よりどりインドネシア

2023年07月23日号 vol.146

インドネシア政治短信(3):ジョコウィの忠実な継承者は誰か(松井和久)

2023年07月25日 00:29 by Matsui-Glocal
2023年07月25日 00:29 by Matsui-Glocal

正副大統領選挙の大統領候補者正式決定までにはまだ時間があるが、闘争民主党が推すガンジャル中ジャワ州知事、グリンドラ党首のプラボウォ国防大臣、野党であるナスデム党・民主党・福祉正義党が推すアニス前ジャカルタ首都特別州知事の3人にほぼ絞られた。現時点では、プラボウォを僅差のガンジャルが追い上げ、3番手のアニスの支持率が伸びない、という状況である。

ガンジャルとプラボウォは競っているが、両者の間にイデオロギー的、政策的な大きな違いはない。両者とも、ナショナリズムを基本とし、イスラーム勢力に対して融和的な姿勢を採る。ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領が選出された過去の選挙のような、対立をあおる誹謗中傷合戦やフェイク情報を交えた人格攻撃などが起こる気配は全くない。なぜなのか。

一緒に水田を視察したプラボウォ(左)、ガンジャル(中)、ジョコウィ(右)。(出所)https://www.thejakartapost.com/indonesia/2023/05/26/jokowi-still-wants-prabowo-ganjar-tie-up-projo-head.html

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それは、両者とも、ジョコウィ大統領の路線継承を唱えているためである。ジョコウィ人気は一向に衰えず、直近の数字で8割以上の支持率を記録する。この数字は、強権国家による言論統制や反政府活動家の摘発などを一切伴わない、純粋な世論調査結果の数字であることに驚く。当然、ガンジャルもプラボウォも、このジョコウィ人気を当て込んで、自分への支持・得票拡大へつなげたい。だから両者とも、ジョコウィ路線を継承することを声高に唱えるのである。

他方、ジョコウィ路線への批判、変革を唱えるアニスへの支持は広がっていない。過去の大統領選挙では、前政権の負の部分を一掃する新しい変化を求める流れが有権者の投票行動に表われるのだが、今回はそれがない。アニスは変化を唱えつつも、何をどのように変化させるのかを明確に語れていない。ジョコウィ政権への異様な高支持率が示すのは、国民は変化を求めない、ということである。

ジョコウィ人気に依存するのは、ガンジャルやプラボウォだけではない。大統領選挙と同時に行われる国会議員選挙等を戦う政党や候補者も同様である。議席争いもまた、ジョコウィ路線継承という、大きな枠のなかでの小さな争いに過ぎない。アニスや野党を除く皆がジョコウィ路線継承を唱えることで、政策論争は深まらず、候補者のイメージや地元での評判が当落を左右することになる。以上のことから、2024年の正副大統領選挙・議会選挙は、事実上の無風選挙となる公算が大きい。

ジョコウィ政権からすれば、インフラ建設、首都移転、下流産業振興戦略といった事業は、次期政権でも確実に進めなければならないものである。ジョコウィ政権の10年間は、インドネシアの政策の方向性を明確に変化させた。ジョコウィ路線の継承とは、その「変化」を継承することになる。「変革」を唱えるアニスや野党には、ジョコウィ政権に対する政策評価もなければ、オルターナティブな政策や政権構想の提示もなく、議論のできる状況からは程遠い。

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このような状況を作り出したのは、ジョコウィとその周辺である。それもかなり戦略的に作り出した感がある。ジョコウィは当初から、自分の政策路線を本当に継承できるのは誰かを吟味してきた。継承者としての特定個人を指名することはなかったが、ジョコウィ路線を継承する道筋をつくり、誰が後継大統領になってもジョコウィ路線を継承する以外に道はない状況を作り上げた。

ジョコウィとその周辺は、今に至るまで、ガンジャルもプラボウォも、ジョコウィ路線の継承者として信用することができていない。当初、ジョコウィの支持者らが大統領任期の延長や憲法改正による3選を主張し、ジョコウィが難色を示す場面があったが、ジョコウィ自身は、敢えてそうした議論を表出させて、それらの実現可能性を観測したのではないか。そして、ジョコウィへの支持率は高いものの、任期延長や3選には反対する世論が強いことを確認した。

では、ジョコウィ路線を継承できるのはいったい誰なのか。ジョコウィとその周辺は、消去法で対応した。

(⇒ まず、ジョコウィ路線を継承しない、現政権に批判的な・・・)

 

 

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