よりどりインドネシア

2022年09月22日号 vol.126

ガンジャルは第2のジョコウィになれない ~闘争民主党の大統領候補をめぐって~(松井和久)

2022年09月22日 23:32 by Matsui-Glocal
2022年09月22日 23:32 by Matsui-Glocal

5年に1度実施されるインドネシアの大統領選挙。次回は2024年で、2期目を迎えた現職のジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領は、大統領の任期を最長2期10年と定めた憲法の規定により、大統領に立候補することはできません。インドネシアは2024年に新しい大統領を迎えることになります。

コスト削減を目的に、2024年の大統領選挙は、国会(DPR)、地方代議会(DPD)、州議会(DPRD Provinsi)、県議会(DPRD Kabupaten)・市議会(DPRD Kota)の議員選挙、および一部の州知事、県知事・市長の選挙と一緒に実施され、2024年2月14日に投票が行われます。

インドネシアでは正副大統領候補ペアを選ぶ形での大統領選挙ですが、同ペア含むすべての立候補者が決定するのは、2023年11月25日です。法律では、国会で定員総数の20%以上の議席数を持つ政党または政党連合が正副大統領候補ペアを立候補させられるとしています。現状では、与党第一党の闘争民主党のみが単独で正副大統領候補ペアを出せるのですが、それ以外の政党は他党との連立する必要があります。このため、従来のケースをみると、立候補者決定期限のギリギリまでなかなか正副大統領候補ペアが決まらない可能性があります。

誰が大統領候補になるか決まるまでには、まだまだ1年以上もありますが、様々な機関の世論調査によると、上位3名が人気の面で他者を引き離しています。その3人とは、ガンジャル(Ganjar Pranowo)中ジャワ州知事、プラボウォ(Prabowo Subianto)国防大臣、アニス(Anies Baswedan)ジャカルタ首都特別州知事です。政党でいうと、ガンジャルは闘争民主党、プラボウォはグリンドラ党(党首)、アニスは無所属、です。ちなみに、現職のジョコウィは闘争民主党です。

ガンジャルとプラボウォは現政権に近い与党系と位置づけられます。他方、アニスは無所属で、元々は私立大学の学長も務めた政治学者で、第1次ジョコウィ内閣で教育文化大臣を務めたのですが、その後に更迭、続いてジャカルタ首都特別州知事選挙に立候補して以来、イスラム勢力からの支持を受けるようになり、現在の政治地図上では野党系と位置づけられます。

左からガンジャル、プラボウォ、アニス。(出所)https://fin.co.id/read/100961/Kini-Elektabilitas-Anies-di-Atas-Prabowo-Subianto-dan-Ganjar-Pranowo

多くの世論調査では、ガンジャルとプラボウォが1・2位を争い、アニスが3位となっていますが、副大統領候補の誰と組むかの組み方次第で、アニスが大統領選挙に勝つ可能性が大きく高まる、とみられています。

しかし、この3人が最終的に大統領候補となるかどうかは、現段階ではまだ分かりません。とくに、与党第一党の闘争民主党が誰を大統領候補に指名するか、それは果たしてガンジャルなのか、というあたりが微妙な情勢になっています。

人気投票で常に上位のガンジャルが立候補しない、できないといった事態が起こり得るのか。では、なぜジョコウィは立候補できたのに、ガンジャルはそうならない可能性があるのか。ガンジャルとその支持者たちは第2のジョコウィを目指して動いてきたのですが、ジョコウィとは何が違うのか。今回は、その辺りの話をしてみたいと思います。

●ガンジャルとはどのような人物か

ガンジャルは1968年、中ジャワ州カランアニャール県で生まれ、2013年8月以来、2期目の中ジャワ州知事を務めています。父親は警察官で、家は裕福でなく、苦学しながら国立ガジャマダ大学を卒業しました。大学在学中に、スカルノや民族主義の影響を受けたインドネシア国家学生運動(GMNI)に加わりましたが、それが政治の世界へ関わるきっかけになりました。

ジャカルタの民間企業数社を転々とした後、スハルト政権の介入によって生じた1996年のインドネシア民主党(PDI)内部抗争を通じて、親が警察官であるにもかかわらず、反政権の立場を採ったメガワティを支持、その縁で後に闘争民主党(PDIP)へ入党しました。

ガンジャルは2004年総選挙の際には国会議員候補になれませんでしたが、在韓国大使に任命されたPDIP所属議員の代わりに国会議員になりました。2013年4月まで国会議員を2期務めた後、中ジャワ州知事選挙に立候補して当選、現在まで中ジャワ州知事の座にあります。

