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2017年10月22日号 vol.8【無料全文公開】

「マドゥラ州」設立は認められず(松井和久)

2020年04月18日 13:09 by Matsui-Glocal
2020年04月18日 13:09 by Matsui-Glocal

10月19日、東ジャワ州マドゥラ島にある4県の夢である「マドゥラ州」設立の望みがいったん絶たれました。4県は、地方行政法における新自治体設立の規定が憲法違反にあたると訴えてきましたが、憲法裁判所はその訴えを退けました。

問題となった新自治体設立の規定とは、地方行政法(法律2014年第23号)の第34条と第35条にあるもので、新たに州となる場合には、その領域に最低5県・市の存在が条件となる、というものです。マドゥラ島には、バンカラン県、サンパン県、パムカサン県、スムナップ県の4県しかなく、この条件を満たしていないのです。

しかし、マドゥラ島の4県は、地理的に一体の島としてまとまっていること、ジャワ島から海で隔てられていること、文化的にもジャワ文化とは異なること、などを理由に、当該規定は憲法違反の可能性がある、と訴えたのです。

憲法裁判所は、当該規定は時の政府と国会によって決められたものであり、憲法違反には当たらないとしました。また、新州を設立するとしても、4県がその設立コストを負担できるかどうか疑問であり、新州が自立的に経営できるだけの産業基盤が乏しいとも判断されました。

スラマドゥ大橋

●マドゥラ島とマドゥラ人

東ジャワ州に属するマドゥラ島は、州都スラバヤとは海を隔てた近い場所にあり、2009年にスラマドゥ大橋が開通して、マドゥラ島の開発が一気に進むとの期待が高まりました。マドゥラ島内に大規模な工業団地や港湾を造成する計画も発表されました。しかし、現在に至るまで、マドゥラ島の開発は進まず、農業と製塩業が主産業のままとなっています。マドゥラの塩はとくに有名です。

マドゥラ人の人口はインドネシアの全人口の約3%に当たる約700万人で、種族別ではジャワ人、スンダ人、バタック人に次ぐ第4位に位置する主要種族です。しかし、マドゥラ島内での産業が乏しいため、東ジャワ州やカリマンタン島南部などへの移住者が多いのです。

20数年前、東ジャワ州中部の伝統市場を歩いていると、聞こえてくる商人の言葉はジャワ語ではなくマドゥラ語でした。東ジャワでは、マドゥラ商人が経済の末端で物を動かしている主要アクターなのだと認識しました。また、スラバヤの廃品回収業者の多くはマドゥラ人で、全国に散らばる同業のマドゥラ人ネットワークがあると言います。

また、2001年には、中カリマンタン州サンピットで、地元民のダヤック人とマドゥラ人移住者との間で紛争が起こって同州全般へ広がり、500人以上が死亡、10万人以上のマドゥラ人が家を失うという悲惨な事態も起こりました。

マドゥラ人は真っすぐで、感情が前面に出るなど、温和で感情が前面に出ないジャワ人とは対照的なイメージで語られます。その一方、敬虔なイスラム教徒が多く、日常生活や社会活動では、ナフダトゥール・ウラマなどイスラム社会団体に連なる宗教指導者(ウラマー)の影響力を今も強く受けています。

●依然として「マドゥラ州」設立を目指す

もっとも、人口の多いマドゥラ人が主要種族だからといって、マドゥラだけを地方行政法の新自治体設立既定の特別扱いとするわけにはいきません。また、仮にマドゥラ州設立を認めてしまうと、全国に多数ある同様の動きを抑えることが難しくなります。

実際、新自治州設立にはコストがかかり、国家予算への負担が増加するため、中央政府は、たとえ条件を満たしていても当面は新自治体設立を認めない方針を今も堅持しています。

こうした意味で、今回の憲法裁判所の判断は妥当といえるものです。しかし、マドゥラ島の4県は「マドゥラ州」設立を諦めたわけではありません。

5県・市という条件を満たすべく、スムナップ県が自県を2つに分割することを検討するとの報道も出ています。経済開発にとって分割が望ましいというよりも、新州をつくるために分割するというのは本末転倒であり、中央政府には受け入れがたいものです。

スムナップの中心部にあるモスク 

●意外にまとまりのないマドゥラ4県

もっとも、マドゥラ島の4県は「マドゥラ州」設立では声を揃えているものの、開発政策や政策協力で決してまとまっているわけではありません。州都スラバヤに近いバンカラン県にインフラ開発計画が集中している一方で、東端のスムナップ県はそれから取り残されています。一つの島でありながら、4県でまとまって開発政策を行っている様子は見られません。

マドゥラ島の4県のなかで、中心となる県がないことも大きな特徴です。4県ともほぼ同じ規模で、4県をまとめる求心力が働かず、常に4県間で競り合っている状況にあります。マドゥラ人のホームグラウンドとはいえ、それ以外の要素でまとまって、島として自立する方向性で統一がとれていないのです。

州都スラバヤなど、島外との経済的関係が強いなかで、マドゥラ島だけで閉鎖的に考えているだけでは、おそらく望ましい開発を進めることは難しいでしょう。それでも、マドゥラ島の将来について危惧し、新しい行動を起こそうとしている若者たちがいることを知っています。彼らの今後の活動もしっかりと見守っていきたいと思います。 

(松井和久) 

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