よりどりインドネシア

2021年10月08日号 vol.103

ボゴール夜の植物園をめぐって(松井和久)

2021年10月08日 23:07 by Matsui-Glocal

ボゴールといえば、オランダ植民地時代から有名な避暑地で、国内有数の降雨量を記録する雨の街でもあります。ジャカルタ首都圏への農産物の供給基地にもなっています。近年は、ジャカルタ首都圏の衛星都市として人口が増加し、以前のようなのんびりしたスンダ族の街という雰囲気はなくなってきました。

ボゴールの中心市街地の真ん中に位置するボゴール植物園(Kebun Raya Bogor)は、ボゴールを代表する名所です。筆者も客人の案内や家族旅行などで何度か訪れました。平日は車に乗ったままでざっと見ることも可能ですが、しっかり見るならば、やはり足で歩くのが一番です。でも、とても2~3日ですべて見られるようなものではありませんし、訪問する時期によって、開花する植物の種類や数も変化します。でも個人的にはじっくり熱帯を感じられる大好きな場所です。

入場料は3万ルピアで、土日・祝日ともなれば、大勢のピクニック気分の家族連れで園内は大賑わいです。ボゴール植物園は、手頃な行楽地としても人々に愛されているのです。

このボゴール植物園の「夜の植物園」事業をめぐって、賛否両論が起こっています。ボゴール植物園は、アメリカやシンガポールなど海外で一般的なグロウ(GLOW: Garden Lights & Ocean Waters)と呼ばれる、LED照明を使った新たなライトアップ・プログラムを導入したのです。GLOWプログラムと呼ばれ、現在、土日の午後6時から9時20分、1日当り1グループ50人で6グループを受け入れる形で実施しています。

これに対して、ボゴール植物園の歴代園長らが「夜の植物園」事業の中止を求めて、反対運動を行なっています。Change.orgを通じた反対署名も集めており、10月7日時点で2万人余の署名が集まっています。その一部からは、公共施設の商業化への懸念も示されています。

ボゴール植物園の「夜の植物園」事業はどのようなものなのか、同事業はどのように運営されているのか、歴代園長はなぜ同事業に反対しているのか。今回はそれらの点を見ていきますが、そのまえに、ボゴール植物園の歴史を簡単に振り返っておきたいと思います。

ボゴール植物園の「夜の植物園」、GLOWプログラム。(出所)https://travel.kompas.com/read/2021/08/01/073600727/5-tips-wisata-ke-glow-kebun-raya-bogor-pakai-baju-putih

●ボゴール植物園略史

ボゴール植物園は1817年に開園しましたが、それ以前は、15世紀のスンダ族の王国時代に作られた、希少な樹木の種苗を保護する人工森林だったと言われています。

1800年代初め、英蘭戦争の影響でオランダ東インド会社が解散後、イギリス東インド会社からラッフルズ副総督がジャワ島に派遣されました。ご承知のとおり、ラッフルズは動植物学や歴史学などに多大な興味を示し、世界最大の花とされるラフレシアやボロブドゥール遺跡の発見、『ジャワ誌』(The History of Java)の刊行などで知られています。ボゴールの邸宅(後のボゴール宮殿(Istana Bogor))に居住したラッフルズは、イギリスのキュー植物園から専門家を招き、邸宅の庭の一部をイギリス式の古典的な公園にしました。これがボゴール植物園の端緒となりました。

その後、ラッフルズが作った庭園とスンダ族の王国時代からの人工森林とを合わせた47ヘクタールの土地が1817年5月18日に植物園として開園しました。そしてオランダ領東インド各地から900種以上の植物が採集され、敷地内に植えられました。こうして、植物園は植物の採集・保全・研究センターの役割を果たし、植物園での研究から多くの(オランダ人)研究者が輩出されました。ボゴール植物園がオランダの植物学の発展を支えたと同時に、今のインドネシアの地における学問・科学発展の出発点になったといえるかもしれません。

日本軍政期の1943~1945年には、植物分類学者の中井猛之進が陸軍司政長官としてボゴール植物園の園長に就任しました。日本軍は植物園内の樹木を徴発しようとしましたが、中井ら運営側が阻止したということです。戦後、中井は1949年に国立科学博物館館長に就任しました。

インドネシア独立以降、財政難などの危機を乗り越えて、ボゴール植物園は国家科学院(LIPI)の管轄の下、東洋最大規模・最大栽植種を誇る植物園として運営されています。現在、87ヘクタールの敷地に1万5,000種以上の植物が栽植されています。

ボゴール植物園には5つの機能があります。すなわち、植物の保護、調査研究、教育、学術的観光、環境サービスです。とくに最初の3つは植物園として全世界共通の機能であり、堅持されるべきものです。

果たして、ボゴール植物園の「夜の植物園」事業は、これら5つの機能を高めるものとなるのでしょうか。それとも、逆に5つの機能を低下させてしまうものなのでしょうか。

(以下に続く)

  • ボゴール植物園の「夜の植物園」事業
  • 植物園の運営は民間へ委託
  • 歴代園長らによる批判
  • これからどうなるのか
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