よりどりインドネシア

2022年09月08日号 vol.125

BOP層コミュニティを歩く(2013~2014年)(3):スラバヤでの家庭訪問(その2)(松井和久)

2022年09月08日 08:41 by Matsui-Glocal
2022年09月08日 08:41 by Matsui-Glocal

以下は、2014年2月に書いた文章です。この頃、いわゆるBOPビジネス支援という業務の関係で、ジャカルタやスラバヤの低所得層(以下、BOP層と記述)のご家庭を訪問することがよくありました。ちなみにBOPとはBottom of Pyramidの略で、BOPビジネスとは、途上国の低所得者層を対象とし、現地の貧困における諸問題の改善と利益確保の両立を目指す事業活動を指します。

もう10年近く前の話ですが、今、読み返しても、興味深い話が見受けられます。折に触れて、そのいくつかを加筆修正のうえ、再掲していきます。

**********

家庭訪問(2014年1月22日)

スラバヤ市ランカ地区のアリプ氏(30歳)宅を訪問

●アリプ氏について

東ジャワ州スラバヤ市の出身である。高校を卒業後、レンタルカー会社の運転手を務めてきたが、2013年7月にコンサルタント会社のオフィスボーイ兼運転手として臨時雇いとなったが、同年10月から職員として正規雇用になった。

アリプ氏と家族

家族は、妻のほか、生後6ヵ月の女児の3人である。現在は、妻の母親の家に居候している。

●世帯収入は最低賃金+残業手当

アリプ氏の収入は、スラバヤ市の2014年最低賃金である月額220万ルピア(約1万9300円)に残業代(おおよそ毎月50~90万ルピア程度)を加えた270~310万ルピア(約2万3700~2万7000円)である。

収入額だけを見ると、おおよそ年間収入3000米ドルという、BOP層の上限に近いところにいる。

アリプ氏は、オフィス勤務は土日が休みであるが、土日でも、要請があれば、自分でレンタカー業者と交渉し、車付き運転手として副業することもある。その場合には、1日で約10万ルピア(約870円)の収入を得るというが、その頻度は決して多くはない。

●子供のミルク代が重圧

アリプ氏の収入のほとんどは、女児のミルク代に消えている。女児は遺伝性のアレルギー症状があり、牛乳を受け付けないため、医師の指示に従って、豆乳など牛乳以外の特別のミルクを与えなければならない。

女児用の特別の高価なミルク

このミルク代が、1ヵ月に250万ルピア(約2万2000円)もかかる。アリプ氏の残業代がなければ、女児のミルク代も賄えない。残業代を含めた収入の残りである50~90万ルピアで、その他の支出をやりくりしなければならない。他方、妻は女児の世話で一日中家にいざるを得ない。

このため、食事などほぼすべてを妻の母親に頼る生活となっている。妻の母親は、父親と一緒に元ヤクルトレディであるが、今は近所に2軒の小さな鶏そば屋台を経営している。妻の母親はこの家で寝泊まりしているが、父親は屋台の防犯のため、この家で寝ることはないという。

●4畳半2間の小さな家に5人で居住

この家には、アリプ氏の家族3人と、アリプ氏の妻の母親、従兄弟の5人で住んでいる。家は4畳半程度の広さの部屋が2つあり、奥の部屋にトイレ兼沐浴場がある。

奥の部屋のトイレ兼沐浴場。

奥の部屋のロフト。右に見える階段を立てかけて、上階の「寝室」へ上る。

奥の部屋はロフトになっており、ハシゴを立てかけて上った上階がアリプ氏一家の寝室となっている。妻の母親と従兄弟は手前の部屋にマットレスを敷いて寝る。

手前の部屋と奥の部屋の境には冷蔵庫が置かれていた。

手前の部屋の棚。中央にテレビがあり、棚の中にはミニマートでもらった景品などが飾られている。

昼間は、手前の部屋がリビングのように使われている。棚の中の物以外には、余計な品物はほとんど見当たらず、食事も床に皿を並べて食べる形をとっていた。

家庭訪問で出された妻の母親の店の鶏そば。食卓テーブルや机などは何もない。

この家自体は、妻が子供の頃から住んでいた家である。長屋のような形で、隣近所が隣接して住んでいる。

表側では、プリペイド携帯電話用の度数や携帯アクセサリーを売っているが、これは妻の母親と従姉妹がやっている。

家の入口では携帯電話の度数を売る。

(以下に続く)

  • 妻の母親に頼る食事
  • 生活リズム
  • 家電製品など
  • 電気、水道、保健など
  • 所感

 

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