よりどりインドネシア

2022年12月24日号 vol.132

2022年の警察が関わった事件を振り返る(松井和久)

2022年12月24日 14:42 by Matsui-Glocal
2022年12月24日 14:42 by Matsui-Glocal

2022年は例年にもまして、インドネシアで警察が話題となる年だったような気がします。とくに、7月に起きたミステリアスな警察官射殺事件が、8月になって、国家警察長官から、実は警察高官による計画殺人だったと発表され、インドネシア国内で大きな話題となったことが象徴的です。

それ以外でも、10月のマラン・カンジュルハン競技場でサッカー試合終了後に場内へ入り込んだ観衆へ向けて警察が催涙弾を発射し、パニック状態となった観衆が出口に殺到して135人が亡くなった事故でも、警察の対応が問題視されました。さらには、11月になって、違法採掘を見逃す返礼として多額の資金を地方警察から中央の警察高官へ上納しているとの暴露発言が飛び出しました。

こうした事件の連続に合わせるかのように、賭博や麻薬密売を警察が仕切っているといった情報も、かなり大っぴらに流れていたのが印象的です。そうした話は、これまでも噂レベルで話されてはいましたが、真偽は別にして、シンジケートの警官・関係者の詳しい相関図までもがSNSに流れました。

いったい、今、インドネシアの警察では何が起こっているのでしょうか。過去にも電子身分証明証関連機器汚職など、様々な事件が起こってきましたが、2022年の様々な事件は、警察の内部で高官どうしが叩き合いをしているかのような動きに見えるのです。はっきりいえば、警察としての一体感が保たれているのかどうか、ちょっと心配になる事態ではないかと推察します。

1998年5月のスハルト政権崩壊後、民主化と合わせて、それまで国軍の中に含まれていた警察は独立しました。同時に、国防治安機能と社会政治機能の二つを果たしていた国軍の二重機能が廃止されるとともに、国軍は国防、警察は治安を担当し、政治には口出ししないプロフェッショナルな組織となりました。警察は日本の交番制度なども参考にしながら、市民警察の性格を強める一方、テロ対策も担うこととなりました。

その後の警察高官人事をみると、テロ対策で名を挙げた人物や犯罪捜査に秀でた人物が昇進していきました。前号でも若干触れましたが、現在のリストヨ(Listyo Sigit Prabowo)国家警察長官は2014~2015年にジョコ・ウィドド大統領の副官を務めた、大統領の信頼が厚い人物です。リストヨは、また州警察長官などを務める自分の先輩を差し置いて国家警察長官に抜擢されました。そうした人事上の性質も、彼の警察掌握能力に影響を与えている可能性もあります。

本稿では、2022年に警察絡みで起こった様々な事件を時系列で見ながら、それらの事件の間に何らかの関係があったのかなかったのか、考えてみたいと思います。一見、何の関係もないように見える事件が、その後起きた事件と実は関係していた、といったようなことが見えるだろうか、という興味です。筆者には小説を書く能力はありませんが、もしかすると、誰かが小説に書けるような流れが見えてくるのではないかと思ったりしています。

これらの事件に直接、または間接に最も多く関わっている、主人公的立場にいるのは、計画殺人事件の容疑者であるフェルディ・サンボ(Ferdy Sambo)です。どんなふうに彼が関わっているのか、以下、みていくことにします。

インドネシアの警察官。(出所)https://www.merdeka.com/peristiwa/kapolri-sebut-personel-polisi-di-ri-terbanyak-nomor-2-di-dunia.html

(以下に続く)

  • BEP社をめぐる問題
  • 計画殺人事件
  • コンソーシアム303
  • カンジュルハンの悲劇
  • 違法採掘問題再び
この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

続・インドネシア政経ウォッチ再掲 (第61~65回)【全文無料掲載】(松井和久)

2024年04月23日号 vol.164

ジョコウィ大統領とファミリービジネス:~カギを握るルフット海事投資調整大臣~(松井和久)

2024年04月08日号 vol.163

確定集計結果の発表と新政権へ向けての政局 ~プラボウォ安定政権へ向けての2つの道筋~(松井和久)

2024年03月23日号 vol.162

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)