よりどりインドネシア

2022年08月08日号 vol.123

彼らはなぜカンボジアへ向かうのか ~渡航、監禁、救出の背景~(松井和久)

2022年08月08日 19:36 by Matsui-Glocal
2022年08月08日 19:36 by Matsui-Glocal

2022年前半、カンボジアで監禁されていたインドネシア人が解放される、という報道が何度かありました。直近では、2022年8月6日の『コンパスTV』が外務省の発表として、これまでにカンボジア企業に監禁されていた129人のインドネシア人が救出され、そのうち12人が帰国する、と報じました。

https://www.kompas.id/baca/video/2022/08/06/12-wni-korban-penyekapan-di-kamboja-mulai-dipulangkan

カンボジアで監禁されたインドネシア人の救出は、今回が初めてではありません。外務省によると、2021年には119人を救出して帰国させました。2022年は1~7月までに合計で291人が監禁されており、そのうち133人が救出後、帰国したとしています。カンボジアでのインドネシア人の監禁自体は、2021年より前から起こっていた様子です。

それにしても、なぜカンボジア、なぜそれほど多くのインドネシア人、なぜ監禁、なぜ救出、と、当初はたくさんの「なぜ」を感じざるを得ない事件でした。

普通に考えると、高収入を求めて海外へ出稼ぎするならば、中東、マレーシア、香港、台湾、そして一部は日本などへ向かうのに、どうして彼らはインドネシアよりも低所得国であるカンボジアへ行ったのでしょうか。しかも、決して多くはないものの、少なくもない人数です。そして、100人以上もが監禁されるとは一体何事なのでしょうか。さらに、それを救出しなければならないというのは、いったいそこで何が起こっていたのでしょうか。

ASEAN外相会議に出席するためにカンボジアのプノンペンを訪れていたルトゥノ外相は8月3日、それまでに監禁状態から救出された62人のインドネシア人の若者たちと面会し、彼らから直接事情を聞きました。彼らは、カンボジアで高収入の仕事があるという情報を知り、カンボジアへ渡航したものの、当初の情報とは大きく異なる仕事内容・条件に驚きます。しかも、そこから逃げ出すことができない環境に置かれていました。インドネシア政府は、彼らを国際人身売買の被害者と認識し、カンボジア政府と協力して救出に当たったのでした。

以下では、まず、8月3日のルトゥノ外相との面会で彼らが語った話からみていくことにします。

カンボジアの企業の宿舎で救出・帰国を待つインドネシア人。(出所)https://www.kompas.id/baca/internasional/2022/07/30/wni-tertipu-terus-berulang

●どのようにカンボジアへ渡航したのか

カンボジアで監禁されていた若者たちは20~30代で、学歴は高卒が大半でしたが、大卒も含まれていました。大卒者はコンピュータ工学、技術工学、経済学などを学んだ者でした。出身地は、北スマトラ、西カリマンタン、ジャカルタ、西ジャワなどでした。

彼らは、カンボジアでの求人情報をフェイスブックなどのSNSや友人・知人から聞いて知りました。インドネシア人のリクルーターも暗躍していました。

求人情報に示された職種は、システムエンジニア、財務、事務職員、カスタマーサービス、技術者などで、カンボジアのスタートアップ企業、Eコマース企業、投資会社などの求人情報でした。オファーされた給与は月1,000~1,500米ドルで、固定オフィスに縛られないノマド・スタイルでの勤務とされました。

コロナ禍で収入機会がなくなっていた彼らにとって、この求人の内容は魅力的なものでした。彼らはSNSに示された人事担当者にコンタクトし、必要書類を整えると、カンボジア渡航用のパスポートと航空券がわずか2週間で用意されました。その他の手続も3日で終わり、複数人で一緒にカンボジアへ向かいました。その際、彼らは人事担当者に「雇用契約書や招聘状はどうなっているのか」と尋ねましたが、人事担当者は「今は要らない。手続はカンボジアに到着してから行う」と答えました。この間、彼らは一切費用負担がなかったので、不信感は抱かなかったとのことです。

カンボジアのプノンペン空港に到着すると、彼らはイミグレを通らず、他の乗客とは別の出口から空港外へ出ました。そこから車に乗せられ、シアヌークビルへ向かいました。求人情報を出した企業は、シアヌークビルの柵で囲まれたコンプレックスの高層ビルのなかにありました。柵の入口の前で、彼らを連れてきたエージェントと企業側の人間との間で、あたかも売買取引交渉のようなやり取りが行われているのが車のなかから見えました。このとき初めて、何かおかしいと気づきました。

エージェントと企業側の人間との交渉が終わると、カンボジアに渡航した彼らは高層ビルのなかへ入り、その後の2ヵ月間、そこから外へ出ることはありませんでした。

●約束とは異なる仕事と雇用環境

実際の仕事は、約束されたシステムエンジニア、財務、事務職員、カスタマーサービス、技術者ではなく、インドネシア人を相手にインターネット経由で仮想通貨への投資商品を販売することで、それは詐欺の片棒を担ぐオペレーターとして働くことでした。また、顧客勧誘のほかに、TinderやWhatsAppにニセのプロフィールを作る仕事などもしました。朝8時から夜中の午前1時まで働き、与えられたノルマを達成することを厳しく求められました。

常に監視され、ノルマを果たせなかったり失敗したり、反抗したりすると、罵られたり、暴力を振るわれたり、カバンを燃やされたりしたこともあったといい、相当なストレスとプレッシャーを感じていたようです。また、場合によっては、本人の同意なく、いきなりシアヌークビルから別な町の他社へ売り飛ばされる者もいました。

彼らが「使い物にならない」と判断されたり、企業から逃れようとしたりすると、企業側は、本人または家族に損害賠償額として3,000~5,000米ドルの支払いを要求しました。こうして彼らは、事実上、その世界からは逃れられない監禁状態に置かれたのでした。

今回、彼らが救出されたのは、企業側の隙を見て在カンボジアのインドネシア大使館へ連絡し、またSNSで自分たちの惨状を発信できたためのようです。7月下旬、カンボジア警察が企業内に踏み込んで、彼らは救出されたのでした。しかし、救出されたのは企業内にいるインドネシア人の一部に過ぎず、まだかなりの数のインドネシア人が取り残されているということです。

(以下に続く)

  • 今も続いているカンボジアへの求人
  • なぜカンボジア、なぜシアヌークビル?
  • 国内でのオンライン賭け事の隆盛

 

 

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