト10は、中国、米国、インド、ブラジル、インドネシア、ロシア、メキシコ、ドイツ、日本、フランス、の順になっています。ほぼ人口の数に比例していますが、人口世界第12位の日本がワースト第9位(年間4,270百万トン)となっており、人口世界第19位のドイツが第8位、人口世界第23位のフランスが10位と人口の数に比して、かなりゴミの量が多くなっています。

第5位のインドネシアは年間6,520万トンのゴミを出しています。それに加えて、約23万4,000トンの廃プラスチックを海外から輸入しています。2022年の時点では、オランダからの輸入が最も多く5万1,492トン、ドイツから3万7,530トン、スロベニア、米国、シンガポール、オーストラリア、ベルギーと続き、日本からは年間6,312トンを輸入しています。

アフリカは、現在まで数十年間にわたり、植民地支配をしていた旧宗主国との間での搾取的な関係が続いており、『ゴミの植民地主義』などと言われていますが、インドネシアも同様、300年以上にわたり植民地支配したオランダからの廃プラスチックを最も多く受け入れています。

経済先進国は、自分たちのゴミの多くを数十年にわたり中国に輸出していましたが、2018年に中国が廃プラスチックの受け入れを禁止してから、アフリカならびに東南アジアへの輸出量が膨れ上がり、インドネシアには2万トン以上の廃プラスチックが輸出されました。以降、タイ、ベトナム、マレーシアが輸入規制し、インドは2019年8月に全面輸入禁止としました。

インドネシア政府においては、商業相規則2019年第84号(上記規則の一部は、商業省規則2019年第92号で改訂)を発行し、「製造工程由来のもの(家庭由来ではない)」、「B3(有害、有毒、危険物質)ではないもの」、「工業生産の二次原料として使用されるもの」等の条件を満たした廃プラスチックのみ輸入を許可するに至りました。しかし、現場での規制の実施が難しいことで、2019年の商業相規制2019年第84号は、2021年の商業相規制第20号を以って廃止され、新たな問題を引き起こしています。

●世界最大級の「TPA

税関職員への贈収賄による不法廃棄物輸入が横行し、法の抜け穴をかいくぐって不法輸入をしている企業も少なくないようです。ここで言う「不法廃棄物輸入」とは、輸出入協定または取引に含まれていない再利用不可能な廃棄物の持ち込みのことを言います。その結果、インドネシアでは再利用できない廃棄物がますます山積みとなり、インドネシアは「TPA」(Tempat Pemrosesan Akhir)と呼ばれる「ゴミの最終処分場」が危機に直面していると言われています。

インドネシア全国の514の県と市に「TPA」が存在しますが、「TPA」に運ばれるゴミのうち、35%は衛生処理がされていないオープン・ダンピング(野積み状態)となっています。

ジャカルタに隣接する西ジャワ州ブカシ市バンタルゲバンにある「TPA」は東南アジア最大級の「ゴミ最終処分場」と言われています。117.5ヘクタールの土地に毎日7,500~8,000トンのゴミが届き、ゴミ山の高さは40メートルに達しています。ゴミの収容能力はすでに80%を超えています。そして、そこには7,000人以上の労働者とその家族たちが暮らしており、ジャカルタ首都特別州の各地から収集されたゴミを廃棄しに来るトラックからゴミを分別するために働いているのです。

バンタルゲバンにあるTPA(ゴミ最終処分場)のゴミ山。(出所)https://www.kompasiana.com/carlosaputro0017/6423b5a44addee38d04849c2/bantargebang-darurat-tumpukan-sampah

インドネシア国内でのゴミ処理の取り組みについては、『よりどりインドネシア』第137号で松井さんが書かれていますので、省略します。

●ゴミを送り返す

2019年6月、インドネシア政府は、アメリカから「資源回収ゴミ」として輸入したゴミが、使用済み紙おむつや食べ残しの付いたプラスチックなどだったことから、ゴミの入ったコンテナ5個をアメリカに送り返しました。同年7月には、オーストラリアからスラバヤ港に到着したコンテナ8個には紙くずのみが入っているはずだったものが、プラスチック製のボトルや包装材、汚れたおむつ、電子廃棄物や缶などが含まれており、210トン超をオーストラリアに返送しました。

不法廃棄物が混入していた輸入ゴミ。(出所)https://www.idntimes.com/science/discovery/nena-zakiah-1/alasan-negara-maju-mengirimkan-kontainer-berisi-sampah-ke-indonesia

今のところ、日本から輸出されたゴミに不法廃棄物が混入していたという情報はありません。したがい、“Bappa Shota”がYouTubeチャンネルのタイトルにした『日本から不正輸出されたゴミが溢れるインドネシアの隠された街の現状がとんでもなかった』という事実は確認できませんでした。

日本政府・環境省はむしろ、不法輸出入の防止対策に積極的であり、1993年に「バーゼル条約」(一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組みおよび手続等を規定した条約)に加盟し、関係国のバーゼル条約実施能力の向上および関係国間の情報ネットワークを整備することを目的とした『有害廃棄物の不法輸出入防止に関するアジアネットワーク』のワークショップを毎年、開催しています。2022年11月には、3年ぶりとなる対面開催方式にてインドネシアのメダンで開催されています。

(以下に続く)

  • ファストファッションの歪み
  • スリフティングの流行
この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

いんどねしあ風土記(53):世界遺産「ジョグジャカルタ哲学軸」が示すもの ~ジョグジャカルタ特別州~(横山裕一)

2024年04月23日号 vol.164

ウォノソボライフ(73):ウォノソボ出身の著名人たち(2) ~女優シンタ・バヒル~(神道有子)

2024年04月23日号 vol.164

ロンボクだより(110):晴れ着を新調したけれど(岡本みどり)

2024年04月08日号 vol.163

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2024年04月27日

いつも『よりどりインドネシア』をご愛読いただき、誠にありがとうございます。 2…