よりどりインドネシア

2017年09月07日号 vol.5【無料全文公開】

ジャカルタ湾の埋め立てプロジェクト問題(大島空良)

2020年04月18日 12:48 by Matsui-Glocal
2020年04月18日 12:48 by Matsui-Glocal

バリ島に行ったことがある人は“Tolak Reklamasi”という看板を見たことがあるかもしれません。

“Reklamasi”とは埋め立て、“Tolak”は拒否を表すインドネシア語で、「埋め立て反対!」という抗議活動を示す言葉です。埋め立ては今、バリ社会では非常に大きな問題となっています。

バリ島の埋め立ては、国際観光化に向けて、世界を回る豪華客船を停められるようにすることが目的なのですが、自然と神と人間のバランスを重んじるバリ島の信仰的な要素や洪水リスクなど、物理的な問題が絡んでいます。

現在、ジャカルタの北に位置するジャカルタ湾では、新規の埋め立てによってたくさんの島を造っていますが、様々な問題が現れています。

下記の記事は埋め立ての問題について述べた社会面の記事なのですが、これを少し掘り下げながら、私なりにこの問題を考えてみたいと思います。

http://news.okezone.com/read/2017/05/03/338/1682555/walhi-reklamasi-teluk-jakarta-timbulkan-banyak-masalah

●埋め立て構想はスハルト政権期から

ジャカルタ湾に17の島を埋め立てで作る構想は、スハルト政権期の1990年代から出されていました。1995年7月に大統領令が施行されて、埋め立ての構想が本格的に実現へ向けて動き始めました。

このプロジェクトは、それぞれの島を繋ぎ、鳥の形に見立てて、北ジャカルタの沿岸部を商業用、生活居住用などにエリア分けして管理することを目的としています。

その背景には、ジャカルタで年々、地盤沈下の影響から頻繁に洪水が起きるようになったため、海水が都市に侵食しないように、新しい水の流れの管理として土地を作ることが必要となったという側面がありました。このプロジェクトでは100万人分の雇用機会が創出されるため、各方面から期待がされた政策となりました。

●埋め立てプロジェクトの現状

現在、このプロジェクトは中央政府が主導権を握っており、海事調整大臣府と林業環境省の管轄によって進められています。さらに、ジャカルタ首都圏湾岸統合開発計画 (NCICD)の目玉として、国家開発計画省によって視察が繰り返されています。

51万ヘクタールの新規土地獲得、500~600兆ルピアという開発規模からすると、とにかく規模だけは大きく打たれているのが伝わるかと思います。

では、開発の状況を見てみましょう。以下の図で示したるように、プロジェクトの対象となっている17島はアルファベットで表されています。 

すでに正式な着工許可が降りている島と開発業者は、以下の10島です。 

  • C島 (276ヘクタール) PT Kapuk Naga Indah
  • D島 (312ヘクタール) PT Kapuk Naga Indah
  • E島 (284 ヘクタール) PT Kapuk Naga Indah
  • F島 (190ヘクタール) PT Jakarta Propertindo (Jakpro)
  • G島 (162ヘクタール) PT Muara Wisesa Samudera
  • H島 (63ヘクタール) PT Intiland Development
  • I島 (405ヘクタール) PT Jaladri Kartika Ekapaksi
  • K島 (32 ヘクタール) PT Pembangunan Jaya Ancol
  • L島 (447 ヘクタール) PT Pembangunan Jaya Ancol、 PT Manggala Krida Yudha
  • N島 (411ヘクタール) PT Pelindo

そして、まだ着工許可が降りていない島と開発業者は、以下の7島です。 

  • A島 (79ヘクタール) PT Kapuk Naga Indah
  • B島 (380ヘクタール) PT Kapuk Naga Indah
  • J島 (316ヘクタール) PT Pembangunan Jaya Ancol
  • M島 (587ヘクタール) PT Manggala Krida Yudha
  • O島 (344 ヘクタール) PT Jakpro
  • P島 (463ヘクタール)  PT Kek Marunda Jakarta
  • Q島 (369 ヘクタール) PT Kek Marunda Jakarta

 一つ一つの島については、様々な許可を申請中で全く進んでいない島、重機の搬入が完了していない島など、進み具合は異なりますが、細かい情報は省略します。

なお、この繋げられる17の島は3つのエリアに分けられる予定で、東側は港湾・工業地帯・倉庫エリア(深緑のP・Q)に、西側を居住エリア(黄色のD・E・F・I・J・L・M・N)に、中央部を商業エリア(薄緑のG)に分けるという前提で開発計画が作られています。

