まだ行ったことのない外国へ行くとき、「向こうの人は何を食べているのだろうか」と思いませんか。
食べ歩きが大好きな私も、22年前、初めてアフリカのナイジェリアへ出張する際、何を食べているか想像がつかなくて不安でしたが、「でも、必ず何か美味しいものを食べていることは間違いない」と開き直ったものです。実際、ナイジェリアでは、主食のヤーム(ヤムイモ)やガリ(キャッサバ)をとても美味しくいただくことができました。
インドネシアの主食といえば、もちろん米ですよね。現在、9割以上の人口が主食として米を食べています。でも、1970年頃のインドネシアでは、主食に占める米の比率は50%前後でした。なぜこんな変化が起きたのでしょうか。
それは、いわゆる「緑の革命」によるものです。高収量品種の稲を大々的に導入し、化学肥料・農薬を組み合わせ、米の生産を大きく増やし、米の自給を達成、1984年に当時のスハルト大統領はその功績を認められて、国際食糧機構(FAO)から表彰されました。
米は近代化の象徴でもありました。米を食べることが進歩と人々に捉えられたのです。その結果、多くの人々が先祖代々なじみのある元々の主食を食べなくなり、米を食べるようになっていったのでした。
もっとも、インドネシアのどこでも米が作れるわけではありません。とくに、インドネシア東部地域の島々では、今も米作りに適さないところが多々あります。そういったところで、人々は何を食べてきたのでしょうか。
今回は、スラウェシ島の南東に浮かぶワカトビ列島の一つ、カレドゥパ島で、2009年5月に食べた、そこでの主食「カソワミ」をご紹介します。
いったい、どんな食べ物なのでしょうか。下の写真から想像できますか。
●キャッサバからできたカソワミ
カソワミというのは、キャッサバの加工品です。カレドゥパ島には水田がなく、米を生産していないので、米はすべて外からの移入です。カレドゥパ島の住民の主食はこのカソワミで、島のあちこちで見事なキャッサバを栽培していました。このカソワミには、大きく3種類があるようです。
上写真の左はカソワミ・オンロオンロ、右はカソワミ・キキリ、とカレドゥパ島では呼ばれています。ワカトビ列島で一般的なカソワミはカソワミ・キキリですが、カレドゥパ島では、カソワミ・オンロオンロが主に食べられています。
●カソワミの作り方
カソワミを作るには、まず、キャッサバを切って、よく洗います。 カソワミ・キキリはその後、キャッサバを砕いて圧力をかけて水分を飛ばします。さらに、特別な道具を使ってそれを細かくし、ココナッツの葉で編んだもので包んで蒸します。
一方、カソワミ・オンロオンロは、キャッサバを洗った後、キャッサバを砕いたものを型に入れ、一晩海水に浸します。そのあと2日間、天日で乾かします。さらに、乾かしたものを薄く削って、真水に浸し、圧力をかけて蒸します。カソワミ・オンロオンロはほのかに塩味がして、それだけでもおいしいものでした。
カソワミは、三角錐の上から手でむしり取って、それを野菜やスープと一緒に食べます。食べる要領は、米を手で食べる時と同様です。下の写真には、切り身魚を揚げたもの、パパイヤの花芽炒め、野菜実だくさんスープ、別な魚の揚げ物、が見えますね。
●黒いカソワミ
この2つのカソワミ以外に、カソワミ・ビルというのがあるようです。作り方はほとんど同じですが、天日乾燥させるときに色が黒くなるまで乾燥させるところが違います。 ビルはインドネシア語では青色のことですが、現地のカレドゥパ語では黒色を指します。
余談ですが、南スラウェシ州のトラジャやカジャンでは、黒は基本となる色(カジャンでは「すべての色は黒から始まった」と信じられ、身に着ける衣服は黒一色である)ですが、カレドゥパ島での色をめぐる言葉の違いにも何か意味があるのかもしれません。
●離島だが、食糧難とは無縁
カレドゥパ島を含むワカトビ列島は、米ではなく、イモの世界でした。そして、1997~1998年に米の不作でインドネシアが全国的に食糧危機と大騒ぎしていた頃も、キャッサバやイモを主食とするここでは、食糧難とは無縁の生活が営まれていました。
離島だから食糧を運ばなければ、という話ではなかったのです。そんなワカトビ列島ですが、「農業省のプロジェクトを受けて水田を作りたい」と考える役人もいるのです。
●カレドゥパ島特産のイモがもう一つある
もう一つ、カレドゥパ島にはカノと呼ばれるイモがあります。ある人によれば、これはカレドゥパ島の固有種で、6種類あるということです。
このカノが栄養的にどのようなイモなのかは、素人の私にはよくわかりません。でも、このカノでつくったチップスは、やめられない、止まらない、クセのない、飽きないおいしさでした。
案内してくれた地元住民組織の代表が言いました。「おいしいだろ? でも、お土産にはあげないよ。食べたければ、またカレドゥパに来いよ」。
はい、カレドゥパ島へまた行きます!
(松井和久)
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