よりどりインドネシア

2022年07月09日号 vol.121

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第45信:ジョコ・アンワル作品試論(その2)~神をも恐れぬ男が恐れること~(轟英明)

2022年07月09日 22:56 by Matsui-Glocal
2022年07月09日 22:56 by Matsui-Glocal

横山裕一様 

コロナ禍は過去の出来事になってしまったかのような昨今、ようやく映画館が通常営業に戻りました。私の地元チカランにはシネコンが4ヵ所ありますが、すでにどこも完全に営業を再開し、定員制限もなくなりました。ただ、スタッフをコロナ禍の間に解雇したからなのか、明らかに人員が足りてない様子で、上映開始直前にシネコンに到着した場合、予想以上に待たされる経験をしています。

観客の入りは作品によってバラバラではありますが、それほど悪くない印象です。日本よりも先に公開が始まった是枝裕和監督の韓国映画『ベイビー・ブローカー』を観た時などは客席100人超くらいの小さなスクリーンでしたが、8割方席が埋まっていました。上映中そして上映後の観客の反応からは、韓国人俳優の浸透度の高さと是枝作品への観客の信頼をそれとなく感じることができて、日本人として誇らしく且つ嬉しくなりました。

前回に続き今回も取り上げる、ガドガド・ホラー2.0の傑作にしてジョコ・アンワル監督の集大成的な作品『呪いの地の女』(Perempuan Tanah Jahanam)ポスター。filmindonesia.co.id より引用。

さて、前回第43信は突然のPCトラブルで尻切れトンボな終わり方となってしまい、本当に申し訳ありませんでした。実は今回も、数日前まで細菌感染で高熱になり数日寝込んでいたのですが、この原稿を再開した現在は、完全に回復しました。今回こそは最後まで完走したいと思います。

目下のところガドガド・ホラー2.0の最高傑作と私が高く評価している『呪いの地の女』(Perempuan Tanah Jahanam、以下『呪い』と記す)について、前回ではその技術的なビジュアル面を主に取り上げ、純粋に映画の質そのものが高いことに言及しました。B級・低予算・早撮りが当たり前だったガドガド・ホラーという不当に貶められてきたジャンルを、アカデミー賞インドネシア代表作品のレベルにまで引き上げた功績については、何回強調しても足りないほどのものです。今回は『呪い』という物語の構造を分析したうえで、さらにジョコ・アンワル監督の過去作や脚本や出演のみ担当した作品も交えて、これまで以上に突っ込んで論じていきます。

繰り返しとなりますが、論旨の展開上、ネタバレはどうしても避けられません。彼の映画内で繰り返し描かれる、流血と虐待と阿鼻叫喚の地獄絵図はたしかに観客を恐怖に陥れますが、しかし、それは表向きのこと。彼が本当に描きたいと思っている恐怖とは何かにまで迫りますので、怖いのは苦手で遠慮したいという読者はここで引き返していただければと思います。前回第44信でご自身が何に恐怖するのかしないのか、冷静に分析された横山さんなら問題は全くないと思いますので、ジョコ・アンワルが拘泥しているテーマとは何か一緒に考えていただければ幸いです。

**********

『呪い』の導入部の素晴らしさについては前回で述べたので、それ以降のあらすじについて以下紹介していきましょう。

謎の男に殺されそうになったマヤは、親友のディニと伝統市場の一角でアパレル販売をしていますが、資金繰りに窮しています。しかし、あの謎の男が出身地の村を何度も確認していたことから、自分が幼い頃にその村からジャカルタへ引っ越してきたことを思い出し、幼い自分とすでに亡くなっている両親が写っている写真を見つけ出します。写真の背景にある豪邸が両親のものなら、自分にはその遺産を受け取る資格があるはずで、それを売却すれば今のビジネスの苦境から脱出できるはず、とディニに語るマヤ。こうして二人は、マヤ自身が完全に忘れていた故郷、ジャワ島の辺鄙なハルジョサリ村へ向かいます。

(⇒出発前、マヤは謎の男に傷つけられた箇所から・・・)

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