このようにガンジャルは、基本的にPDIP所属の政党政治家としてのキャリアを積み、普通の国会議員から中ジャワ州知事になりました。国会議員時代には、中銀からの資金供与や電子身分証明証に絡む汚職疑惑で取り沙汰されたこともありましたが、立証までには至っていません。それでも、2022年に再び国会議員時代の汚職疑惑で汚職撲滅委員会(KPK)から呼び出されています。

ガンジャルが一躍世間の注目を集めたのは、2014年4月27日、中ジャワ州知事としての電撃視察の様子を映した次の動画でした。

ガンジャルは、過積載等のトラックの重量を計る運輸局検査所を突然訪れ、その場で正式の額より低い金額の現金を職員がトラック運転手から違法に取る現場を押さえてしまいました。動画ではその様子に激怒するガンジャルの姿が映し出されました。

その後も、様々な不正に対して怒りまくるガンジャルの動画が次々にアップされ、不正を許さない確固たる態度が人々に好印象を与えました。ガンジャルのイメージはこれらの動画で作られたといっても過言ではないと思われます。ガンジャルは庶民の味方、という言説ができ上っていったのでした。

こうした動画のアップの背景に、大統領選挙への立候補を見据えたガンジャル自身の政治的野心や戦略があったかどうかは定かではありませんが、こうしたイメージ形成によって、ガンジャルが大統領候補となることへの期待を人々が膨らませた面があると思います。

メガワティ党首(左)とガンジャル(右)(出所)https://politik.rmol.id/read/2021/11/12/511422/jika-megawati-jeli-kejayaan-pdip-jilid-dua-bisa-dicapai-dengan-capreskan-ganjar-pranowo

●ジョコウィと何が違うのか

庶民的というイメージから、巷では、ガンジャルを第2のジョコウィとみる見方も散見されます。そして実際、ガンジャルを大統領候補に担ぎたい勢力は、ジョコウィが辿った軌跡を相当に意識してガンジャルのイメージづくりを行っている印象があります。

しかし、ガンジャルはジョコウィとはかなり違っているように思います。

第1に、政党(PDIP)への関与の度合いが異なります。ガンジャルはPDIP所属の国会議員を2期、中ジャワ州知事を2期務め、PDIPのなかで大きな役割を果たしてきました。現在に至るまで、政党にどっぷりと浸かった政治家であり続けています。他方、ジョコウィは、大統領となった現在でもPDIPの一般党員に過ぎず、党内でも役職に就いていません。地方首長や大統領に立候補するために便宜的にPDIPと言っているのかと思うほど、日常的にPDIPを意識させる言動は聞こえてきません。同じPDIP党員ではあっても、その関わり方の濃淡に大きな違いがあり、それが大統領候補になれるかなれないかの重要な要素であると考えます。

第2に、ガンジャルは中央政界から地方政治へ移ってきたのに対し、ジョコウィは地方から中央政界へ移っていったことです。ジョコウィの政治経験で最も重要なのは、地方首長として行政府全体を仕切り、実際に政策を立案して動かした経験です。今の大統領のポジションでもその経験は生かされており、事業の意味や有効性、期限、ノルマなどが重視されています。もっとも、地方政府で有効なやり方で国家レベルでも有効なのかどうかについては、疑問の余地はあります。一方、ガンジャルは中ジャワ州知事として地方首長の経験を持っていますが、ジョコウィがソロ市やジャカルタ首都特別州で行なった先進的な行政改革を行ったという話は聞こえてきません。

第3に、バックに有力な政治家がついているかどうか、ということです。ソロ市長時代のジョコウィは地元の有力者とは密な関係でしたが、様々な業績を上げるジョコウィをジャカルタ首都特別州知事選挙に立候補させるべく動いたのは、PDIPではなく、ユスフ・カラでした。ジョコウィはその行政改革の業績で中央政界から目をつけられていたのです。そして、ジョコウィを大統領にするため、ユスフ・カラは副大統領候補としてジョコウィとペアを組んだのでした。一方、ガンジャルには、ユスフ・カラのような存在がいるのでしょうか。ガンジャルのPDIP色が強いがために、まだPDIP以外の有力な政治家がバックに付いていないように見えます。

PDIPへの関与の濃淡、地方首長としての行政改革実績の有無、支援する有力な政治家の有無。これらがガンジャルとジョコウィとの違いを表しています。

(次に続く)

  • 闘争民主党の大統領候補を決めるのはメガワティ党首
  • 新たな地方行政の旗手だったルストリニンシ
  • ガンジャルは党を飛び出せない
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