よりどりインドネシア

2021年10月08日号 vol.103

ロンボクだより(54):家族と会うまで(岡本みどり)

2021年10月08日 23:07 by Matsui-Glocal

(編集者注)本稿は、2021年9月7日発行の『よりどりインドネシア』第101号に所収の「ロンボクだより(52)」からの続きです。2018年に起きたロンボク地震の記憶をつづります。なお本稿は202111月発行の『よりどりインドネシア』第105号に続く予定です。

家の中は、たった一夜が過ぎただけなのに砂埃でいっぱいでした。取り付けていた扇風機が上から落ちて壊れています。もう使えないでしょう。裸足では足を怪我しそうだったので、土足のままでタイルの上を歩きました。姑がいたであろうテレビの前は何も危険物はありませんでした。これならたぶん姑は落下物に当たるなどの怪我はしていないはずです。

とにかく家族を探さないと・・・。私は一番持ち出したい毛布、寝袋、家族と自分の着替え、家族の歯ブラシ、携帯の充電器を探すことにしました。ありがたいことに、机の上に出しっぱなしにしていたノートパソコンは、少なくとも外見上は壊れていませんでした。そのままクッション性の高いケースにいれて机の下に保管しました。

次は、毛布と寝袋を・・・と思ったのに見当たりません。なんで?おかしいな? 寝袋と毛布は前震のあとで「もしものときのために」とまとめて玄関近くに置いていました。あの後使ったっけ?と思いながら娘のクローゼットへ。

クローゼットの中も荒れていました。地震の揺れで畳んでいた服の山が崩れているのではなくて、誰かが数枚の服を抜き出したような崩れ方です。それで、私は勘づきました。

「そうか、主人が避難先から帰宅して毛布や服を取り出したんだ!ってことはもう家が無事なことも知ってるんだ!」。泥棒の線は考えませんでした。あちこち引っ掻き回した形跡はなく、必要なものだけ手早く持っていったように見えたからです。ドアにちゃんと鍵がかかっていたのにも合点がいきました。意外と家族は近くにいるのかもと少し希望が持てました。

私はマタラムで購入したお米は家に置いていくことにしました。重かったですし、みんなでひとところに集まっているのなら5キロのお米があったところで役に立たなさそうです。ほかに当面不要そうなものは家に残し、必要なものをリュックに詰め、ジャージに着替えました。迷いましたが足は運動靴にして、ビーチサンダルをリュックにつめました。何かと便利な薄手の大きな布(バリ島のビーチでよく売っている、畳一枚分ほどの布)もいれました。余震を避けてなるべく早く家から出ます。さ、いざ家族探し、出発。

って、どこに行ったらいいねん。

**********

夫は昨晩の地震直後に通じた電話で、「ブキット(丘)に行くつもりだ」と言っていました。丘って・・・。私の家の周囲には大小合わせるといくつかの丘があります。どの丘なんやろ・・・。

でも、私は覚えていました。以前、バンサル港からの帰り道で、たまたま「津波が来たらこっちへ逃げる」と方向を示した標識を見つけたことがありました。そのとき、夫と「『こっち』って随分大雑把な表現だけど、あなたならどこへ逃げる?」と話したのです。夫の答えは「津波なら市場の裏の丘だなぁ」でした。市場の裏の道をまっすぐ歩くと墓地があり、そこをさらに進むとこのあたりで一番高く大きな丘があるらしいのです。

なぜ「らしい」なのかというと、その丘は仏教徒たちの集落だからです。見たかんじ丘のような雰囲気はあるけれど、私たちイスラム教徒は普段足を踏み入れることのない地域なので詳しいことは知りません。聞いたことはあるけれど、未知の丘。その丘に・・・家族がいるかも。

目ぼしいところがそこしか思いつかないので、まずはその丘を目指すことにしました。我が家から市場までは歩いて5分もかかりませんが、その裏手はけっこう遠くまで道が続いているように見えていました。遠いのかなぁ。近かったらいいけれど・・・。体力はまぁまぁ自信があったので多少歩くのは問題ないのですが、「家族に会うまであと何分、何時間、何日かかるのかがわからない」という状況は地味に精神的なストレスになっていました。

家族と再会した丘からさらに移動した別の丘、モントン・クチェンゴッ。これは本震から1年後の2019年5月に撮影。本震当時は避難に懸命で、写真を撮る余裕はなかった。

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