よりどりインドネシア

2024年02月07日号 vol.159

インドネシア政治短信(9):大統領選挙直前:いくつかの所感(松井和久)

2024年02月11日 21:30 by Matsui-Glocal
2024年02月11日 21:30 by Matsui-Glocal

2024年大統領選挙は、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領が2期10年を務めた後の新しい大統領を選ぶ選挙である。選ばれた大統領は2期10年を務めることになるかもしれない。インドネシアのこれからの10年を託す、どんなインドネシアになってほしいかを語り合う、未来へ向けての大統領選挙のはずである。

そんなことを思いながら、5回の候補者討論会を視聴した。今、最も優勢なのは、討論会で質問にまともに答えられず、他の候補の意見に「賛成」を繰り返し、挑発されると感情的になり、ジョコウィ路線の継承を唱えるもどのように継承するのかも語れない、討論会での評価が常に最下位のプラボウォである。5年前、現職のジョコウィに挑んだ際の討論会でのプラボウォと比べても、今回のプラボウォが成長した様子は見られない。

テレビ番組に出演した際、体を揺らして踊るプラボウォ(右)とそれを見守るギブラン(左)。(出所)https://kabar24.bisnis.com/read/20231202/15/1720301/citra-prabowo-gemoy-dan-cerita-kampanye-bongbong-marcos-di-filipina

質問に論理的に答え、自らの具体的な経験を交えた意見を述べ、感情的になることなく冷静さを失わず、討論を進められるアニスやガンジャルよりも、プラボウォの支持率がむしろ伸びるのが不思議である。候補者討論会は各候補者の能力を如実に示すものだが、明らかにそれは支持率の変動に影響を与えていない。むしろ、2人にやり込められるプラボウォが可哀そうという世論さえ、生み出されているのである。

プラボウォはすでに勝利を確信している様子である。すでに、支持政党の党首に対しては、次期政権での有力ポスト就任を約束し始めてもいる。自らの下でインドネシアが強国になる動きが始まっている、世界は我々をそう見ている、一刻も早く政権を担いたい、とすでに前のめり気味である。

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プラボウォと組んだ副大統領候補のギブランは、インドネシアをこうしたいという他者にはない何か強烈な思いが果たしてあったのか。なぜ所属する闘争民主党の反対を押し切ってまで副大統領候補になったのか。若い世代の代表を自称するが、それ以外に彼がインドネシアの将来をどこまで深く思っているのだろうか。本当にどうしても副大統領になりたいのだろうか。

ギブランは明らかに集票のためのコマである。ギブランの後ろには父親のジョコウィがいる。ギブラン自身の能力や政策手腕を買っているわけではない。ギブランと組むということは、ジョコウィの正当な継承者であるというイメージを確固たるものにする。よって、今回組んだプラボウォ以外の陣営も、実はギブランを取り込もうと動いていた。だから、今回の憲法裁判所絡みのギブランを副大統領候補にする流れは、プラボウォと組んだから批判されるのではなく、もともとあったのだ。ジョコウィは当初、息子が副大統領候補になることに対して批判的だったが、彼以外がジョコウィに忖度してギブランをコマにしたがった。ジョコウィ一家の政治王朝化は、ジョコウィ自身が望んでいたというよりも、ギブランをコマにして集票するという流れのなかで、ジョコウィに忖度した政治家たちが皆で作り上げたのである。

そして、政治家たちの忖度をジョコウィは逆に利用した。ジョコウィは特定の政党のみを利するような政治を行いたくなかった。自身の所属する闘争民主党の実を利する政治を行いたくなかったし、そもそも、一般党員に過ぎないジョコウィの闘争民主党への忠誠度は決して高くなかった。ジョコウィは自分に忖度するすべての政党や政治家の上に位置し続けた。そうした忖度によって、特定の政党に偏らない姿勢を示すことで、支持政党が自らジョコウィを忖度し、ジョコウィを崇めようとする、その神輿の上に乗っていた。政党や政治家は支持率を上げるためにジョコウィを担いだ。そこに見えるのは、政党政治ではない。

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(⇒ スハルトはその強権により・・・)

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