●開発の裏には黒い話も

上記の島々は、それぞれの担当会社が投資を募って開発を行うのですが、様々な黒い話が日々取り沙汰されています。

たとえば、G島を例に見てみましょう。開発を担当するPT Muara Wisesa Samuderaは2013年から大々的にG島の開発のために投資を募っていたのですが、実は政府から正式な許可を得ずに使途不明の投資金額を貯めていたとして問題になったばかりです。

この手の話はインドネシアの不動産において決して少ない話ではありません。

もし政府の言うことをそのまま聞くとすれば、大枠の開発コンセプトからどこか一社でも逸れてしまうと、計画そのものの根幹が揺るぐ事態にもなりかねません。由々しき事態であると思います。

●埋め立ての損失は予想を超える?

ジャカルタ湾保全連合(Koalisi Selamatkan Teluk jakarta)という団体は、ジャカルタ首都特別州政府に対して、この埋め立ての実施で1781億ルピアの損失が見込まれると報告をしています。しかし、伝統的漁民集団(Komunitas Nelayan Tradisional)という団体は、現実の損失はそんな程度の金額ではなく、概算に組み込まれていないところからもっと大きい損失が生じると警告をしています。

たとえば、もし、ジャカルタ湾に4カ所ある変電所でトラブルが起きた場合、その損失は毎時1261億ルピアに達するという調査結果もあります。

埋め立てによる主たる損失としては、漁業活動場所の縮小、洪水リスクの上昇、マングローブの損失、限られた電力供給の中での需要の急上昇、といった内容が考えられます。

現在、漁船などへの必要電力としては、ムアラ・カラン(Muara Karang)やムアラ・タワル(Muara Tawar)などの住宅地からの電力が使われているわけですが、もしも、この配線に支障が出ると、ジャカルタ市街のおよそ53%の電力に対して何かしらの影響が及ぶとみられています。

現状のインフラ環境では、こういった要素が累積すると考えられるため、埋め立てによるリスクは、予想を超えた計り知れないものとなるかもしれません。

これらについては、デンマークのコンサルタント会社であるDanish Hydraulic Institute (DHI) Water & Environmentにより2012年10月にまとめられたJakarta Bay Recommendation Paper という調査書に詳しく書かれています。

DHI Water & Environmentは、環境省から依頼されてこのプロジェクト評価を発表しているのですが、残念ながら、当のジャカルタ首都特別州政府では、これを叩き台として議論がされたことはないのです。

●最も整備の進んだとされるH島の状況

H島 (別称Pulau Tengah) は、別名インドネシアのモルディブとも呼ばれているところです。島の広さは10ヘクタールほどであり、42のヴィラが建設されました。

島の所有者は小売富豪の一人ヘンキー・スティアワン(Hengky Setiawan)氏で、Pulau H. Hengky Setiawanとも呼ばれています。呼び名が多い島ですね。

仮に、H島がこのままうまく行かなかった場合、ヘンキー氏はヴィラを売り払い、リゾートを建てる計画だそうです。

いくつかのヴィラは、すでに、ラフィ・アフマド(Raffi Ahmad)などの有名アーティストが所有しています。ここのヴィラは最低でも1棟110億ルピア以上で売られており、月々の管理費は1150万ルピアかかります。ただし、非常に高級な島ではありますが、付近には多くのサメがいると言われています。

リゾートとしては、環境面や法務面、政府許可から最も整備が進んでいると謳われる反面、すでにたくさんの家やホームステイ、ヴィラが建設中にもかかわらず、環境影響指標や建設許可が曖昧になっているところが実は多いのです。こういった問題に目が瞑られ、その裏では表に公開できないお金の流れがあるという話が絶えません。 

  

Foto: Liputan 6 & Kompas

構想から実現まで、牛歩のようにのろのろと続いているこの埋め立てプロジェクト。いったいどうなるのでしょうか。

このプロジェクトに限らず、政府の打ち出す政策というのはおよそ地に足がついていないことが指摘されるものが多いように思います。複雑な要素の絡み合うインドネシアの政策がこれから国にどう影響をもたらすか、これからも私なりに観察していきたいと思います 

(大島空良)

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