こんにちは。ロンボク島は雨季がほぼ終わり、ようやく島内の名山・リンジャニ山も山開きとなりました。今回は、そのリンジャニ登山への、現地女性の参加/不参加をめぐって考えたことを書いてみます。
リンジャニ山の山頂でご来光を拝む筆者
ロンボク島で青年海外協力隊の活動をしていたころ、私は、なんとしても派遣期間中にリンジャニ山に登りたいと思いました。
早速、当時勤務していた保健センターの同僚を誘ったところ、栄養課の男性職員3名と歯科医の女性1名が「一緒に登りたい」と手を挙げてくれました。ところが、数日後、歯科医の女性から「登山に参加できなくなった」と告げられました。
「どうして?」
「母さんがダメだって」
「えっ、なぜ?」
「男性と一緒だから・・・」
そうか、彼女は独身だからなぁ。同僚との登山といえども、泊りがけでは親は心配するわけか。
一瞬、「わかった」と言いかけましたが、「いや待てよ」と私の頭のなかで別の声がしました。
彼女は30代の一人前の大人で、保健センターでの勤務のあとは、自宅で歯科医として開業していました。結婚・離婚歴もあります。
私は、「あなたはとっくに自立しているのに親の意見に従うの? 親を敬うのがイスラム教の教義なのはわかるけど・・・」と言いたい気持ちでいっぱいでしたが、堪えました。
当時まだイスラム教徒ではなかった私が、言ってはならぬことのように感じられたからです。そして、「わかったよ、また今度ね」と伝えました。
結局、この登山計画は、栄養課にほかの大きな予定が入ったことでお流れになりました。
一緒に登った友達と、スガラアナッ湖で撮影。背景の山は2016年に噴火したバルジャリ山。
私はその翌年に、マタラム大学の学生たちと念願のリンジャニ登山を果たしました。ところが、その中に一人、女子学生がいたのです。一緒に登山をしている学生の一人と交際中なのだそう。
私は思い切って尋ねました。「ねえ、ごめんなさい。あなたは彼と一緒に登山に参加することをご両親に咎められなかったの?」
彼女はあっけらかんと、「親には嘘をついた」と笑いました。あはは、世界中どこでも親に反発して嘘をつく子はいるのね。私は少し安心しました。
その後、数年間をロンボク島で過ごし、様々なシーンで親の意見と対立しながらそれぞれの選択をする若者たちを見てきました。
「親の許可がもらえなかったので行けません」という若者をみては、「イスラム教で親を敬うのはいいことだと思うけど、もう少し子どもを信じていろいろなことをさせてやってもいいんじゃない?」と残念な気持ちになりました。
けれど、よくよく見てみると、イスラム教の家庭でなくても、親からダメと言われることはあるし、それに対して素直に従う子、つっかかって喧嘩する子、大学生の彼女のようにそっと嘘をついてうまくやる子など、いろいろだなということもわかりました。
自分自身を振り返っても、反対されたことに泣いて抵抗したこともあるし、あっさり自分の意見をひっこめたこともあるし、何年も粘って粘り勝ちしたこともあります。それぞれがそれぞれの考えでもって親の意見をとおして自分と向き合っているだけのこと。
「まったく、これだからイスラムの家庭は厳しいよね」と宗教観と結びつけていたのは間違いだったのだな、と今は思っています。
(岡本みどり)
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