よりどりインドネシア

2023年12月09日号 vol.155

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第71信:浮気コメディからシリアスな夫婦ドラマへ 見事な着地を見せる『緊急着陸』(轟英明)

2023年12月09日 10:46 by Matsui-Glocal
2023年12月09日 10:46 by Matsui-Glocal

今回紹介する『緊急着陸』(Mendarat Darurat) アマゾン・プライムビデオ用ポスター。芸達者なレザ・ラハディアンと、インドネシア人女優の中でも飛びぬけた美貌のルナ・マヤが共演。大手制作会社MDピクチャーズの制作にしては、だいぶ攻めている内容かもしれません。imdb.comより引用。

 

横山裕一様

2ヵ月ぶりの往復書簡ですが、いかがお過ごしでしょうか。この間、個人的に所用が立て込み、少々お休みをいただきましたが、いろいろ目途がついたので、連載を再開したいと思います。気づくと2023年も終わりに近づいており、少し前までうだるような猛暑にウンザリしていたのがウソのように、ここ数日は寒さに震える毎日です。雨季と乾季はあっても、年間を通して寒暖の差がほとんどないインドネシアが懐かしい!

さて、連載再開に合わせて話題作や新作映画を紹介したいところですが、残念、タイミングや時間の問題もあって、今回それらの詳しい紹介は見送ります。ただ、横山さんが第62信で紹介した『スリ・アシィ』(Sri Asih)が今月15日から日本で劇場公開が始まります。配給会社としてはハリウッド大作のマーベルやDCと張り合うヒーロー連作ものとして当然ながら売り込みたいようで、本国でコケた作品が日本市場でどのように受け入れられるか、興味津々です。追って鑑賞後に、私の感想と観客の反応などを報告できればと思います。

『スリ・アシィ』日本版ポスター。https://www.cinematoday.jp/news/N0139399 から引用。

それにしても、日本語公式サイト https://sri-asih.com/ でBumilangitをなぜ「ブンミラゲット」と表記しているのか、若干謎です。公式サイトの情報は一応充実しているのですが、作品の英題表記が少なからず目立ち、ひょっとしてインドネシア語話者がしっかり関与していないのかも、と邪推したくなります。近年のインドネシア映画界では作品の量はもとより質も向上著しく、今後日本での公開作品が増えることは確実と睨んでいます。それだけに、インドネシア語あるいはその地方の言語を尊重した紹介を、配給会社にはくれぐれもお願いしたいものです。

**********

閑話休題。さて、今回何を取り上げるか、いろいろ思案しましたが、前々回までは結婚コメディを論じてきた流れで、比較的新しく且つ日本でもインドネシアでも観られる作品として『緊急着陸』(Mendarat Darurat)を紹介したいと思います。実は、第65信で少しだけ言及しています。横山さんはすでに鑑賞済みでしょうか。

『緊急着陸』は外形上結婚コメディ、あるいは浮気ものに分類される作品です。飛行機事故で亡くなったと思われた主人公が、実は浮気のおかげで生きていて、でも真実を話すには浮気の事実を妻と母親に打ち明けるしかない、さあさあどうする?!というアイデアそのものに、実はそれほど独創性や新味はありません。ところが、これがなかなかどうして、最後まで観客を引っ張る魅力のある作品なのですね。あまり期待しないで、なんとなくフラッと見始めたのが良かったのかもしれません。ともあれ、まずはあらすじ紹介から。

少し吃音ぎみのグレン(レザ・ラハディアン)とさっぱりした性格のマヤ(マリッサ・アニタ)は大学時代に知り合って意気投合、そのまま恋愛結婚したカップル。結婚から数年間はラブラブ状態だった二人ですが、最近マヤはグレンにガミガミガミガミ、「あなた、浮気していないでしょうね?」と厳しく問い詰めるのが日課となってしまいました。温厚なグレンもさすがにウンザリし始めた頃、職場の上司の浮気の片棒をかつぐことになり、同僚で親友のヤーヤ(パンジ・プラギワクソノ、監督と共同脚本も担当)の助言もあって、ちょっと気になる職場の同僚カニア(ルナ・マヤ)にアプローチし始めます。コーヒーブレイクの何気ない会話からから徐々に距離を縮めていく二人。

そんなある日、同僚のマラン出張代行を買って出たグレンは、出張のふりをしてホテルの部屋を予約、同僚の目が気にならないところでゆっくり話をしようとカニアに提案します。逡巡するカニアでしたが、最終的にOKと返信。昼食中に思わず「神の思し召しだ!」と叫ぶグレン。

当日の朝。何も知らない妻マヤより先に家を出て、ホテルにチェックインするグレン。部屋を訪れたカニアを招き入れ、ドキドキバクバク、二人が遂に一線を越えようとしたその瞬間、テレビニュースはグレンが乗るはずだった飛行機の墜落を報じているではありませんか!グレンは墜落した飛行機に乗っていたものとしてテレビで報じられたうえに、マヤとその友人たちにテレビレポーターが突撃インタビューする有様。搭乗時刻直前にマヤにこれから搭乗との伝言を送っていたため、カニアの存在を隠して真実を告げることももはや不可能です。さて、「生きるべきか死ぬべきか」ならぬ「死んでいるべきか生きているべきか」の難問に直面したグレンは、最終的にどんな選択をするのでしょうか?

(⇒ レザ・ラハディアンの芸達者ぶりについては・・・)

この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第79信:こういうオトナの恋愛映画を待っていた! ~倦怠期にある夫婦の危機を描く『結婚生活の赤い点』~(轟英明)

2024年04月23日号 vol.164

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽:第78信 多彩な言葉遊びで病みつきになる可笑しさ ~長寿コメディドラマ『オジェック運転手はつらいよ』から~(横山裕一)

2024年04月08日号 vol.163

往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第77信:理想の結婚式を求めて ~『ブライドジラ』と『元・花嫁』から探るインドネシアの結婚事情~(轟英明)

2024年03月23日号 vol.162

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2024年04月27日

いつも『よりどりインドネシア』をご愛読いただき、誠にありがとうございます。 2…