よりどりインドネシア

2019年12月23日号 vol.60

プンチャック・シラットのユネスコ無形文化遺産登録に寄せて(早田恭子)

2019年12月23日 11:51 by Matsui-Glocal
2019年12月23日 11:51 by Matsui-Glocal

2019年12月13日、コロンビアの首都ボゴタで開催中のユネスコ無形文化遺産保護条約政府間委員会より、インドネシアが申請していた「プンチャック・シラットの伝統」とマレーシアによる「シラット」をどちらも、「人類の無形文化遺産代表的な一覧表」(通称:ユネスコ無形文化遺産)に登録するとの発表があった。ユネスコに提出された各種資料からは、関係者の時間をかけた準備と努力が読み取れ、それが報われたことは素直に喜ばしい。また、ここに至るまでに費やされた時間や労力にも敬意を表したい。

●ユネスコ登録への道のり

記憶をたどれば、インドネシア側が「ユネスコ無形文化遺産登録」を言い出したのは2014年頃のことだったように思う。世界プンチャック・シラット連盟(PERSILAT)とインドネシア・プンチャック・シラット協会(IPSI)の会長を長く務めた、エディ・ナラプラヤ氏(88歳)の発案だったはずだ。

まだ会長職にあった時代に、彼は、競技としてのプンチャック・シラット(通称:競技シラット)の普及に邁進し、最終目標をオリンピック競技採用としていた。その流れの中で日本にも「日本シラット協会(当時。現在は一般社団法人日本プンチャック・シラット協会)」が1996年に設立された。さらに2000年代に入ると、アジア・オリンピック委員会(OCA)の国際大会実施規約に、選択競技として競技シラットが記載されるに至った。その結果、第1回アジア・ビーチゲームズ(開催地:バリ、2008年)で、実際に競技シラットが実施され、これが2018年の第18回アジア大会(開催地:ジャカルタ・パレンバン)に繋がった。

そして、2010年に30年務めた2団体の会長職を辞した後(後任の会長はプラボウォ・スビアント氏・現職)、今度は文化としてのシラット(あるいはプンチャック・シラット)の後押しを熱心に行うなかで、ユネスコ無形文化遺産登録というアイディアが出てきたようだ。2014年にジャカルタのホテルにおいて、「Pencak Silat Road to UNESCO」というイベントを開催している。

(出所)友人から送られてきたもの。

その後、ユネスコへの申請に関して続報が入って来ないなあ、と思っていたところ、2017年5月にパリのユネスコ本部のホールにてシラット・イベントを行う、という情報が入った。しかし、このイベントはIPSIが主体ではなく、インドネシア・プンチャック・シラット・コミュニティ(MASPI)という別の団体が主導していた。

MASPIは様々なシラットグループや実践者が集まる、西ジャワ州バンドゥン市を拠点にしている団体で、競技シラットとは若干距離を置き、伝統武術あるいは身体技法・舞踊としてのシラットの継承を中心に据えている。2015年には第1回国際プンデカール(シラットの達人)という、演武フェスティバルのようなイベントを開催したり、メンバーが欧米など諸外国にてワークショップを実施したりするなど、ユネスコ登録に向けて熱心に広報活動していた。

しかし、ユネスコへの申請窓口となるのは、各種団体ではなく国・政府である。しかも1ヵ国が単独で申請できるのは2年に一度である。

インドネシアは2017年に南スラウェシの伝統帆船、2018年にマレー伝統詩文(マレーシアと共同申請)の申請を計画していたため、シラットが申請されるのは早くて2年後だった。その2019年における申請が内定したからこそ、ユネスコ本部におけるパフォーマンスで審査に向けてアピールすることが目的の一つだったようである。


(出所)筆者撮影。

(出所)筆者撮影。

ちなみに、このパフォーマンスは、現地パリ在住インドネシア人のシラットグループ、インドネシアから渡仏した2グループによって行われた。渡仏した2グループの1つがMASPIである。渡仏にあたってはバンドゥン市の支援を得ていたようだ。

(以下に続く)

  • マレーシアとの定義の違いとそれぞれの申請
  • 個別の申請・登録に対する困惑
  • 対立よりも対話を
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