よりどりインドネシア

2023年04月23日号 vol.140

インドネシア政治短信(1):闘争民主党はガンジャルを大統領候補に指名(松井和久)

2023年04月23日 14:59 by Matsui-Glocal
2023年04月23日 14:59 by Matsui-Glocal

闘争民主党のメガワティ党首は、レバラン直前の4月21日、同党の大統領候補としてガンジャル・プラノウォ(Ganjar Pranowo)中ジャワ州知事を指名すると正式発表した。闘争民主党の大統領候補指名権は、最終的に党首に一任されており、メガワティ党首が自ら決定したのである。

当初、メガワティは実娘のプアン・マハラニ(Puan Maharani)国会議長を大統領候補にしたい意向を持っていたようである。しかし、これまでの数々の各種世論調査の結果では、ガンジャルが上位3人に必ず含まれている一方で、プアンは1%程度と全く振るわなかった。一時は、ガンジャルが大統領候補に意欲を見せるような発言をしたと見なされると党規違反で警告するなど、党中央はガンジャルに冷たく当たり、プアンの支持率急上昇を狙って巻き返しを図ったが、効果はなかった。それほど、ガンジャルへの支持率は高く、闘争民主党内でもプアンではなくガンジャルの声が強まっていった。

ボゴールのバトゥ・トゥリス宮殿にて、闘争民主党はガンジャルを大統領候補に指名。(出所)https://www.merdeka.com/politik/pdip-ungkap-pertimbangan-megawati-pilih-ganjar-jadi-capres-2024.html

メガワティは、ガンジャルが自身の所属する闘争民主党以外の政党から大統領候補対象者として名前が挙がっていることに苛立っていた。そして、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が後継者にガンジャルを示唆するような発言をしたことにも不快感があった。そこには、メガワティのガンジャルやジョコウィに対する強い認識がある。

すなわち、闘争民主党の党首であるメガワティからすると、ガンジャルもジョコウィも党員であり、自分の手下なのである。手下である党員は党のために尽くす者(petugas)であり、党の意向に従わなければならない。もっとも闘争民主党は実質的に「メガワティの党」のままで、メガワティの意向が党の意向となる。

ジョコウィ大統領は、一般党員でありながら、党(=メガワティ)の意向と異なる動きをすることが多かったかもしれない。しかし、ジョコウィ政権の与党第一党である闘争民主党の人気はジョコウィへの支持率で支えられている面が大きい。2014年の大統領選挙でメガワティが立候補を断念し、ジョコウィを立候補させたのも、そのためである。

今回のガンジャルでも、あの時と同じことが繰り返されたことになる。すなわち、闘争民主党が国会議員選挙や地方議会選挙で勝利するためには、ガンジャル人気を利用せざるを得ないからである。

●ガンジャルへの忠誠度試験

このため、闘争民主党党員にもかかわらず、同党以外の政党が推すガンジャルに対して、メガワティは闘争民主党への忠誠度を何度も試してきた。前述の党中央がガンジャルへ冷たく当たったのもそれである。プアンが中ジャワ州を訪問した際には敢えて州知事であるガンジャルには面会しないということもあった。

そして、忠誠度試験の最たるものは、国際サッカー連盟(FIFA)によるU-20ワールドカップ大会のインドネシア開催をめぐるガンジャルの見識だった。この大会はインドネシアが何年もかけて招致準備をし、国際的な地位向上のための実績にしたい重要イベントだった。また、不祥事が続き、大事故も起こした国内サッカー界の名誉挽回のためにも必須のものだった。

しかし、同大会には、予選を勝ち上がったイスラエル選手団が参加することになった。インドネシアはスカルノ初代大統領の時代からの非同盟主義に基づき、イスラエルとは国交を持たず、パレスチナ支持を貫いている。スカルノは1962年第4回アジア大会でイスラエル選手団の参加を拒否した過去がある。スカルノの娘であり、スカルノを追いやったスハルトの時代にスカルノの名誉回復を求めて政治運動に身を投じたメガワティ、およびその信奉者の集まりである闘争民主党は、党としてイスラエルを拒否することは当然だった。

他方、U-20ワールドカップ大会の開催は、サッカーの大好きな若者たちにとっては夢だった。彼らの多くは大統領候補としてガンジャルを強く支持していた。ガンジャルにとっても闘争民主党にとっても、若者票の取り込みは重要であり、闘争民主党以外へ支持を広げる機会でもあった。また、ジョコウィ政権は、治安面をしっかり確保することで、大会の実施へ向けた準備を進めていた。

ガンジャルはどうするのか。時に冷たく当たり、自身の大統領候補決定に否定的な態度を示す闘争民主党に従うのか。それとも、大統領候補として推す他の政党とともにあるジョコウィ政権の意向に沿って、U-20ワールドカップ大会の開催を認めるのか。所属政党である闘争民主党を選ぶのか、ジョコウィ政権に従うのか。これはまさに踏み絵だった。どうするガンジャル?

ガンジャルの答えは前者だった。数回にわたり、彼はイスラエル選手団の参加拒否を強く訴えた。ガンジャルは闘争民主党への忠誠を示した。メガワティによる忠誠度試験に合格したのである。

(以下に続く)

  • メガワティのトラウマ
  • U-20ワールドカップ大会開催中止とイスラエル拒否
  • これからどう展開するか
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