(編集者注)本稿は、2023年1月8日発行の『よりどりインドネシア』第135号に所収の「ロンボクだより(83)」の続きです。2018年に起きたロンボク地震の記憶をつづります。なお本稿は2023年3月発行の『よりどりインドネシア』第135号に続く予定です。
つい先程トルコで大きな地震がありました。一人でも多くの人々のご無事をお祈りします。今回は、私が地震後の生活で後悔したことを書きます。
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2018年9月3日。本震から30日。私たちの集落に赤十字が巡回医療サービスを届けに来てくれました。高齢者向けのバイタルチェックがメインで、脈拍・呼吸・体温・血圧などを測り、簡単な聞き取りを行っていました。何か気になる症状や違和感のある人は申し出て、必要なら薬をもらう流れです。
赤十字の巡回医療サービスの様子
ところが、いつまでたってもなかなか医療サービスが終わりません。よくよくみると、おじいさんおばあさんたちが長い間話しこんでいました。ありゃりゃ、いつもの井戸端会議じゃないんだから。
赤十字の人たちもほかに行かねばならぬところがあるだろうと、適当な頃合いで話を切り上げてもらうつもりで、義母をはじめみんなが話している場所へ近づきました。
それにしても一体何の話をしているのやら。みなの声にそっと耳を傾けると、自分たちの心身のことだけでなく、家の、家族の、地域社会のこれからを憂いていました。あれはどうなってしまうんだろう、これはどうなるんだろう・・・。
話している内容のほとんどが「不安感の訴え」だったのです。
「私たちが彼らの不安につきあってこなかったからだ」
地震のときは誰でも平時以上に不安になりがちです。私たちは子どものストレスに対してはかなり気を配ってきました。私のように労働年齢の大人であれば、不安はあっても毎日何かしらすることがあるので、ある意味、発散できました。でも、年配の方々は、それをじっと座って、我慢していたんだなぁ、
私は、私たちが年配者の心細さや不安な気持ちを十分に汲み取ってこなかった点を反省しました。
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さて。この頃、ちょうど私たちのところではデマが飛び交っていました。
多かったのは盗みに関するもので、「東ロンボクや中部ロンボクなどから盗みにやってきている」とよく聞きました。現に盗み自体はあったのですが、なにゆえ東ロンボクや中部ロンボクの人たちの仕業だと断定しているのか、私にはわかりませんでした。
それから、地震再来系の流言も多く、特に「今度の日曜日に地震がおこる」などと曜日や日付を指定したものは、それを信じた人々を震え上がらせていました。現代の科学技術では地震の起こる日を正確に事前予想できないんだよ、と言ってもききません。
デマなんて周囲の不安が増幅するだけでいいことが一つもないのだから、やめればいいのに。
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当時、私は、デマに辟易するものの、その発生も拡大も抑える術をもっていませんでした。それでもデマがよいものには思えなかったので、のちにどうしてデマが生じ広がるのかを調べました。
『デマの心理学』(オルポート、ポストマン著)によると、デマは重要さと曖昧さの積に比例して発生するそうです。さらに、その場の不安が大きいと広がりやすいとのこと。ある情報に接したとき、その情報がその人にとって「大事だけど不確かで、不安」であればあるほど、その情報は広がりやすく、いつのまにか情報がデマに飛躍してしまうのです。
不確かで不安なら広げなければいい、と私は思いましたが、それは私が「デマを広げるな」という忠告を何度も目にして気をつけているからこその思考です。本来、人は不安だからこそ、無意識に不安を正当化する力が働いて、デマを広げるのだと聞いて、仰天しました。
はぁ~、デマを流した本人は不安が正当化され安心するのか。デマにもいいことがあるんだ。
それでも、デマは個人の不安を和らげることはあっても、社会の不安を増したり誰かを傷つけたりする可能性があります。なるべく不安感を軽減してデマが広がらないようにしたいなぁ。
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不安を和らげたい気持ちでいっぱいなのに、その方法がまったくわかりません。年配者が赤十字の若いスタッフに次から次へと話し続けるほど蔓延する不安を、一体どうすれば緩和できるのでしょうか。
(⇒いい案は浮かびませんが、まるで・・・)
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