よりどりインドネシア

2023年10月23日号 vol.152

インドネシア政治短信(5):ジョコウィ王朝化は進むのか ~長男のギブランがプラボウォの副大統領候補に~(松井和久)

2023年10月23日 17:11 by Matsui-Glocal
2023年10月23日 17:11 by Matsui-Glocal

10月19日、総選挙委員会(KPU)への2024年正副大統領選挙立候補ペアの届け出が開始された。現状のまま行くと、当初の予想通り、3組の正副大統領候補ペアで争われることになる。

有力大統領候補3名のうち、アニス陣営とガンジャル陣営は副大統領候補を決定し、KPUへの届け出を済ませた。アニス前ジャカルタ特別州知事は9月2日、副大統領候補にムハイミン国会副議長・民族覚醒党(PKB)党首を選んだ。この顛末については、『よりどりインドネシア』第149号所収の「インドネシア政治短信(4)」で詳しく触れた。また、ガンジャル前中ジャワ州知事は10月18日、副大統領候補にマフド政治国防担当調整大臣を選んだ。この2陣営の副大統領候補選定は、いずれも国内最大のイスラーム社会団体であるナフダトゥール・ウラマ(NU)による大票田の東ジャワ州での得票を勘案したものとみられる。

のこるプラボウォ国防大臣・グリンドラ党党首の副大統領候補だが、10月22日、連立を組むすべての政党党首の合意のうえで、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領の長男であるギブラン現ソロ市長とすることが決定された。もともと、プラボウォ陣営はギブランを副大統領候補とするべく水面下で様々に画策してきたが、正副大統領立候補者の法定最低年齢の40歳に満たないこと、ギブランが所属する闘争民主党はガンジャルを推していることなど、数々の制限をアクロバティックにクリアすることで、実現にこぎつけたのである。そして、この動きはジョコウィの了解なしには進められなかったと考えるのが自然である。

正副大統領候補選定に当たっては、ジョコウィ大統領自身が「予想もしないような動きがいくつも起こる」と意味深な発言を繰り返していた。それがあたかも予言であったかのように、プラボウォを推していた政府与党の民族覚醒党(PKB)のムハイミン党首が副大統領候補としてアニスと組むことになり、それを嫌った民主党がアニス支持を撤回してプラボウォ支持へ回ることで、アニスの野党候補性が消えた。さらに、法的にもまず不可能と思われたギブランがプラボウォと組む副大統領候補となる展開が生まれ、党員であるギブランが抜ける闘争民主党に大きな衝撃が走っている。

国家退役軍人の日の会合に出席したプラボウォ国防大臣(中央右)とギブラン現ソロ市長(中央左)。(出所)https://www.cnbcindonesia.com/market/20231018061701-17-481436/gibran-calon-kuat-cawapres-prabowo-segini-hartanya

ジョコウィ大統領自身は3人の誰を自分が推すかの明確な意思表示をしていない。これまで何度も指摘したように、ジョコウィにとっては、路線継承に忠誠を誓うガンジャルでもプラボウォでも、どちらでも安全牌であり、アニスだけは避ける姿勢だった。しかし、ジョコウィの長男ギブランがプラボウォと組むことで、以前からの噂のとおり、ジョコウィのプラボウォ推しの傾向がみえてきた。

様々な法的困難を乗り越えさせてでも、長男のギブランをプラボウォの副大統領候補にすることを認めたこと、さらに次男のカエサンが突如、連帯党(PSI)の党首となったことも含め、いよいよジョコウィ王朝が築かれる、民主主義の後退だ、との論調が表出し始めた。果たして、間もなく大統領を引退するジョコウィは、かつてのスハルトのように、やはり自分の家族による政治王朝を築こうとしているのだろうか。

以下では、ジョコウィがガンジャルよりもプラボウォを選好していると見られる理由、法的に困難なはずだったギブランが副大統領候補になるに至った経緯を振り返ったうえで、ジョコウィの政治王朝化の可能性を論評してみたい。

(以下に続く)

  • ジョコウィがプラボウォを選好する理由
  • なぜギブランは副大統領候補になれたのか
  • ジョコウィの政治王朝化の可能性
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